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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
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真実の眼

「だって、私は悪くないじゃない!

悪いのはあいつらとあんたよ!!」


その言葉に、紅子の眼が見開かれる。

それは、紅子の持つ力も同時に、全て。

彼の穢した力は、龍と共にいた事で回復し、そして怒りによって完全に解放された。


紅子は、生徒の襟元を両手で掴み、開いた窓の手すりにその体を押し付けた。

紅子達の教室は二階。

紅子が手を放せば、女子生徒は窓の向こうに落ちるだろう。

たかが、二階だが打ち所が悪ければ死亡する。


「かはっ!」


紅子に首を絞められる形で、掴まれ、背中を強打した生徒は一瞬噎せた。

怒りが治まらない紅子は、さらに外へと手を伸ばす。


「嘘吐き。

悪くないなんて事ないじゃない。

あんた、万引きしたんでしょ?駅前の本屋で。

興味も無い、美容雑誌。

それをあいつらに見られて、弱みを握られたんでしょう?

よく、自分が悪くないなんて言えたよね?」


紅子には、その生徒の後ろに、まるで監視カメラの映像のようにその様がはっきりと視えた。


「しかも、助けてって?

虫が良過ぎない?あんたは、何一つ助けなんて求めてなかった。

居ない存在として扱われるよりは、いじめられて少しでもその場に、

存在してるっている認識が欲しかったから、ずっと、学校に来てたんでしょう?

嫌だったら、ずーっと、家に居れば良かったでしょ?

……へぇ、あんたのお母さんもおばあちゃんも優しいんだ。

お金、すぐくれるじゃない?

あんな屑に渡すんじゃなくて、私にはこんな学校低俗過ぎて嫌っていえば、

喜んで別の学校に転入させてくれそうだけど。

ツテ、あるんでしょ?

従姉の結婚相手が私立の理事長の息子なんだ、へぇ?」


生徒が持っている情報が、視覚となって感じ取れる。

普通の人間が、持つ事のない能力。

現在と過去の真実を見抜く『真実の眼』の能力。


紅子は、今、自分の瞳が銀色になっているのを自覚している。

幼い頃の感覚、それがそっくり戻ってきている。


「……なんなの、あんた、なんでそんな事知ってるの?」


怒りに燃えていた瞳は、今や恐怖に彩られている。


「さぁ?あんたが色々うるさくて余計なものまで視えちゃった。

保健の先生好きなんだ?ありがちだよね、女子高で美人な女の先生に本気で惚れちゃうって」


「やめて!!先生にもあいつらにも言わないで!!」


紅子は、教室の中に生徒を力加減を考えずに、無理に戻した。

生徒が紅子の椅子と机にぶつかって、派手な音を立てる。


「私、自分が弱いって理由つけて、何もしない女って大嫌い。

誰かに必ず助けて貰えるって、盲目的に信じてる。

シンデレラみたいな女、大嫌い。

あんな風に助けて貰えるなんて、元々貴族の娘でとんでもなく美人だからよ。

あんたにそれがあんの?

人に助けて貰えるっていう絶対的な自信。

代わりにあんたが渡せるものなんてあるわけ?

誰かに助けて貰えるなんて、幻想だよ。

助けてくれる人なんて居ない。

誰でも助けて貰えるなんて、そんなんだったら、殺人事件なんて起きない」


そこまで言って、紅子は倒れた机から離れた位置に落ちた自分の大きな鞄を肩に引っ掛ける。

扉の方に向かう紅子を、生徒が止める。


「待って、どこに行くの!?」


「先生との事?言わないよ、興味無いもの」


「じゃあ、なんで……」


「視えたから言っただけ」


視えたとの返答に、どう思ったのか少女は、紅子のスカートを掴んだ。


「私は、どうしたら良いの?」


占い師か、霊能者のように、紅子は頼られたと直感した。

だが、答える義理はない。

紅子に視えるのは過去と現在『真実』だけ。

未来は視えない。


「知らない。あんたにもあいつらにも興味ないもん。

助けてくれるって考えは諦めな。

自分で強くなるか、弱いまんまか、あんたが決めれば?」


項垂れる生徒を残して、紅子は教室の扉を閉めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


それから、一時間後。

校門をくぐる満帆南を見つけた。


こちらに気付いた満帆南はすぐに走って来た。

掛けて来る様は、チワワに似ていると紅子は思う。


中庭のベンチに二人で腰を下ろす。

蝉が鳴き出して煩いが、教室よりはマシだ。


「どしちゃったの?こっこー、なんかマジメなお話?」


満帆南は、紅子の持っている大きな鞄をちらちらと見ながら、不安そうだ。

いつもの厚顔不遜ぶりは鳴りを潜めている。


「うん、家出しようと思って」


「家出?プチ家出的な?友達とか男の家を渡り歩く的な?」


「まぁ、そんな感じ」


「嘘だぁ!!こっこーにワタシ以外の友達なんて居ないくせに!!」


右手で満帆南の頭をすぐさまはたいた。


「……てか、満帆南は私の事、友達だと思ってたんだ」


それが、紅子にとっては意外だった。

いつしか、歩人に言われた言葉を思い出す。


(もう、友達だったのか……)


大仰に、ガッツポーズをしながら大声で答える満帆南に紅子は呆れる。

が、安心もする。


「あたぼーよ!!」


「バーカ。

……紫延さん達と一緒に行くの」


「こっこーのお母さん達は?」


「知るわけない」


「だよねー……ワタシにはどこに居るか教えてくれるよね?」


「ごめん、無理」


「そ、そっかー……」


そこで、満帆南は言葉を切り、背もたれに体を預け、空を見上げた。


「ねぇ、こっこー、ワタシ、寂しいよ……」


いつでもふざけて相手を煽る事が得意な満帆南が、目に涙を溜めている。

不遜な言葉しか吐かない口が寂しいと、素直に言葉を紡いでいた。


「満帆南……?」


「ちゃんとさ、帰って来てね。

連絡、何年でも、何十年でも先で良いからさ、送って。

こっこーの事だから、止めても無駄なの解ってるの。

でもね、ワタシの事、覚えててね!」


満帆南は破顔した。

木漏れ日の中のその表情は、直視できないほど明るくて、紅子の中にとても鮮烈に焼き付けられる。


ちょうど、始業のチャイムが鳴り、満帆南はくるりと身を翻した。


「じゃあね、こっこー!お土産よろしく!!」


そう言うと満帆南は、駆け出して行った。

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