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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第1章 迷い子と天使
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出会いは別れ

力押しで正面の男の剣を跳ね上げる。

その隙に、真咲の鱗に驚いた男の手をさらに力を入れて嫌な音が鳴ったのを確認してから、男を横に投げるように突き飛ばした。

真咲は、正面の男の眼前に刃を突きつける。


「化け物!」


「化け物なんて、この世界にはごろごろしているじゃない」


剣を取り落とした男が叫ぶが真咲は吐き捨てる。

戦意を削がれたのか、男は及び腰になっている。

酔っ払っていた男は、酔いが醒めたらしく真咲の動きを注意深く見詰めている。


「人間の皮を被った化け物が!」


「生まれてから人間の皮はずっと被ったままなんだけど、脱げるの、これ?」


鼻で笑った真咲が、呆れながらも剣を振りおろそうとした時、制止の声がかかった。

真咲は、無傷の男を睨みつける。


「もうやめておけ、マサキ」


「……おっさん、あんたこいつらにおれの力の事、言ってなかったの?」


「あぁ、人間以外を嫌ってた奴らだったから、言う必要があればで良いかと思ったんでな」


「あぁ、まぁ、おれは人間っていうと語弊がでるからね。

んで、どうする?おれと戦う?」


「いいや。この状態でもお前と組んで、王国にこいつらを売りたいと言ったら?」


「却下だ」


真咲が剣を構え、男に向けながら答える。

男は、溜息を吐き、両手をひらひらと振ってみせる。


「……わかった。俺等は退散する。だが、お前はこいつらをどうする気だ?」


「どうもしないさ。彼らはおれの助けなんざ、必要とはしないだろう」


ちらりと、翼有種達を見ると少女は呆然と真咲を見ており、青年は真咲と男を睨みつけていた。


「マサキは馬鹿だよなぁ。こいつらから足がついて王国兵に見つかって殺されるかもしれないってのに、仲間を裏切って、こんなの助けるなんて」


男は、斬られた男の外套を脱がせ、応急処置を始めた。

真咲も、致命傷は与えていない。

翼有種は、回復術に長けているが、真咲達に手を貸す事はないだろう。

脅せば、回復術を使わせる事は可能だろうが、それを真咲はしたくないし、させない。


「ほっておけ、……おっさん、おれを恨んでないのか?」


「んー、傭兵やってりゃ、そんな事もあるさ。それといい加減、俺の名前を覚えろ。ジョンさんだ」


「……ジョンさん」


話の途中で立ち上がったジョンは、真咲の頭をわしわしと乱暴に掻き乱した。

文句を言う為、顔を上げた真咲は、やっと、このジョンという男の事をしっかりと見た。

元の世界でいうと、白人だったという事すら気付かなかった。

言葉がそのまま通じるという事で、違和感すら感じていなかった。

ジョンは、真咲の前髪を掻き上げる。

さらに、ジョンの風貌が見えた。

大きな肩幅に、豊かな口髭、大酒飲みの赤ら顔の中年の男は、何故か寂しそうな眼を真咲に向けていた。


「この先、生きてたら、今度はちゃんとした格好でな、このお転婆め。

怒るまで気付かなかったじゃねーか。……悪かったよ」


「あんた……?」


ジョンは、真咲の事を自分の娘のような目で見た後、両手に男二人を引き摺って出て行った。


ジョンが出て行った後、暗いのか明るいのか表現し難い目の痛くなる室内に目を凝らす。

昼を過ぎた頃の陽の光は、白に近く室内に入り込むが、影は非常に濃い。


真咲は、翼有種の青年に近寄る。

青年は、怯む事無く真咲を睨みつけてきた。


(この状態で、まだまだ虚勢を張れるなんて……、

よほど胆が据わっているかプライドが高いかなんだろうな)


澄んだ今の空と同じような色の瞳だが、そこには憎しみの炎が明らかに燈っている。

三秒ほど、その目を見た後、真咲は目を逸らした。

ふう、と一つ溜息を吐く。


憎まれていると解っていたのに、見惚れてしまいそうだった。

それと同時に、『天使様』に憎まれているのが悲しいと思ってしまった。

見たいけれど、見たくない、そんな自分の心境に戸惑う。


(あたしは、『天使様』に似ているこの人を助けてどうしたいんだろう……?感謝なんかされるわけがないのは解っていたのに)


自分でもよく解らないままだったが、意識を切り替える。

真咲はうつ伏せで意識を失った翼有種の女性の傍に屈む。


「何をする気だ!?」


青年が声を荒げるが、真咲は彼女の足の縄を斬り、次に腕の縄も斬った。

後ろ手になっていた手を自然な位置に戻してやる。


「……」


訝しげな視線を感じるが、見ないようにする。

次に、青年の足の縄を斬って解く。

暴れられる可能性もあるが、この女性の怪我を任せられるのはこの青年だけだ。

少女の方は、体に傷はないが心に傷を負っているだろう。

そんな少女に、他人の回復を行わせるのは酷だ。


「あんたら、翼有種は回復能力に長けていると聞いた。この女性の怪我も治せるのか?」


腕の縄を斬る前に、青年に確認を取る。


「……もちろんだ」


「なら、任せる」


真咲が縄を斬ると青年は体が軋むのか、ゆっくりと身を起こした。


「貴様ら人間に言われなくとも……!」


青年が座り直し、亜麻色の髪の女性に治療魔術を施す。

本人も、口元に殴られた跡が見受けられ、体もきっと殴られるか蹴られるかしているのだろう。

顰めた眉が体中の痛みを訴えている。


女性の頭に青年が両手を翳すと、温かな光を纏った魔力が女性に流れていく。

青年の両翼が、同じ光に包まれ、翼の小翼羽の一部分が水色をしている事に気付いた。

少女と女性の翼の色は真っ白なのに。


(雌雄差かな?)


とりあえず、青年に女性の事は任せ、真咲は少女に近づく。


過去の6話と7話の纏めです。

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