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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第2章 優しい堕天使
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契約と指輪

「私達が此処に居るのは主にそういう理由よ。他にも色々やらなくちゃいけない事があるのだけど、

まぁ、それは追々で……。あの子がこっちに来てからよねぇ」


愚痴を呟いた女神がしゃがみ込むと、真咲に手を伸ばした。

真咲の右手の薬指に、何かを嵌めた。

金の地に黒い蝶模様の幅が太い指輪。


「これは……?」

「呪いの大姫特製の契約の指輪よ。真咲ちゃんが私と契約したって証ね」

「契約……?」


真咲は、指輪をまじまじと見詰める。


「商品を買った時の証明書と同じね。

真咲ちゃんは、私にデルイル族の青年を助けて欲しいと願った。

それには対価となる代償が必要だったのよ。お金のような物ね。

呪いの小さき姫なら、同じだけの痛みを代償にするでしょうけど、

私は、それを望まない。

呪いの大姫は、解呪が専門。私は真咲ちゃんに行動を求めるわ」


女神は、自分の胸を手で示しながら、説明する。


「行動?何をすれば良いの?」


きょとんとした様子の真咲に、にっこりと女神は笑いかける。


「真咲ちゃん、貴女、この私、斐蝶ひちょうの巫子になりなさいな」

「は!?」

「ちょっと!」


真咲とカイが、驚いた声を上げる。

二人の様子を見ながらも、斐蝶は笑ったまま。


「もちろん、そのデルイル族を送り届けてからで良いわ。

貴女は、この世界にむりやり連れて来られた。

鱗が浮かぶ力を得てしまった貴女を、完成された世界に帰す事は出来ないけど、

未完成の世界なら、逃亡の世界よりはマシよ。

未完成の世界の私の神殿に来て、私に仕えなさい。

前線に出るか、神殿内での戦いに直接関係の無い仕事をするかも選ばせてあげるから。

衣食住は困らないわよ」


かなり破格の好条件だろうと真咲は思う。

けれど、急すぎて判断がつかない。


「拒否する事は……?」

「残念ながら、却下ね。

こちらとしても、人手が欲しいのよ。でもね、すぐという訳ではないから安心して。

私も此方で仕事があるし。

でもね、私の側に居ればソコハテから受けた呪いと祝いの力も弱められるから、

真咲ちゃんにとっても、良い事になるはずよ」

「……」


(この逃亡の世界を離れる。あたしは、この世界に来たくて来たんじゃない。

でも、だからといって、別の世界に行くの?

女神に仕える為に……。でも、それは、プラトムを助けてくれた条件……)


真咲は、プラトムの寝顔を見た。

安らかに、呼吸をしている様は、真咲に安堵を与えたが、

なぜか、寂しさを感じてしまう。


「意識はしておいて。この逃亡の世界を離れるという事を。

……その指輪をつけておけば私と連絡が取れるし、真咲ちゃんの居場所も解るし、

多少の魔術も効かなくなる。

ただし、蝶の模様じゃなくなったら投げ捨ててね」

「え、あ、はい?」


投げ捨ててとの言葉に、真咲は微妙な返事をしてしまう。


「あら、理解は難しいかしら?」

「そりゃ、そうでしょうよ。これだけいっぺんに言われたら、誰でも混乱します。

真咲さん、とりあえず、落ち着いた時にまた説明をします」


てきぱきと、カイが注意を促す。


「あ、そうだ。

真咲ちゃんは、大きな水場に近寄った事はないよね?」

「え、うん、この世界に来てからはないよ」


男と偽っていたので、風呂に入る事なく、髪や身体は桶に湯を張って、布で拭いて身を清めていた。


「うん、真咲ちゃんはソコハテの呪いが掛かっているから、気をつけなければ駄目よ」

「え?あ、呪いは、この鱗の事じゃないの?」

「それは、ソコハテの祝いね」

「祝い……こんなのが……」


ぎゅっと、真咲は自分の身体を抱き締める。


「ソコハテは人魚、というより人魚のなりそこないです。

けれど、【選定者】に選ばれるくらいですから、それなりの魔力は有しています。

魔力の高い、神や眷属は、祝いと呪いを他者に与える事が出来ます。

一般的に、能力向上などの力が、祝い。

能力が下降する力が、呪いですね。

自分と同じ姿にして、筋力を上げるのが、ソコハテの祝い。

水場に近寄ると、筋力の力を弱めるのが、ソコハテの呪いです。

ソコハテは、【選定者】として選ばれた後、貴女以外にもたくさんの人を連れ去りました。

ですから、ソコハテの情報は此方も掴んでいます」


カイと呼ばれている少年が、淀みなく答える。


「筋力を弱める?」

「溺れ死ぬって事ですよ。

ソコハテは、完成された世界の出身でしたが、人魚の肉を食べた女の子孫。

身体に鱗を生やし、筋力を増強させるという力と長い寿命を持っていましたが、

普通の人間ではないという事から、ずっと迫害を受けていたようですね。

そして、逃亡の世界に先々代の【選定者】から逃亡を促された。

その後、【選定者】となったソコハテは、この逃亡の世界の為に、逃亡者を選んでいたのではなく、

自分と似た境遇にある少女を連れ去っては、自分と同じ鱗が生える見た目にして、

溺死させていたそうです。自分の復讐というよりも、単なる殺人鬼です」


「そうね、余りにも酷かったから、討伐命令が出たくらいよ。

私の兄の戦神が出たけれど、【執行者】に邪魔をされてしまったと言っていたわ」


【執行者】との言葉に、真咲は斐蝶達が来る前の事を思い出す。

よく透る声に、理不尽な問い掛け、そして、こちらに投げ寄こした物。

真咲は、切り落とされた翼を拾い上げる。

斐蝶は、翼に目を止めた。

・追加分がほとんどを占めます。

 対価をきちんと明記させました。

・6月5日、さらに、斐蝶の名前を追記しました。

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