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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第3章 真実の巫子と管理者達
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梅の花は雪に散る

この章の主役は、稲生紅子となります。「梅の時期の辛い知らせ」の続きです。

葬儀会場に乾いた音が響いた。

体勢を崩した紅子こうこは、父親にぶつかり、そのまま受け止められた。


「早く帰って来なさいって、言ったでしょう!?」

「友子、暴力はよさないか!」

「うるさいわね!あなたは黙ってて!!」


父親が抗議するが、母親のヒステリックな叫びに、父親は委縮してしまった。


紅子は、喫茶店に寄った後、夕方過ぎに帰ったのだ。

すると待っていた父親から、車で制服のまま葬儀会場に連れて来られたのだ。

先に母親は葬儀会場で、さも忙しそうに手伝いに回っていた。


亡くなったのは、紅子の幼馴染、秋原友恵あきはらともえだ。

幼馴染といっても、学校が一緒だったわけではない。


母親同士が仲が良くて、同い年だったから一緒に遊んでいた。

いや、母親同士が仲が良すぎて、紅子は友恵と一緒に居るより他がなかったのだ。


お嬢様が多い女子高出身の紅子の母親は、高校の頃より友恵の母親に心酔していたのだ。

そして、友恵の母親の舅が理事長を務める病院に、紅子の父親が勤めるようになった事で、

その関係はさらに、濃い物になってしまった。


友恵の母親の名前は、紅緒べにお

紅子の姉は、華緒はなお。姉妹どちらも友恵の母親からとったもの。

逆に、友恵の名前は、紅子の母親の友子からとったものである。


(気持ち悪い……!)


正直に、物心ついた時から思っていた。

家族よりも、友恵の母親の方が大事な自分の母親を、紅子は嫌っていた。


「あ、紅緒さん!」

「あぁ、紅子べにこちゃん。良かったわ、来てくれて!」

「……どうも」


紅緒は、非常に綺麗だと紅子こうこは思う。

四十五歳なのだが、とても十五歳の子供が居たようには見えない。

肩の上で整えられたボブカットに、タイトスカートのブラックフォーマル姿は、

三十代そこそこに見える。


紅子の母親は、どちらかというと未だに少女の感覚を引き摺っている人だった。

明るい茶色に染めた髪をくるくるときつい巻き毛にし、黒いリボンのついたゴムで髪を後ろにゆるく縛っていた。

こちらも、タイトスカートのブラックフォーマルなのだが、

黒色が似合わない紅子の母親は、如何せん変に浮いてしまっていた。


紅子べにこちゃんは、今日合否発表だったのでしょう。

忙しい日にありがとう、友恵の為に来てくれて。結果はどうだった?」

「あ、私は」


紅子が皆を言うよりも、速く。


「落ちました」

「!?」


紅子の母親が、答えていた。

突然の宣言に、紅子は驚いて、頭が回らない。


「友恵ちゃんと仲良く学校に行くのを楽しみにしていたのですけど、

この子ったら、友恵ちゃんほど、出来が良くなくて……。

それで、落ちてしまいましたの」

「まぁ、そうだったの……。ごめんなさいね。

それに、あの子と、学校に一緒に行くのを楽しみにしてくれていただなんて……」


友恵の母親が涙を、ハンカチーフで拭いながらせつせつと友恵の思い出話を語る。

しかし、紅子の耳には入って来ない。


(私は、何を言われたの?

私、お母さんに、受かったって言ったよね?聴き間違えた?

でも、あんなにはっきり落ちたって……)


紅子が、母親の顔を覗き見ると、その目は『話すな』と物語っていた。


その後、友恵のお焼香をして、友恵の写真を見た。

ほっそりとした母親には似ていない、脂肪のついた頬にピースをした短い指をくっつけている。


友恵とは、良い思い出は余りなかった。

仲が良かった時期もあった。

けれど、ほとんどが友恵の要求に従うしかなかった。


(あんなの、友達なんて言わない。

友達に、普通、あんな要求なんてしない)


登校拒否をしていた友恵は、唯一の友達である紅子に、縋りついて依存した。

その様は、友恵の母親に縋りつく紅子の母親を見ているようで、気持ちが悪かった。

だから、紅子は、友恵を突き放した。

そして、友恵は、


紅子べにこちゃんが、私の側に居てくれないんだったら、死んでやる!!』


と叫んだのだ。

それは、何度ともなく言われた言葉だった。

紅子こうこが慣れてしまうくらいに。

嫌気が刺した紅子は、いつも言い返さないが、言い返した。


『いつも、いつも、同じ事言いやがって!本当に自殺しようとした事なんてないじゃん!

これ以上、私に付きまとわないでくれる!このブタ!!

気持ち悪いんだよ!!』


この会話が、一月前だった。

その後、紅子は、受験の為に勉強に身を入れて、母親の事も友恵の事も考えないようにした。

勉強以外、何も考えないように。

そして、今朝、友恵は飛び降りた。

紅子には、嫌がらせとした思えなかった。


(……本当、全部、全部、あんたのせいよ!!

あんたなんか大っ嫌い!!地獄に落ちれば良いのに!)


紅子は、誰にも悟られないように、友恵を睨みつけた。

追加の話となります。

紅子の読みはわざとです。

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