作り主は太陽の女神
「……悪いんだが肩を貸して欲しい。なんだか歩き難いんだ」
「うん、良いよ」
真咲が肩を貸すのだが、身長が168㎝の真咲に対してプラトムはかなり大きい。
失くした右翼側を真咲が支え、プラトムの腰に手を回す。
そして真咲は、プラトムを見上げた。
(確実に180㎝以上あるな……そりゃ、あたしが上に座ってても平気だわ……。
でも、身長差が大きいからきっとまだ歩き難いだろうな)
「真咲は、小さいな」
「小さい!?」
日本女性の平均身長よりは少々大きい真咲を、プラトムは小さいと言い放つ。
「翼が無い分、小さく感じる」
「……あ、なるほど」
真咲はその返答で納得する。
デルイル族は、普通の人間よりも翼の分、体積が多いのだ。
鳥ならば、翼を畳むと体にぴったりと沿うが、デルイル族の身体は人間だ。
翼を畳んだとしても、身体には沿わない。
今のプラトムの左翼も畳んではいるが、身体との間に隙間がある。
だから、翼に重みが掛かると翼を痛めてしまうらしい。
(……不便な翼だな。綺麗なのに。……彼らには何の為に翼があるんだろう?)
テントから出ると、陽に照らされた眩い光景が眼に飛び込んでくる。
ぽつぽつと見える、多肉植物が淋しげな荒涼の大地。その向こうには山脈が確認出来る。
プラトムは、その光景に眼を細める。
真咲が下から覗き込むと、感慨深い表情をしていた。
「二度と太陽なんて拝めないと思っていたのに……」
暫らく景色を見詰めて、黙っているプラトムを真咲は観察する。
(……嬉しそうだけど、辛そう。
傷も癒えて顔色も良くなったけど、体力の方がまだ完全に回復してないんだろうな。
喉だって乾いているだろうし、お腹だって減っていると思う。どこかで調達しないと……)
イイサン国の兵士が置いていった食糧や水もあったのだが、
何を食べているか解らないイイサン国の兵士と同じ物を食べるのは、
躊躇い結局やめたのだ。
プラトムの体力面を考えて、頭を回そうとするが、素直に思っている事が頭を占めてしまう。
(……こんな事、今考える事じゃないんだろうけど……。
本当に、綺麗だな。鼻が高いし、肌も白いし、目も大きい、唇だって厚みがあるけれど、形が綺麗。
ちょっと、垂れ目なのも優しいプラトムらしい。
今は、血も泥で汚れているけど、落としたらさらに眼を惹くんだろうと思う。
『天使』というのはやはり、存在したらこんなに美しいんだろうな。
けど、プラトムは……片翼で灰色の翼)
斐蝶は、プラトムが穢れていると言い切った。
真咲の両親が信仰していた教えによって、考えると『堕天』という事に近いのだろう。
(天界を追われた天使……。それと似たようなものなのかな?
じゃあ悪魔みたいなもの?……こんな優しい人がそんなわけないわね)
プラトムの顔を眺めながら、そんな事を思っているとプラトムが真咲の方へと向いた。
見られると思っていなかった真咲は驚いてしまった。
「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
「ご、ごめんなさい」
「そんなに見られると、穴が開きそうだ。
もう、動けるほど回復しているから、心配はしないでいい」
「……う、うん」
プラトムは、怒るというよりも、素直に謝る真咲が可笑しいらしく、口元が綻んでいた。
心配というよりも、少々邪な気持ちで見詰めていた事が恥ずかしくなる。
「俺達デルイル族にとって、太陽は、母に等しいんだ。
特別な意味を持つ。
それが、また見られる事は本当に嬉しいんだ、真咲には感謝するよ」
「……い、いいよ、そんなに感謝しなくても。
ヘルバに会ってから、お礼は言って欲しい……。
それより、太陽が母に等しいっていうのは?」
プラトムを騙している事に変わりない真咲は、
お礼の言葉を素直に受け取る事が出来ないので、焦って話題を変える。
「そうか?じゃあ、また後でヘルバと一緒にだな。
そうそう、俺達の祖先は、元々居た世界【未完成の世界】と呼ばれているんだけど、
そこで太陽の女神によって人間から作り変えられたんだ」
「太陽の女神……!?」
斐蝶とカイが言っていた『あの女神』の正体が解り、真咲は心臓が跳ねる。
【逃亡の世界】には様々な世界から、精霊や人間が逃げてやってくる。
斐蝶とカイが、デルイル族と同じ世界から来たと思えるのは、
はっきりとプラトムの事をデルイル族だと二人が特定したから。
「そう、俺達の一族の半分は女神の元に残り、あの方を守っている。
そして、俺達の祖先は、逃亡の世界に逃げて来たんだ。
女神を裏切った行為らしいのだけど、太陽は崇める様にと、ずっと言い聞かされて育って来た」
「……逃げて来た理由は?」
斐蝶とカイが関わっているかと思い、真咲は緊張しながら訊く。
しかし、プラトムは予想外の事を語った。
旧28話です。




