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逃亡の世界  作者: 谷藤にちか
第2章 優しい堕天使
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助ける理由

覗くと、すぐに目的の人は居た。

テントの入り口に背を向けて、横向きに倒れている。

ゆらゆらと揺れる蝋の灯火に浮かぶ髪は薄い色。

柔らかそうな癖っ毛だ。

ヘルバに似た顔立ちの人は、苦しそうに目を瞑っている。


(この人がヘルバの……!)


背中が見えないので、翼の様子は解らなかったが、生きている事に真咲は安堵する。

同じテントの中に居る見張りの兵士は、他に誰の目もない事を良い事に、木箱の上に座り、眠いのだろう船を漕いでいる。


(イイサンの兵士は皆、士気が低いな。おかげでこっちはやりやすいけど……)


真咲は、するりとテントの中に入り込む。

そして、静かに兵士に近付くと、両手で握ったナイフの柄で思い切り頭を殴った。

兵が倒れる前に、身体を受け止めてゆっくりと地面に横たえる。

思いの外、上手く気絶してくれたみたいだった。

息もあるし、脈もある、血は出ているので後遺症が残るかもしれないが、心配など出来ない。


真咲は、ヘルバの兄を縛めている縄を解こうと近付く。


「っ!?」


片翼は、ごっそりなくなっていた。

背中からもう片方の翼にかけて、この仄暗い灯の元で黒く汚れている。

けれど、本当の色は、翼も服も赤色に違いない。

濃い血の匂いが鼻につく。


「……酷い。すぐにヘルバ達の所に連れて行かないと!」


血は止まってはいるようだが、体力は持たない。

すぐに、治療をしないと危ないだろう。

だが、その為に後顧の憂いを断つ必要がある。

真咲は、縄を解き、その縄を今度は、倒れている兵士に掛ける。

後ろ手に縛り上げ、足も縛る。

後は兵士の服を少し切って、その布を猿ぐつわにして噛ませた。


「こんなものか……」


屈んで作業を行っていた真咲は、近付いて来ている気配に気付かなかった。


突然、肩を掴まれ、視界が引っ繰り返る。

背中に強い衝撃を受け、咳が出そうになるが、首を抑えられているので、苦しさが増した。

真咲に馬乗りになっている男は、柔らかそうな髪質に片翼。

ヘルバの兄だった。


「……お前、何者だ?なぜ、あいつの名前を知っている?」


人間に襲われた翼有種の当然の反応だと、真咲は思ってしまった。

しかし、ここで真咲も倒れてしまえば、ヘルバの兄も危険だ。


「あた、しは、ヘルバに頼まれた」

「頼まれた?人間に対して、あいつが頼み事など……!」


真咲は、証拠として手紙を出そうとするが、両手を頭の上で掴まれてしまった。

抵抗する気はないが、振り解こうとするならば鱗の強化が必要だろう。


「何をする気だ?武器でも取ろうとしたか?」

「違う……!ポケットに手紙が」

「手紙?」


首を押さえていた手が外れて、苦しくはなくなったが、男にパンツのポケットをまさぐられるのは良い気はしなかった。


「これか……」


目を通している様を観察していると、驚いているのが表情からありありと読み取れた。


「……ヘルバはどこに居る?」

「わからない。あたしが起きた時には誰もいなかったから」


真咲は、首を横に振る。

そんな真咲に、男は奇妙に思ったのだろう、こんな質問を投げ掛けた。


「直接は頼まれていないのにか?……こんな手紙一つで、お前はこんな所まで来たのか?

ただのお人好しか、他に目的があるのか?お前がヘルバを脅して書かせたんじゃないのか!?」

「脅してなんかいない!けど……」


真咲は、すぐには答えられなかった。

確かに、直接は頼まれていない。

けれど、真咲は、ヘルバの想いを直接受け取ったのだ、それを無下には出来なかった。

それがどうしてか、というと。


「……あたしは、ヘルバの願いを聞いてあげたかった。

彼女があの場で頼れたのはあたしだけ。たとえ、信用していなくて利用されているとしても、あたしは」


緊張の為か、喉が渇く。

真咲は、男の視線を避け、喉から押し出すように苦しげに呟いた。


「あたしには、助けてくれる人なんていなかったから……」

「……」


ここまで口にして、真咲は漸く自分の行動理由を知る。

誰も助けてくれなかったから、助けを求めていた自分の代わりに、ヘルバを助けようとしたのだ。

旧18話が驚きの長さでした。なので、2話に分割してます。

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