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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第2章 優しい堕天使
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プラトム

ややあって、ヘルバの兄は尋問を再開させた。


「……この手紙の血は、誰の物だ?」

「あたしの血よ、サリーレに刺された時の物をヘルバが使ったみたいね」


その答えにヘルバの兄は目を丸くする。


「刺された?まさか!?サリーレ様が!翼の色が変わったのか!?」

「え?いいえ、白かったけれど……」

「そうか、まだなのか、ひとまずは大丈夫か……」


何やら安心しているヘルバの兄の反応は、真咲にはよく解らない。

そして、両手を掴まれていたはずだが、緩やかに解かれて、肩腕ずつ診察のように触られている。

真咲も呆気にとられていて、力は全く入っていない。


「うん、腕の方は怪我はないみたいだな。身体も怪我は無さそうだ。もしかして、治療して貰ったのか?」


自分の体重で、真咲が苦しげにしている事は差し引いての判断らしい。

それに対して、真咲は得心がいかない。


「スブリマにして貰ったけど」

「……あの方が?人間を嫌っているのに」

「だろうね。でも、治療はしてくれた。あたしは治療中に眠ってしまって、目覚めたら誰もいなくて、その手紙があったの」


真咲に、ヘルバの兄は疑いの眼差しを送る。


「……お前の言った事は、全て真実なのか?」

「そうだよ」


念押しで、ヘルバの兄は確認する。

真剣な表情に、真咲も思わず目を合わせてしまう。


「……女神に誓えるか?」

「もちろん」


真咲はまっすぐに男の目を見据えた。

そこで、ヘルバと違い、少し垂れ目だと気付く。

ヘルバの兄なので、美青年には違いないが、スブリマのような氷のような美しさではなく、もっと優しげな印象を与える。

溜め息を吐くと、ヘルバの兄は真咲を解放した。


「……信用してくれた?」

「一応は。お前、名前は?」

「真咲よ」

「マサキ?変わった名前だな。俺はプラトムという」


翼有種がこんな風に自己紹介をしてくれるとは思っていなかった真咲は驚きつつも、嬉しかった。


「プラトム、ヘルバ達の所に行こう、きっと心配しているよ」

「……あぁ」


真咲が、奮起して貰おうと言った言葉に、何故かプラトムは辛そうな様子を見せた。

気乗りしない様子のプラトムに真咲は疑問を投げかける。


「嬉しくないの?」

「……役目を果たした事になるのかなと思ってね」

「役目?あぁ、ヘルバが確か貴方には役目があるって……」

「……とにかく、ここから出ようか。気付かれない内に」

「う、うん?そうだね」


半ば押し切られる形で会話を中断された真咲だが、プラトムの言う事はもっともなので、大人しく従う。

真咲は、テントの端を抑え込んでいる杭を二本抜き、プラトムが通れる幅を作る。

真咲が通れたテントの隙間は、成人男性ましてや片翼といえど翼のある人物には狭かった。

翼は残った方も怪我をしているようで、畳めないそうだ。

真咲が先に出て、辺りを探る。

兵がテントから出てくる気配はなかった。

片膝立ちで、テントの裾を上げて、プラトムが通り易くする。

しかし、プラトムがくぐる前に悲鳴が遠くから聞こえた。


「助けてくれーっ!!!」

「誰か!!」


巡回に出た兵士が、血気迫る様子で枯葉を掻きわけて中心のテントを目指して走って来る。

真咲とプラトムは、動きを止める。

真咲はプラトムを片手で制して、音を立てずにテントの角から焚火近くの様子を観察した。

兵士達は、見張りの兵に何があったのか問いただされていた。


「何があった!?」

「【しらせ】だ!【しらせ】が来た!」

「あいつら俺らを追って来てる!お願いだ、助けてくれ!!」


逃げて来た彼等の肩口には、二つの傷痕。

大きな蛇に噛まれた様な痕がある。


(……しらせは嘘を吐いた者に噛みついて動けなくするはずなのに。

なんであの兵はこんなところまで逃げて来られるの?

それに、あの肩の傷、出血はあるけれどそこまで深くなさそうだ)


真咲は、物音を立てないようにテントの中に居るプラトムの元に戻り詳細を話す。


「【しらせ】の動きがおかしい?」

「そう、わざと逃がしたみたい」

「……【執行者】の【しらせ】かもしれない」

「執行者?なに、それ?」


真咲の反応に、プラトムは驚く。


「マサキ、【執行者】を知らないのか?」

「知らない。連れて来られてから知ろうとも思わなかったから……」

「連れて来られて?……自分の意思じゃなかったのか?」

「違う」

「ならば、ソコハテにか……。

それじゃあ、知らなくて当然か、後で詳しく教えてやる」


馬鹿にした様子ではなく、同情がプラトムからは見て取れた。

自然と口にしたのだろうが、真咲は思わずプラトムをまじまじと見てしまった。


「信じるの?」

「お前は妹が頼った奴だ。

それは、真実の女神にも誓えるんだろう?なら、今の話も真実だと思ったんだけど、違うのか?」

「いえ、違わない……」


(プラトムは、もしかして、とても良い人なんじゃないかしら?)


先程は、妹を心配しての行動で、本来はこんな感じなのだろうと、真咲は妙に納得してしまった。

旧18話と旧19話です。

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