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星の光が届く頃  作者: 美月
第一章
14/36

兄上

 藤堂は鈴音の部屋を出ると診察室として使っている部屋の方へ向かった。診察時間はとうに過ぎているため患者はおらず、代わりに粕谷の他に土方がいて、二人で夕食を摂っていた。

「あの、土方さん。さっきはすみませんでした」

 藤堂は土方に頭を下げる。


 先程、診療所の前での出来事だ。

「とぼけないでください」

 土方を壁際に追い詰めた。

「鈴ちゃんの気持ちに、わざと気づかない振りをしてるんでしょう?」

「だから……?」

 藤堂に詰め寄られても土方は動じていない。土方のその態度が更に藤堂をイラつかせた。

「それが彼女を傷つけているんですよ」

「……そうだな」

「わかってるならどうして……!」

「どうして?」

 土方が藤堂を見下ろす。

「お前は俺にどうしろと?」

「……それは」

 言い淀んだ藤堂の肩に土方が手を置く。

「平助、気になるんだったらお前がどうにかしてやれ」

 それだけ言うと土方は先に診療所へと入って行った。


 藤堂は、土方が鈴音をハッキリ振れば、必要以上に鈴音が傷つくことはないではと思っていた。でもーー

「俺、間違ってました」

 本人が一番よくわかっていた。だから、鈴音を傷つけたくないのなら、そばで見守っていればいいのではないかと思った。

「俺も悪かったよ」

 土方が言った。

「平助。俺はアイツが可愛いんだ。俺は末っ子だったし、まぁ、試衛館に弟みたいな奴らはいるけど、妹ってのは初めてだったから。それがアイツを傷つけてたんだよな」

 土方は持っていたおにぎりを平助に渡す。

「ありがとな、平助」

「……いえ」

 藤堂はおにぎりを受け取って口に頬張った。


「……で?お前はどうしてそんなに鈴音を気にするんだ?」

 粕谷が尋ねた。

「好きなのか?」

 藤堂は少し考えたあと

「わかりません」

 と答えた。

「よく、わからないんです。ただちょっと……昔の知り合いに似てるような気がして、気になって」

 以前、山南に言われた時には「似ていない」と否定したが……。

「まぁ、どっちでもいいが……傷つけるなよ。鈴音のこと」

 土方の言葉に藤堂は迷わず言い返した。

「土方さんに言われたくない」

「ははっ、そりゃそうだ」

 粕谷が笑う。

「そういや平助、知ってるか?コイツ、18の時に奉公先の女中孕ませてクビになったんだぜ」

「えっそうなんですか!?」

 話題に食い付いた藤堂の頭を土方が軽く叩く。

「鵜呑みにすんな、平助。あれは相手の女のうそだったんだ」

「……なぁんだ。あ、でも、“そういう関係”だったんですね?」

「………………平助、今日は“どこに”帰るんだ?」

「あ、ズルい土方さん!話逸した!…………今日は、うーん……適当にします」

 藤堂は土方に睨まれ、質問に答えた。

「じゃあここに泊まっていったらどうだ?」

 粕谷が言った。

「いいんですか?じゃ、お言葉に甘えて」

「言っとくが、鈴音の部屋に忍び込むなよ」

 藤堂は土方に即答する。

「しませんよ。土方さんじゃあるまいし」


 ☆


 3日もすると鈴音はすっかり元気になった。大事を取ってずっと診療所で過ごしていたが、今日で終わりだ。診療所の部屋で荷物をまとめていると

「川に落ちたんだって?」

 鈴音を迎えに来てくれたアヤと原田が面白そうに尋ねる。

「それで藤堂さんに助けてもらったって言うじゃない。素敵ねー」

 アヤは胸の前で手を組んでうっとりしている。

「素敵……?散々よ。熱は出すし、父と母には大目玉だし」

「でも、藤堂さん。毎日ここに来てたんでしょ?いいなぁ」

「いいって……」

 アヤの言うとおり、藤堂は3日間毎日鈴音のところに来て、暇潰しにと、西遊記や三国志、忠臣蔵を面白おかしく話してくれた。それが楽しくなかったかと言えば嘘になる。

「それに、大川に落とした簪を探し出したって噂になってるぜ。平助もヤルなぁ。体張って口説くんだもんなぁ」

 原田までが言う。

「いやいやいや、口説かれた覚えなんてないですけど」

 鈴音が否定しても二人は勝手に盛り上がっている。相手にするのも面倒で、鈴音はまとめた風呂敷包みを持ち上げると、思った以上に軽く持ち上がった。

 見ると、土方が持ってくれていた。

「あ……」

 鈴音が寝込んでいる間にも何度か診療所を訪れていたようだったが、鈴音とは顔を合わせていなかったので、会うのは久し振りだ。

「おやじさんに頼まれたんだ。持つよ。送って行く」

「なーんだ。土方さんが来たんじゃ、私らはお役御免ね。原田さんに荷物持ちしてもらおうと思ったんだけど」

 アヤが言うと原田が

「じゃ、団子でも食って帰るか」

 と言った。

「賛成ー!」

 アヤがはしゃぎながら原田の腕にしがみつく。鈴音に手を振ると、二人でさっさと診療所を出て行った。

「騒がしい奴らだな」

 苦笑いする土方に、鈴音も頷く。

「じゃ、俺らも行くとするか」

「はい、………………兄上」

 鈴音の言葉に土方は一瞬目を見開いたが、すぐに荷物を持ち直し、歩き出した。鈴音もあとに続く。

 鈴音は、家に着いたら琴音とちゃんと話そうと思った。

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