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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第4章 淀みと呪い
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話す事は

プラトムの言葉に真咲は、耳を疑った。


「神々と人間の戦争が始まったから」


「は?」


「未完成の世界では、神と人間が争い合っているんだ、信じられないだろ?」


「そんな、だって人間が神になんて敵うはずなんてないじゃない!?」


イイサン国の兵士が話していた内容にこんな話があったのは記憶しているが、プラトムが話した事によって真実味が増した。

けれど、破壊神の力を見た真咲だからこそ解る。

あんな大きな力を持つ存在に、人間が敵うはずないのだ。


「あるよ。人間が神ほどに力を手に入れられる方法が」


「まさか……」


真咲は、その方法を知っているのだ。

だって、プラトムはその為に危険な目に遭った。


「神族や高位の精霊の体を喰らう事。それが、神に匹敵する力を手に入れる方法だ」


「……それじゃあ、イイサン国は神に匹敵する力を手に入れようとしているという事なの?」


「解らない。でもいつかはそうやって神の力を身に付けた邪術士が出てくるだろうと思う」


「そんな!」


信じられない言葉を聞いて、真咲は頭がついていかない。

絶句する真咲に、プラトムは優しく声を掛ける。


「……といっても、まだきっと現状はそこまで進まないと思う。さぁ、歩きながら話そう」


「……うん」


がさがさと大きな音を立てて真咲は、枯葉を道から除ける。

肩を組んだ状態の二人で、枯葉が積もる坂道を下りるのは危険だと判断しての行動だ。

無心で何かやっている方が精神的には良かった。

坂道に溜まる枯葉は除けては少し進み、除けては進みを繰り返してる。

真咲が除去作業中、プラトムは、枯れ木にもたれかかり目を伏せていた。

肩が大きく上下しているので、浅い呼吸を繰り返しているのが解る。


(……やっぱり無理している感じがあるな。でも、坂道は今回の枯葉を除ければこれで最後だから)


「よし!これで大丈夫だわ。行こう、プラトム」


「……あぁ」


プラトムの右腕が真咲の肩に回り、真咲の左腕がプラトムの腰を支える。

真咲に、重みがかなり掛かるのだが、本人は気にしてはいない。


「翼が片方無くなると、こんなにも歩き難いんだな。元から俺は飛ぶのは苦手だったけど」


「……きっと、すぐに普通に歩けるようになるよ」


翼がなくなった事により、今までとっていた平衡感覚が崩れた事と、

血を失くし過ぎた事による貧血と、体力の低下、

そして精神的苦痛がプラトムを歩き辛くさせている原因だった。


「ねぇ、プラトム。しんどいのだったら無理に話さなくても良いのよ?」


「……無理はしてない」


「本当に?だって、さっきも木に寄りかかってたし、傷が癒えているとはいえ、体力は―」


「真咲!」


大きな声で名前を呼ばれ、真咲は身を竦める。

叱責かと思ったが、見上げたプラトムの顔には後悔の色が浮かんでいた。


「すまない……無理してでも、話させてくれないか?」


「どうして?」


「話していないと、余計な事が頭に浮かんできてどうしようもなくて……気が変になりそうなんだ。

だから、話して気を紛らわしたい」


苛立ちを含ませた泣きそうな顔。

苦々しげに吐露する心情は、真咲には完全に理解する事は出来ない。

けれど、真咲に出来る事なら、ある。


「……あたしが知らない事を教えてくれるんだったね。教えて欲しいな」


「真咲……」


真咲が話を促すとプラトムは、安心して頬を緩ませた。

ゆっくりと歩み出し、プラトムは語り出す。


「この逃亡の世界は、未完成の世界から逃亡して来た破壊神と真実神が作り出した世界だっていうのは知っているよな?」


「破壊神と真実の女神が作ったという事は知っているけれど、逃亡してきたというのは知らないわ」


「そうなのか。あの二柱も逃亡して来たから、逃亡したい者を助けてくれるんだ。

でも、この逃亡の世界は、二柱だけでは管理しきれない。

だから【管理者】と【執行者】がいる。

【管理者】はその名の通り、逃亡の世界を管理する者だ。破壊神から、独自の権限が許されている。

そして問題が起こった場合【管理者】だけでは対処できない事に、強制的に対処するのが【執行者】だ。

【執行者】は破壊神の破壊の力も与えられていて、【しらせ】も与えられている」


真咲は【執行者】の声を思い出す、抑揚のない低く美しい声音。


(でも、あの人、なんでプラトムの翼を持って来てくれたんだろう?

それに、兵士を一体、どこへ連れて行ったのだろう?

強制的な対処の為にやってきたという事なんだろうけど……、

でもあの人、楽しんでいたみたいな感覚が……)


真咲は、【執行者】の昨日の行いが、役目というよりも、かなり私的な物に思えていた。

旧29話です。

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