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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
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一つ目のライオン

歩人視点です。

昼前の時間でも、暑さは厳しい。

アスファルトの上に撒かれた水が、余計に蒸し暑さを増幅させる。

どうも、夕涼みに水を撒く習慣を、間違えている人間が居るらしい事に、歩人は頭を押さえる。

そして、電話口からの音声にも、頭を押さえたくなった。


「は?何それ!?それ、取ってこいって!?」


喫茶レインボウの現状を調べて来い。

それが、歩人が『じい様』に与えらえた指令だった。

もちろん、断罪神からの管理者への伝言が一番のメインだが。


「てか、何でそれなんだよ?

じい様、オレに厳しすぎない?

おば上には、優しいくせに……」


紫延と紅子と別れてから、歩人は電車の高架側を歩いている。

人が多い場所と、人の少ない場所。

目的別に選択しているのだ、今は、少ない場所が適しているとの判断だ。


「形見?誰の?

……あぁ、あぁ、はいはい。なるほどね、わかった。

持ってこりゃ、良いんだろ。じゃーな、じい様」


スマホを、切ってポケットにしまい込む。

魔法陣で転移してから、歩人は誰かにつけられているのを察知していた。

尾行に慣れていない者だろう。

だが、人に見つからない裏路地に魔法陣の出口を設置していたのだ。

普通の人間には感知出来ない。

感知したのは、魔力のある人間か、魔力か神力を糧にしている者となる。

だが、感知した者と尾行が同じとは限らない。


「で、おっさん達は、操られてるだけって事か」


歩人が、振り返ると六人ほどの体格の良い男達が焦点の定まらない目で、

歩人を取り囲もうと迫っていた。


「魔力を使わないで、戦うって、魔術士にとっては面倒なんだぜ?」


歩人は、じい様仕込みの構えを取り、にやりと口角を上げた。


体格が大きいだけかと思ったが、相手の動きは意外と素早かった。

どうも、武術経験のある者が、操られているようだった。


歩人は、自分よりも体格の良い男に、足払いを掛け、体を倒した所に、

鳩尾に向かって、体重を掛けた肘鉄を喰らわせる。

その状態の歩人に襲い掛かろうとして来た男を避け、

男の上体が低い所を、顎に向けて掌底を喰らわせる。

ぐらりと崩れかける男の胸元を掴み、倒れる勢いを利用して、そのまま地面へと叩き付ける。


すぐに体勢を立て直し、近くに居た男の顔面に蹴りを入れて、

倒れる前に、腹にも膝蹴りをいれて、もう一度腹に蹴りをいれて突き飛ばす。


体重の軽い歩人には、重い攻撃は出来ない。

その為、素早く動き、手数の多い攻撃手段を好んでいる。

本来は、素手での格闘は好まないのだが、

【完成された世界】に居る為に、仕方がない。


五人目を沈めた所で、一人が叫んで逃げだした。


「ちっ!

『王の名を冠する誇り高き獣よ、

契約せし主の名において顕現し、血の連なる物にその力、貸し与えよ』」


歩人の影の中から、真っ白な一つ目の雄獅子が顕現し、逃げた男を追いかけて引き倒した。

歩人が、男に近寄ると、ライオンに伸し掛かられている男は、

悲壮な顔を浮かべていた。

悪夢でもなかなか見ないシチュエーションだろう。


「おっさん、正気か?」

「お、お願いだ!助けてくれ!!」


真っ青な顔色とはこういう物なのだろう。


「それが、人に物を頼む態度かよ?」


鼻白むと、すぐさま男の態度が変わった。


「お願いします!!助けてください」


「後でな」


男は、スキンヘッドの頭が眩しい三十代後半とみられる男だった。

上はTシャツにダメージジーンズだが、良い時計をしているし、ジーンズも有名なブランドものだ。

下流階級ではないだろう。

他の倒れている男達も、身なりが良さそうな男達だった。

如何に【未完成の世界】の文化レベルが高くても、

普段使いのスーツにハイブランドは、下流階級は選ばないだろう。


「何で、オレの事襲った?」


「知らない!覚えてない!」


「ほんとに?」


男の顔の前に、靴底を向けながら歩人が問う。


「本当だ!!

仕事をしてたら、いつの間にかここに居たんだ!」


「ふうん」


足を退けて、歩人は腕組みをする。


(階級は一緒だが、職種はバラバラそうだな。

全員、身体を鍛えていて、何かしらの格闘技術持ちだ。

けれど、格闘技の派閥はバラバラか。

って事は、共通点はジムか、飲む所……何か全員で利用してる場所があるはずだな)


「おっさん、あんたら顔見知りか?」


「いや、知らない!!」


「ホントに?すれ違った事もないか?」


大股でしゃがんで、歩人は訊く。


「……いや、すれ違った事はある。

行きつけのバーだ。

男は、たぶん、あいつらだ。

バラバラだったんだが、同じ女が一緒だったんだ。

俺も、その女に声を掛けて、一緒に飲んだ事がある」


「どこのバー?」


「図書館近くの、会員制のバーだ!」


歩人は、スマホに特定の人物の写し絵を呼び出し、男に見せる。


「女ってこいつ?」


「……そいつだ!!

化粧も、服も違うが、その女だ間違いねぇ!」


「なるほど、情報ありがとよ」


歩人は、立ち上がり、ライオンを下がらせる。


「くっそ、この野郎!

拡散してやるからな!!」


男はスマホを取り出して歩人に向けて写真を撮る。

だが。


「あ、何でだ?!くっそ!」


「オレ写んないよ、人間じゃねーからな。

そもそも、一つ目のライオンなんて存在してるわけねーだろ?」


くっくと、喉で笑うと、男は顔色なくして、必死に逃げて行った。


「あの、雌龍。

誰かからの命令か、自分でやったのか、捕まえて吐かせるか……」


歩人は、スマホに似せた魔術具の画面を操作する。

彼が、男に見せたのは、先日、歩人が記憶に留めた物を呼び出した物。

巳春の写し絵だった。

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