とある男の幸運と不運
——運が良いか悪いかと問われたら。
彼が答えるのは、どちらでもある、だ。
今までのことを振り返ると、彼に降りかかる禍福は等分であるように思われるのだ。
例えば。
木から落ちて腕を折った時、村から出なかった故に、遊び仲間を喰らった魔物との遭遇を逃れ得た。
貧窮した親から捨てられるようにして兵役に出されたが故に、故郷を襲った災害から難を逃れた。
生餌同然に引き合された魔物を討伐し、顔に消えない傷跡が残ったものの、出世への道が開けた。ただし、結婚への道は閉ざされたような気がする。
いつもいつも思うことは、もう少しぐらい、福の配分が増えて欲しい、ということ。
空しくなるだけだが、周囲と己の身の上を比べるにつれ、神は不平等だと実感する。
さて。
先程までに彼に降りかかった事態を分析してみよう。
小うるさい副官から無事に逃げ出し、いつもの昼寝場所に逃げ込めたこと自体は、幸運だった。
が。
彼の昼寝場所のすぐ隣——しかも、結果的に帰り道が塞がれた——で、真昼間から乱交騒ぎを起こされたのは、不運だ。
特に、騒ぎの最中に聞いてはいけない類の情報が飛び交っているのを耳にしたときは、相手の間の悪さと己の不運を全力で呪った。
何の因果か一応とはいえ将軍を拝命いるものの、所詮は平民出身の自分と、現在はさておき、国の発展に寄与したことのある貴族の名家。
選択する余地もなく、後者の言い分に重きを置かれる今現在の状況は、彼にとっての頭痛の種だ。
必死に気配を消した末、堕落貴族に気付かれずに済んだことは、不幸中の幸いである。
さて。
さて。
「阿呆ばかりで助かるが、解せんな。阿呆共を躍らせている繰り手が、見えてこないとは」
「それだけ相手が巧妙なのでしょう。此方側にも糸を巡らせていたのは事実ですの。——簡単に悪魔の誘いに乗るようなものが、大司教とは嘆かわしいですが」
「どのみち、信仰だけでは腹は膨れまいよ。それに、些細な違いを同族殺しの理由にできる生き物に、博愛を説いても無駄だろう」
溜息。
「……何よりもまず、戦争を起こさせないことが肝要ですわ」
「分かっている。そちらには、『聖戦』の時のような旗頭も大義名分も無い。こちらには、戦争に勝利したときの利益がない。——それが、全てだろう?」
もっと、聞いてはいけないものを聞いているような気がする、今現在の状況は、一体どちらに入るのか。
間の悪い男。