表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第2章 優しい堕天使
21/48

追跡者


「もう良いわ。ご苦労さま、カイ君、真咲ちゃん。

ありがとう。今の悪夢で記憶の一端を見せて貰ったわ。

悪夢はその人の辛かった記憶の、糸口となるの。

嘘や思い込みの本人の主観が強いけど、呪いを解く為には必要な行為だわ。

特に、自分で自分を呪っている子には、ね?」


そっと、女は真咲の両上腕に手を触れる。

魔法陣が浮かび、緩やかに消え、真咲に浮かんだ鱗も桜の花が散るように消えた。

蒼い桜の花びらが舞うような視界の中で、真咲の瞳は元の色に戻りつつも、目の前の女を映していた。


「自分で自分を……??何を言っているの??」


真咲にはおおよそ、信じられる事ではなかった。

そんな真咲を、女は困った笑顔を浮かべながら真咲の話を纏めていった。


「真咲ちゃんは、子供の頃、蛇はご両親の信じている神の敵だと教えられたのね。

けれど、真咲ちゃんのおじい様の仕える神の使いは蛇だった。

そして、真咲ちゃんを拉致してきたソコハテは人魚だったけど蛇みたいだったし。

しかも、この世界の破壊神は空を覆い尽くすほどの大蛇で、【しらせ】も大蛇。

怖くない、理由がないかしらね。

元々、苦手な人が多い生物であるから」


女は、一つ小さく息を吐く。


「真咲ちゃんは、自分にも、その怖い物と同じ鱗が体中にあるから、怖いのね?

両親からの教えも信じたいけれど、おじい様から良い者だと教えられた事も信じたい。

そうじゃないと、自分に鱗が有る事の意義が見出せない。

そういう事で合っているわね?」


真咲は顔色なくして、頷いた。

目の前の女は、全て理解している。

途端に怖くなった。

瀕死のプラトムをあっさりと助け、真咲の過去も簡単に暴いたこの女が怖いのだ。

名前すら、さっきから教えてもいないのに呼ばれている。

女は、真咲から身を離す。


「あら、怖がらせちゃったわねぇ。

大丈夫。食べたりしないし、殺しもしない。呪わないし、ただ助けたいなと思っただけよ」

「……どうして?」

「真咲ちゃんが助けて欲しいと言ったじゃない。自分の発言には責任持たなくちゃ駄目よ?」


にぃっと、先ほどとは違う笑みを女は浮かべた。

それだけで、女の身に纏う雰囲気が変わる。

真咲は、目を見開き、肩を震わせた。

女の雰囲気は、【しらせ】や【執行者】など、人間が敵わない者と同じだった。

真咲は、理解した。


(この人、人間じゃないんだ!!)


理解した途端に、汗が噴き出す。

女が人ではないとしたら、後ろの少年もそうなのだろう。

プラトムを助けて貰ってはいるが、真咲は怖気づく。


「……あ、貴女、何なの?人間じゃないんでしょう?」


寝ているプラトムに身を寄せる。

真咲は、自分がプラトムを守りたいのか、縋りたいのかそれすらも解らないが、頼れるのは彼だけだった。

プラトムの手を震える両手で掴む。

震えているとはいえ、その衝撃に眠るプラトムの眉間に皺が刻まれた。


「……父も母も人間だけど、私は女神として産まれた。というだけよ。

ほとんど人間と変わりないつもりなんだけどねぇ」


女神は、頭を掻き、おっさんくさく呟いた。

この口調の方が素らしい。

真咲は、女神と聞いて真っ先に思い浮かんだものを口にする。


「女神?真実の女神なの?」

「ははっ!違うわ。私は、呪術の女神。呪いの大姫とも呼ばれるかな」

「呪術……」


プラトムを瀕死から救った術も呪術だったという事だ。

人を呪うという女神に、真咲はただ見上げる事しか出来なかった。

現実らしくない現実に、真咲はついてゆけない。


「……でも、待って。

この逃亡の世界には、神は二柱しかいないと聞いたよ」

「まぁ、そうだろうねぇ」

「貴女達も逃げて来たの?」


真咲の問いに、女神はゆっくりと首を横に振った。


「違うわ、私達は逃げた者を連れ戻す為に、追いかけてきたのよ。

そう、この世界の役目でいうなれば【追跡者】といったところかな?」

「【追跡者】……」


慄く真咲に女は、また困ったように微笑んで見せる。


「といっても、手当たりしだいってわけじゃないのよ。

神に成れる素質が有る者がいれば、私達の世界に知らせるという役目があるだけ。

もちろん上司は破壊神の帰還が一番喜ぶとは思うけれど」

「無理でしょう」

「だよねぇ」


少年の声に、女神はあっさりと同意した。

その気楽さに、真咲の女神に対する警戒がほんの少し崩れる。


「貴方も神なの?」

「いえ、僕は、神見習いです。種族的には……一応、神族ですが」


思いがけず少年は真咲にも、丁寧口調で答えてくれた。

フードの端を引っ張りさらに顔を隠そうとしながらだったが。

旧24話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ