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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
33/48

普通は見えないモノ

投げられた物を、歩人が受け取める。


「っ!?」


真っ赤で小さな林檎だった。

紅子は驚くが、歩人は溜息を吐いただけだった。


「うちのバイト達が、何かしましたか?」


いつものように落ち着いている紫延が話し掛けて来た。

私服の紫延の隣には、巳春も居る。

二人とも、スーパーの袋を下げているあたり、店ではなく家庭の方の買い物だったのだろう。


「紫延さん!」


「喧嘩はよくないよ。初意」


紫延に怒られた事で、初意のオーラは急速にしぼみ、見えなくなった。

だが、歩人のオーラは先ほどよりも強くなり、紫延と巳春を警戒しているのが紅子には解った。


「あんた……」


「貴方の様な方がここに何用ですか?」


不思議と、年上の紫延の方が丁寧な話し方をする。

それに対して、歩人は平然と受け取っている事に、紅子は疑問を覚える。


「それこそ、こちらの訊く事だ。

あの場所を放っておいて、こちらに総出で居るとはな。

役目を剥奪されたいのか?

此方に来るなら、そこの馬だけで良いはずだろ?」


馬、と顎で示された初意は歩人を睨み付けるが、歩人は歯牙にもかけない。


「これは、手厳しい。

けれど、私達の役目を与えたのは貴方達ではないはずです」


「ふっ、姿を奪った世界の住人がよくそんな口を叩けるもんだな。

お前達だけでは、あの場所は管理しきれない。

それは、身に染みているはずだ。

大人しく我々に、返せ」


「それは、出来ません。

私達が輝理様に譲られたのは、管理のみ。

私達ではあの場所の譲渡は出来かねません」


「それは、上に伺いを立てるって事もしねぇって事だな」


歩人は、肩に手を置き、また溜息を吐いた。


「……あの方から伝言だ。

『淀みを除去しきるか、即刻、移し鏡を叩き割れ。

それが、出来ないのならば、断罪の炎が全てを焼き尽くす』だ、そうだ。

もちろん、こちらの介入もアリだ。

じゃーな、とっとと向こうに帰って対策した方が身の為だぜ?」


くるりと背を向けて、帰って行く歩人。

紅子は、完全においてけぼりを喰らった形になった。


「紅子ちゃん、来て貰って悪いけれど、

少し私達はやる事が出来たので、お店を閉めるね」


「え、何でですか!?」


「暫く、初意も連れてやらなくては、いけない事があるから」


「そんな!……でも、少しの間だけですよね?」


「そうだね」


紫延は、眉を下げて微笑した。


「明日から、期末試験だよね?

とりあえず、初意もそれまでは残しておくから」


なおも食い下がろうとする紅子に、紫延は紅子の頭に手を置いた。


「試験、がんばって」


「……はい」


紅子は、困らせる子供をあしらうような紫延の態度に気を落とす。


「初意、紅子ちゃんを家まで送ってあげなさい」


「わかった」


陽が沈む直前の青い闇の中、紅子は初意に送られて自宅付近まで来ていた。

その間、ずっと無言。

にこりともしない二人なので、見かけた人は、喧嘩中の恋人かと思っただろう。


紅子は、下を向きながら、坂道を上る。

前を歩く初意は、普段よりもゆっくりと歩いてはいるのだが、気落ちした紅子の足は遅い。

どうしても、前を歩いてしまうのだ。


ふと、紅子の目に、半透明の赤く光る羽が見えた。

少し視線を上げると、それは集合体。

赤い翼だ。


「?」


さらに上げると、初意の背中。

でも、何か大きな動物の姿が重なっている。

翼をもった……。


「馬!!」


「あぁ!?」


物凄い勢いで初意が振り向き、反射のように威嚇した。


「馬っていうな!!」


「え、だって、馬じゃん。翼あるけど」


「天馬だ!……って、は?まて、お前、何を言ってんだ!?」


漸く、初意は慌てて紅子の発言の意味を知る。


「……初意と、天馬が重なって見える」


化粧の為に、目をごしごしとこすれない紅子は、目薬を差しながら言い放つ。


「……お前、案外冷静だな。他の人間が見えない物が見えてるのに」


「そういえば、なんでだろ?なんか、前も……」


紅子がとても幼かった頃、紅子が言った言葉を母も姉も父も全て否定した。

まるで住んでいる世界が違うかのごとく、何も伝わらなかった。

目の前に立つ親子が、黒い翼を持っていると言っても、全員信じなかった。


だけど……。


「そういえば、私、小さい頃、変な物がずっと見えてたのを思い出したわ。

なんで忘れてたんだろ」


紅子は、その時の事を思い出す。

それは、白昼夢のように脳内で再生された。

驚きの期間居ませんでしたね……申し訳ないです。

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