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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第2章 優しい堕天使
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運が悪い二人

外からは、見張り以外の兵士も出て来たのか、話し声が大きくなった。

十人程がテントから出て来たのに、真咲は焦る。

確認の為に、このテントを覗かれてしまっては事だ。


「……急いで、出た方が良いかな」

「駄目だ。【執行者】の【しらせ】となるとここはもう囲まれているはずだ」

「え?」


プラトムの言葉を肯定するように、テントの外からは子供の笑い声が聞こえて来た。

それも複数。


「なっ!?」


真咲が、不気味な笑い声に慄いていると、プラトムが声をかける。


「マサキ、そこの木箱を動かせるか?気休めだが身を隠しておこう」

「う、うん」


真咲が木箱を動かし、入り口から見えないようにする。

プラトムを、テントとバリケード代わりの木箱との間で休ませる。

傷が痛むのか時折、顔を歪めている。

木箱一つの大きさは真咲が丁度抱えあげられるほどの物が多いが、大きい物もあり、その中に入っていた荷物は支柱と大きな布、テントの余りだった。

その大きな箱の中に、縛められた兵も入れる。


「閉じ込めるのか?」

「うん、意識が戻って暴れられても嫌だし。

【しらせ】達にも見つからない方が良い」

「そうだな。そいつが見つかれば此方まで見つかるか」


真咲は、兵が入っている箱の蓋を閉めて、テントの入り口の隙間から外を伺う。

ここから確認出来る【しらせ】は五人。

蛇に姿を変える事なく、兵士を襲っていた。

小さな子供に不似合いな大きな牙。

強い腕力で、大人の男を抑えつける。

小さな彼等は、兵士を投げ飛ばし、一か所に生きたまま重ねていく。

大人の悲鳴と、子供の笑い声が響き渡る。


「その言、嘘か真か教えよ」


本来ならば、可愛らしいと言えるだろうその声は、こんな場所で聞けば恐怖でしかない。

鱗の力を使った真咲でも【しらせ】の前では何も出来ずに、真咲もまた投げ飛ばされるだろう。

腰に佩く細身の刀も無力だろう。

彼等に思い入れはないが、人間を物のように扱う理不尽さに、怒りと恐怖が湧きおこる。

拳を握り、その感情を抑えつけようとする。


「……マサキ」


小さな声が聞こえ、呼ばれた真咲は木箱を乗り越えて赴く。

プラトムは、木箱に囲まれて床に座っているが、先程よりも息が上がっている。


「プラトム、熱が……」

「外は、見ない方が良い」


真咲の言葉を遮り、プラトムは彼女の腕を急に引っ張った。


「……わ」


そのまま真咲は、プラトムの胸板に顔を埋める形になる。

プラトムとヘルバに同じ事をされて、真咲は複雑だった。

触れるプラトムの体温は高い。

プラトムの太股の上に横座りで座ってしまっている状態なので、真咲は落ち着かない。

離れようと、真咲が身じろぐと、思いがけず強い力で掴まれた。

真咲が顔を覗き込むと、唇を噛み締め、目もきつく瞑っていた。


「プラトム?」

「駄目だ、隠れておくんだ。あいつらに見つかってしまったら……」

「でも」

「……怖いんだ。酷い目に遭うのは、もう、俺だけで十分だ」

「……」


心情の吐露に、真咲は反論も出来なかった。

身体の力を少し抜き、おもむろにプラトムの額に掌を当てる。

真咲の冷たい手が気持ちいいのか、眉間のしわが浅くなる。


(プラトムは、ちゃんとヘルバに会わせてあげなきゃ駄目だ!

こんな、優しい人をこんな場所で亡くしたくない。

すぐに連れていきたいのに、なんで【しらせ】なんかが来てしまうの!?)


真咲は、泣きたくなる。

余りにも、自分とプラトムは運が悪い。

ふいに、【しらせ】の声が止んだ。

すると凍えるような風が一陣吹き、それはテントの中にも入り込んで来た。

その冷気に、蝋燭が消える。


「さぁ、イイサンの兵士どもよ。お前達の中で嘘吐きは誰だ?」


低い、抑揚はないが、通り易い声。

青年の声が真咲の耳に届く。

良い声の部類に入るのだろうが、怖ろしい。

この声の主の存在は、先程までは全く感じなかった。

突然現われた事は、さらに真咲の恐怖を掻き立てた。

イイサンの兵士達は、その男に恐れをなしたのか、何も答えない。


「ふむ、黙ってしまわれると何も解らんな。

じゃあ、こうしよう。

自分が隣の者よりも優れている事を述べた者だけを助けてやろう」


その言葉に、兵士達が色めき立つ。


「さぁ、お前からいこうか?」

「お、俺は、こいつより剣の腕が強い!」

「な、お前!そんな事はないだろう!?」

「ふっ、早速、反対意見が出たな」


その言葉に、兵士二人は言葉を詰まらせた。


「【しらせ】を使う必要もない。

お前達二人がただ、戦えば良いだけの話だ。どちらかが死ぬまでな」


旧19話を引き延ばしたものです。

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