表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
31/48

アイスキャンディー

「あーつーいーぃ」


今日も今日とて、教室が暑い。

満帆南が文句をいうが、紅子は無視する。

学年が上がれば、新校舎のエアコン付きの教室に行けるのだが、一年生で耐えてからだ。

けれど、昼休みになれば、人が少ないというのは紅子にとってはありがたかった。

どうしてこうも、女というのはいつも集団になると煩いのだろう。

先ほどの授業も担当の教師が新婚だという事で、やじが沸き、授業にならなかった。

集団だから駄目なのだろう。

独りでいれば、実害もあまりないのに。

紅子は、群れる女も、男に媚びる女も、依存する女も大嫌いだ。


窓から外を眺めていると、何やら馬鹿な集団が見えた。

紅子と同じクラスの先ほどの騒ぎ立てていた中心人物達だ。

大人しそうな一人を相手に、弁当箱の投げ合いをしている。

弁当箱を取り戻そうとしている生徒は、泣きそうな顔をしていた。


「あー、馬鹿な事やってるねー。みんな暇そうだね、いいなぁ」

「ほんと、暇そうね」


他人に関心の無い紅子と満帆南は、いじめには参加しないが助けもしない。

加害者にも、被害者にも関心も興味も無いからだ。

そんな事に時間を使うよりも、参考書を1頁でも解いた方が、自分の為になるのに、そこに気付かない人間の事を理解できないのだ。



今日の放課後は、試験勉強の為に休みを貰ったのだが、どうにも落ち着かないのでレインボウに行こうと考える。

無性に、紫延の顔が見たかった。


満帆南は、弟達と約束があると言い、先に学校を出て行った。

満帆南が姉である事に正直驚いたが、紅子も自分に姉が居るとは言っていない。


(……別に、友達でも無いし、言わなくて良いんだろうけど)


どことなく、胸が騒ぐ。

友恵の件があるので、友達なんて作りたくない。

でも、満帆南なら友達でも問題がなさそうな気がするのだ。


(けど、またあの母親が何か言ってくるかもしれない……。

満帆南だって、私を脅してくるかもしれない……)


電車に揺られながら、紅子はそう考える。

目的の駅には、すぐに着いてしまった。


駅を出て、小さな工場が多い町を歩く。

といっても、駅からは商店街が続くので、そこまで工場や中小企業が多いイメージはない。

初意の話によると、城西高校の屋上からの眺めは、まさしくそれなのだとか。

つまらない景色で、面白くないのだそうだ。

だが、今は屋上への出入りも禁止されているらしい。

城西高校の怪談『屋上の幽霊』の舞台も誰も行かなくては、噂自体が廃れてしまうだろう。

少しぼんやりと、蝉の大音量の鳴き声を聴きながら歩くと、声を掛けられた事に気付くのが遅れた。


「お、やっと気づいた。大丈夫か紅子、熱中症か?」

「つめたっ!」


歩人が紅子の額に、今しがた買ったばかりのアイスを包装ごと押し付けて来た。

二人で分けられるタイプのソーダアイスキャンディーだ。


「半分やるよ」

「……どうも」


紅子は、歩人に連れられて近くの児童公園の中のベンチに腰掛ける。

近所に、木がないのに、どこから蝉の声がするのだろうと思っていたら、ここからだった。


「はー、冷たい物食べないとやってらんないよなぁ」

「……そうですね」


しゃりっと音を立てて、アイスキャンディーを歯で割って口の中に入れる。

冷たくで爽やかな甘さが火照った体と、回らない頭に染み込んでいく。


「何?元気ないね。悩み事?お兄さんに話してみ?」


にっと、口角を上げて紅子の反応を見る歩人を、紅子は逆に観察する。


この前、会った時は、ピンクや水色のポロシャツに、ライトブルーのジーンズにサンダルだった。

今日は、カーキのロングジレに、オフホワイトのタンクトップ、ブラックのサルエルパンツにクロスバンドのサンダルだった。

暑いので、前髪をピンで留めている。


(イケメンで、お洒落で、気遣いが出来るか……。

余り関わらない方が良いかな)


「あ、警戒してる?大丈夫だよ。取って食ったりしないから」

「……イケメンでお洒落で気遣いが出来ると、遊んでるとしか思えない」

「いやいや、偏見だろ、それ。紅子も人の事言えないから。

そんなに可愛くて、化粧もばっちりでスカート短くて、如何にもギャルだろ。

お前も、遊んでるって言われたいか?」

「……あんまり、言わせたい奴には言わせておけば良いとも思うけど」

「だろ?紅子も勉強頑張ってんだろ。お前も努力家なら、オレもそうなの」

「……そう」


溶けそうな、アイスキャンデーをもう一口頬張って、飲み込んでから紅子は話し始める。


「私と、満帆南って友達に見えますか?」

「ん?変な事訊くなぁ。明らかに友達だろ、もしかして喧嘩でもした?」

「そうじゃないけど、互いに話してない事が多いから、友達って言って良いのかなって」

「はは、何それ」


歩人は、朗らかに笑った。

歩人は、お洒落さん設定なので、イラストを一度描いてから服装を決めています。

いや、全員やるべきなんでしょうが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ