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星の光が届く頃  作者: 美月
第一章
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天才と努力

「あ、おーい!鈴ちゃん!」

 三味線の稽古帰りに町を歩いていた鈴音は、名前を呼ばれて振り返った。呼んでいたのは藤堂だった。人混みをかき分けるようにして鈴音の方へとやって来るのが見える。

 藤堂は試衛館に行く以外の時は何をしているのか謎だが、時々こうして町でバッタリ会うことがある。

「一人?」

「はい。ちょっと居残りで……アヤちゃんは先に試衛館に行くって」

「頑張ってるね」

「……姉のように、とはいかないですけど」

 鈴音は照れたように笑った。試衛館に顔を出すのが楽しみで、でも、試衛館に行くようになってから更に腕が落ちたと言われるのが嫌で、鈴音は稽古に励むようになった。それに、腕が上がれば土方も見直してくれるのでは、なんていう期待も……。

「これから試衛館行くなら一緒に行こう」

 藤堂に言われ、鈴音は頷いた。


 ☆


 鈴音と藤堂が試衛館に着くと、子どもたちの元気な声が聞こえてきた。今日はちびっこたちも道場に来て稽古をしているようだ。彼らの相手は沖田がしている。

「あっ、藤堂先生!」

 藤堂が道場に入ると、稽古中の子どもが一人気づいて駆け寄ってきた。

「良かったー!沖田先生だと稽古がキツくて」

 続いて藤堂に気づいた子ども達が次々と駆け寄り、藤堂を囲んだ。

「わっ」

 鈴音は輪の外に弾き出された。

「沖田先生は強いけど、習うなら藤堂先生がいいや」

 子どもたちの言葉を聞いて藤堂は苦笑した。これでは沖田の立場がない。現に沖田は口を尖らせてむくれている。

「はは、子どもは正直だな」

 様子を見ていた土方が笑った。

「どういうことですか?」

「総司の剣の腕は天才的なんだ。だが、天才だから、出来ない奴の気持ちが分からない。だから叩きのめすばかりの稽古になりがちだ」

 反対に藤堂は天才ではないが、その分どうすれば強くなるか考えながら稽古をしてきた。だから教える時もどうすれば強くなるか、相手と一緒に考えながら稽古をすることが出来るのだそうだ。

「えー……じゃあどうして沖田さんが師範代やってるんですか?」

 明らかに向いていないではないか。

「教えるのも修行の一つなんだよ」

「ふぅん……」

 天才、と言えば姉の琴音の三味線もそうだ。習う曲を次々と吸収していく。そして確かに、教えることに関しては上手ではなかった。姉は沖田と同じ種類なのだ。 

 だったら自分は……?天才にはなれなくても、藤堂のように努力を重ねることは出来るだろうか。

 鈴音は子どもたちに囲まれて竹刀を握る藤堂と沖田を見つめた。


 ☆


「送ってくれてありがとうございます」

 試衛館からの帰り道、鈴音は藤堂に送ってもらうことになった。

 アヤは原田とさっさと帰ってしまった。

「いいんだよ。女の子の一人歩きは危ないからね。土方さんにも頼まれたし」

「……土方さんに……」

 最初に土方と会った時の印象は悪かったものの、義理の兄妹になることがわかってからは、土方の鈴音に対して少し過保護に感じる。それが嬉しいような、あくまでも妹としての扱いなのが寂しいような……。

「俺よりも土方さんの方が良かった、とか思ってる?」

 藤堂がいたずらっぽく聞く。

「……えっ、おっ、思ってません!」

 しかし、顔が赤くなるのは止められない。藤堂が可笑しそうに笑った。

「鈴ちゃんって分かりやすいなぁ」

「………そんなこと……」

 ない。とは言い切れないのが何だか悔しい。

「不毛な恋なんてやめてさぁ、俺にしとけばいいのに」

「はぁ?」

 本気なのか冗談なのか分からないことを言われ、鈴音は戸惑った。

「なぁんてね。どう?ちょっとはドキッとした?」

「……………してませんっ!」

 からかわれた……!鈴音は思いきり頬を膨らませた。やっぱり藤堂は変な人だ。

 今日の稽古を見て、藤堂のような努力家になりたい(沖田が努力してないとは思わないが)と思ったことなんて教えてあげないと思った。

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