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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第1章 迷い子と天使
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言われ慣れない感謝

真咲が少女に近寄ると、少女は胸を隠して後退る。

明らかに、怯えている。


どうしようかと、真咲はちらりと治療中の二人を見る。

翼有種の二人の服の作りは、長袖だが肩甲骨あたりで翼を出すために大きく開いており、布地を首の後ろの留め具で支えている。全体的に体に沿ったデザインだった。

男女ともに、腰から下は足首までのパンツで、靴はぺたんとした布靴。

衣装の基調色は、白。そこに赤い葉の刺繍、体の側部には緑色の布が使用されている。


(まぁ、翼があるから、背中はそうなるよな。そして翼があるから仰向けにもなれないのか)


少女は、下穿き一枚のみの姿だ。

側に落ちている服はぼろぼろで、もう着れないであろうと思われた。

屋内には、家財道具などもなく、体に巻きつけられそうなシーツやカーテンの類もなかった。

真咲は、自分の外套を見るが、先ほどの返り血がついてしまっている。

血が苦手だという翼有種でなくとも、血のついた衣服は誰でも嫌だろう。


(という事は……)


真咲は、頭から被るタイプの外套の留め具を外し、脱ぐ。

少女がさらに怯えている、真咲の行動に恐怖を感じているらしい。


「貴様!何をしている!?」


青年が真咲の行動に気付き、叫ぶ。

その時には、すでに上衣を脱いだ時だった。

真咲の身につけていた物は、全て男物。

この生成の貫頭衣は、真咲にも大きかったくらいだ、体の小さな少女が着れば太腿の半分までは隠れるだろう。


「……あなた、女性だったの?」


「うん、そうだけど?あ、背中を開けないと駄目だね」


少女の隣に屈む真咲が上半身に身につけているのは、胸を押さえつけているサラシだけだ。

呆然として、警戒心をいささか解いた少女に答えながら真咲は、パンツのポケットからナイフを取り出し、頭貫衣の肩甲骨付近に当たる場所に大きな穴を開け、少女に渡す。


「これで、我慢して」


「え、う、うん」


少女は、後ろを向くと上衣の大穴から足を入れ、上に引っ張り上げた後、大穴から首を入れて着ていた。


(あぁ、なるほど、そういう着方をするんだ)


真咲は素肌にサラシのまま外套を羽織る。


(変態くさいけど、仕方がない)


「……紛らわしい」


小さく、青年の不機嫌な声が聞こえてきたが、聞こえないふりをした。


「それで、大丈夫そうだね?」


「うん、ありがとう……」


戸惑いつつ、少女は謝辞を述べる。

まさか、感謝されるとは思っていなかった真咲は驚く。


「いや、あたしは……」


感謝される事の少なかった真咲は、戸惑ってしまう。


「……う、スブリマ様……?」


「サリーレ、気がついたか!」


真咲が、少女の方を向いていると、どうやら女性が気がついたようだった。

背後から聞こえる声に、少女はほっとしていた。

真咲も内心、安心した。


「良かった、サリーレ様もスブリマ様も、無事だなんて……。ありがとう、お姉さん」


涙を若草色の瞳に、今度は嬉しさの余りに溜め込んだ少女は、真咲の床に置いた鱗の浮かぶ拳の上に自分の手を重ねた。感極まった少女に対し、無表情を貫けなくなった真咲は、困ったように微笑した。


「サリーレ!?」

「ヘルバを離しなさい!!」


青年の慌てた声に、女性の警告。


「!?」


少女の方に気を取られていた為に、対応が遅れた。

肩膝立ちで支えにしていた左の足の平から甲まで、傭兵の男が残して行った剣が貫通していた。

上手く骨の間を抜けてしまったらしい。


上半身が鱗で硬化出来たとしても、下半身は鱗が生成出来ないのだ。

これが、真咲の能力の欠点だった。


「ぐっ……!!」

「お姉さん!」


痛みで傾いだ体をヘルバと呼ばれた少女が支える。

上腕の魔法陣が再び浮かび、割れたガラスのように弾けた。

真咲の上半身に浮かんでいた鱗が消えて行く。


足が疼く様に痛み、熱を帯びる。

痛みを堪え、歯を噛み締める。

痛みをやり過ごそうとするが流石に辛い。


(けど、頼るわけにはいかない……!!)


ヘルバに凭れかけた体に力を入れて、自分で支える。


「お姉さん……。すぐに治すからね」


ヘルバが真咲の足元へと回ろうと横座りの状態から立ち上がろうとする。

だが、ヘルバよりスブリマの方が先に真咲の足元に来ていた。


「ヘルバでは、これは抜けまい。この女の体を支えておけ、力を入れさせるな。刃が抜けにくくなる」

「はい!」


ヘルバが元の位置に戻り、意外と強い力で腕を引っ張られる。

スブリマにより両足も伸ばした状態にされた。真咲の体はヘルバに倒れ込む形になる。

真咲は抵抗せず、大人しくする事にした。


(……この状態じゃあ、意地を張ってもどうしようもなさそうだな)


力を抜くと、真咲が自覚していたよりも体が重かった。

真咲は首を回しスブリマの方向を見た。

彼の後ろにサリーレが見当たらない。


やっとこさ、翼有種の名前が出せました。


スブリマ:昇華の意味のラテン語スブリマトゥムより。

ヘルバ:草の意味のラテン語より。

サリーレ:跳ぶのラテン語より。

真咲の「咲」は桜が咲くの意味だったりします。

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