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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
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写真の中の喫茶店

歩人は、整った顔立ちに人好きのする笑顔を乗せて、晴れやかに言う。


「知らない事が多い関係性は多いよ。家族だろうが、恋人だろうが友達だろうが、全部の事は知らない。

人間ね、自分の事も知らない事の方が多いんだ。

知らなかろうが、一緒に居て楽しいとか、もっと一緒に居たい、遊びたいって思ったら、

友達で良いんじゃね?」

「そんな簡単な事で良いの?」


紅子は、首を傾げるが、アイスキャンデーをすでに食べきった歩人は、棒をかじりながら続ける。


「簡単で良いんだよ。

ほら、幼児がどうやって友達になるかっていったら、単純にそんな気持ちから友達になるだろう?

様は、紅子が満帆南と友達になりたいかどうかってだけだ」

「……そっか」

「ほら、早く食わないと、溶けてるぞ」

「あっ!」


歩人の言葉に、急いで紅子はアイスキャンデーを頬張る。

急いで食べきったが、溶けていたので手がべたべたになってしまった。

二人して、蛇口のある所へ行き、手を洗う。

ハンカチを忘れてきてしまった紅子は、歩人に黒のタオルハンカチを借りて手をぬぐう。


「そういえば、歩人さんはこの辺に用事だったの?」

「うん、ちょっとじい様に頼まれ事をしててね。この辺の近所のはずなんだけど」

「え、私、この近くでバイトしてるから何か解るかも、何を頼まれたんですか?」

「この喫茶店を探してくれってさ」


そう言いながら、歩人はポケットから写真を取り出す。

そこに映っているのは。


「『レインボウ』?……でも、一階が『からす庵』だ」

「知ってるのか?」

「あ、うん。今、バイトしてる所が『レインボウ』って所なんだけど、この写真のお店で、でも、二階の画廊の名前が『からす庵』なの」


写真には、気さくそうに笑う老人が喫茶店の前で笑って写真に写っている。

その喫茶店の店名は、『からす庵』。

二階は店名は書いておらず、店として機能してなさそうだった。


「うちのじい様と、このじいちゃんが知り合いだったんだと、んで、

なんでも、このじいちゃんが若い夫婦に店を譲ったって聞いて、足を運んだ事がないから、

まずは、お前が行って来いって言われてさ」

「あ、若い夫婦!それって何年前?」

「このじいちゃんが亡くなったのが六年前だから、もうちょっと前だな」

「うん、たぶん私のバイト先で合ってるよ。龍塚夫婦がオーナーだもの」


夫婦とは、言いたくはなかったが、説明している時だったので、仕方なしに口に出した。

甘い物を食べた後だというのに、口の中が苦くなったようだった。


「そうか、じゃあ、案内してもらっても良いか?」

「うん、ちょうどバイト先に行くところだったから」

「お、ちょうど良かった。よろしく頼むな」


二人揃って、歩道を進もうとしていると、突然後ろから腕を引かれた。


「!?」


驚いて振り返ると、城西高校の制服姿の初意だった。

そのままさらに強く腕を引かれ、無理矢理、初意の体の後ろに移動させられた。


「痛いじゃない!何するの?!」


紅子が、怒って初意を見上げたが、初意の表情は今まで見た事がない物だった。

歩人を親の仇のごとく睨み付けている。


「紅子に何を吹き込んだ!?」

「別に、お前達にとって不利になることじゃない。ただの世間話だ」


榛の瞳はぎらぎらと、怒りの色を湛えている。

対する碧の瞳は、怒りも怖がりもせずに挑発するように、高揚感を隠し切れない様子だった。

歩人は、楽しそうだった。

まるで、猫が鼠を相手にしているみたいな様子だ。


(これは、初意の方が分が悪いんじゃ……)


咄嗟に、紅子はそう判断する。

体格では、初意の方が大きいが、歩人は何やら自信がありそうだ。

それに、紅子には彼らの後ろに陽炎のような光が見えた。

それが、明らかに歩人の方が大きくて明るい光を放っている。

色は、彼らの瞳と同じ色だ。

普通に話している最中には、こんな物は全く見えなかったのに。


(なに、これ?もしかして、オーラとかいうやつ?でもなんで私が見えるの?)


混乱する紅子を無視して、二人は睨み合いを続ける。

そこに、何かが投げられた。

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