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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第4章 淀みと呪い
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光の色

陽が昇る。

早朝の景色を、真咲は新鮮な気持ちで眺めていた。

未だテントの中なので、四角く切り取った光景だったが、黒い空が薄まり青になり、

太陽が地平線の彼方から覗き、それに照らされた箇所は燃えるように赤く染まる。

そして黄金色へと変化していく様は美しい。


(この世界に来て、綺麗だと思う朝焼けなんて初めてだな……)


斐蝶が置いて行ったシャツは男物だった。

大きいので、腕の袖は捲り上げている。

それを身に付けた後、プラトムの頭を足を伸ばした状態の膝の上に置いた。

切られた箇所が傷つかない用に、左の翼が下にしている。

外套は、はたいた後、プラトムの体の上に掛けている。


塞がっているとはいえ、傷口は痛々しかった。

彼らにとって、翼とはどんな意味を持つのだろうと、真咲は考える。


「もうどうしようもない」とプラトムは言った。

真咲は自分の左手を見詰める。

小指に嵌る水色の指輪。

彼の翼の力がここにはある。

斐蝶は、「真咲ちゃんが持っている事に意味があるはず」と言った。


「どんな意味があるんだろう……?」


そして、右手の薬指には金の地に黒い蝶の模様の太目の指輪。

斐蝶からの契約の証。

プラトムと一緒に、ヘルバやスブリマと合流して、彼らを里まで送り届ければ、

真咲は、斐蝶の元へと行く事になる。


それまで、とにかくプラトムを護らなければならない。

だが、どこか、それだけでは心配な気がしてしまう。


プラトムは、翼を失くしたこの人は、無事に生涯を送れるのだろうかと。


「……ん」


「プラトム!」


身じろぎしたプラトムが、目を開く。

頭がまだ覚醒していないのか、全部開いていない様子の眼でぼんやりとしている。

目線が上にあがり、真咲の目と合った時に大きく見開かれた。


「……真咲?……俺は生きてるのか……?」


「……そうだよ、生きてる……!」


まだ夢の中のようなプラトムに、真咲は泣き笑いで答えた。


「あんなに苦しかったのに……一体、何があったんだ?」


「その、……人が通りかかって、命の魔術が使えるからって……」


真咲は、斐蝶に教えられた嘘を吐く。

真咲の事を、信じてくれたプラトムに嘘を吐くのは忍びなかったが、

プラトムの翼の事も関係してくるので、本当の事は言えなかった。


「命の魔術!?珍しいな、逃亡の世界にもその魔術が使える人がいるのか」


「珍しいの?」


「自分の命を削って、そのまま他人に流し込む事が出来る魔術だ。

この術が使えるのは神々から五つ以上の祝福を受けた者。神に愛された者だけが使える魔術だ」


「……」


(スブリマ達の治癒魔術と何が違うのか解らない……)


疑問しか浮かばない真咲の反応に気付いていないプラトムは、さらに真咲に質問を投げかける。


「でも、命の魔術は残りの命数を増やすだけで、怪我の治療は……」


「えっと、その人ね、再生の女神からも祝福を受けているから、怪我の治療も出来るって言ってたのよ」


「再生の女神……そうか、戦神の妹君か」


「……知っているの?」


「いや、聞いた事があるだけだ。それで、その治療の対価は?」


「プラトムの翼でいいって、持って行っちゃった……」


「……そうなのか……?

真咲のその服も、貰ったのか?」


「う、うん」


テントの入り口に顔を向け、落ちた片翼が無い事に気付いたプラトムが寂しそうな声色を出したが、

すぐに真咲の方へ向き直し、上半身を見詰めた後、今度は顔を訝しむように見る。

その視線に、真咲はこめかみにも汗をかく。


(……嘘ってばれた!?)


「……本当に、あの翼だけでよかったのか?

相手は男だったんだろう?何か無理な事を要求されたりしなかったのか?」


「え?なんで男って?」


「その服、男物だろ?」


プラトムの眼差しは真剣で、本気で心配しているのが真咲には解った。


(……プラトムは、あたしが体を触らせたりしてないか心配しているのか……)


「大丈夫、あたしはそんな事されてない」


「……そうか。それだったら、良い」


ほっと、息を吐いて安心していたプラトム。

緑色の瞳が細められて、柔らかい表情を見せた。


「っ!!」


プラトムの瞳の色は、ビー玉から覗いた光に似ている。

両親が居た頃、お店で見かけた網目の袋に入った色とりどりのビー玉を買ってもらった。

特に、太陽に翳した時に、緑色のビー玉から覗く光が好きだった。


(……呪術神の瞳の色は闇の色みたいだった。

カイの瞳の色は、どこまでも沈みこむ様な光が届かない水底の青緑色だったけど。

プラトムの瞳の色は、光の色だ……。それに、こんな見た目のあたしを女性扱いだなんて……)


真咲は、気恥ずかしなり、頬が熱くなっているのを自覚する。


「お礼を言いたいんだが、どんな人物だった?」


「えっと、余り覚えていないんだけど……赤毛で女顔の綺麗な人だったよ?」


「そうなのか、それだったら、すぐに解りそうだな。ありがとう」


また笑顔を見せるプラトムに、真咲は胸が苦しくなった。


旧27話です。

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