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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第1章 迷い子と天使
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ソコハテ

両上腕を後ろから掴まれ、上半身を冷たく濡れたドアに押し付けられた。

掴まれたままの箇所は、血が止まるのではないかと思うほど締め上げられている。

突然の事に、首は左向きにむりやり曲げられた形になり痛め、頬はペンキが剥げ、中の錆びが見えていた劣化の凹凸によって汚れ傷付いた。

呻きが、真咲の口から漏れる。


真咲は、自身を掴んでいる腕を見て、驚く。

人の手ではなかった。

細く小さな女の手は、形、大きさそのままに、蒼い鱗でびっしりと覆われていた。

よく見るとそれは、爬虫類よりも魚の鱗に似ている。

一慨に蒼と呼んでも、その鱗は細かく、光が当たる角度によって水色から紺色の間の色を見せる。


「鱗……!?」


その真咲の驚き様に、女はわざと真咲から見える角度に首を傾けて、哂った。

流れる髪の隙間から、右の目周辺から額に掛けて鱗が広がった白過ぎる肌が見え、群青色の瞳が狂気を孕んで細められる。


(なに、これ、なんなの!?幽霊どころじゃない!悪魔?!)


恐怖と混乱が同時に襲いかかって来て、真咲はパニックになる。


「あなたは人間が嫌いな子だもの、私と仲良くなれるわ。私と同じにしてあげる。嬉しいでしょう?

人間を殺して回るの」


ひゅっと、喉が鳴る。

女の冷たく硬い手に、真咲の体温が吸い取られるように冷めていく。


「逃げましょう?ねぇ?返事をしてくれなきゃ哀しいわ」

「いたっ!」


女の爪の形が長く黒く変形し、真咲の柔い二の腕に食い込み、白い制服に血が滲む。

だんだんと、時間をかけて爪が肉を抉る感覚が恐怖を煽る。


「……わかった!わかったからやめて!」


返事をすると、満足そうに女は笑った。

手を離され、真咲はその場に自分を抱きしめるようにして崩れ落ちた。

爪で負った怪我は浅いらしいが、血は止まらずじくじくと痛み、頬は擦り切れ、首は痛くて別の方向を向けなかった。

なにより人間ではない者と、この場にいる恐怖が耐え難かった。


(これは、悪夢?現実?なんで、あたしがこんな目に遭うの!?)


真咲は、屋上に入り込んでしまった事を後悔するが、いまさらどうしようもなかった。

逃げるにしても、ドアは開かない。

痛みで首を左に傾けたままの真咲の前髪を、女は遠慮もなく掴んだ。


「うっ……!」


むりやり面を上げさせた女は、再び拒否権の無い質問を浴びせかける。


「ねぇ、名前は?」

「……桂、真咲」


名を教える事に危険を感じたが、教えなければ再び危害を加えられるのは明白だった。

両親に、悪魔というものがどれだけ怖ろしいかも幼い頃に教えて貰った。

しかし、両親が死んだ時、彼等が信じた神に疑問をもってしまった真咲には、負い目がある。

その神に、助けは求められなかった。

まして、祖父が祀っていた神にも。

悪魔かもしれない者の前に、真咲はただ無力だった。


女はくつくつと喉を鳴らし、真咲の髪をぞんざいに放した。

そして、空を見上げ大きく両の手を伸ばす。


「【選定者】ソコハテが謳う。偉大なる破壊の神、真実の神よ、照覧あれ!

私の補佐として『逃亡の世』に桂真咲を召し連れる御許しを!!」

「!?」


ソコハテと名乗った女の周りに金色の魔法陣が広がり、真咲の足元もその範囲に入った。

金の光が強くなり、目を開けていられずに瞑ってしまう。

すると、空中に投げだされた様な浮遊感の後、重力が体に掛かり、真咲は意識を失ったのだった。


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