飢餓の狂気
最近被害が相次いでいるという、無断転載についてのエッセイを読んで、勝手にビビッて、被害に遭う前に無断転載対策をしてみることにしました。
本作品「地獄の底に咲く花は」におきましては、部分的に本文と後書きを入れ替えると言う無断転載対策を実施しております。
ややこしいことをしてすみませんが、自分の作品が無断転載される想像をすると、イラッときたので、自主的に対策をとってみました。
読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。
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対策については、MITT様のエッセイを勝手に参考にさせていただきました。
早く逃げろ。
逃げなければ。
来る。
——来てしまう。
恐ろしいものが。
おぞましいものが。
◆◆◆
響き渡る絶叫。
それは、生命の危機に立たされた者の声だ。
——今は、まだ、断末魔の叫びでは、無かった。
残念生物達の動きは、意外なほど迅速であった。
唐突に、黒猫がどろりとその輪郭を崩す。
そしてほどけた黒は、クロードの腕の中から、薄闇に落とされていた影に溶けて消える。
また、ウサギと竜の着ぐるみは、残像が後を引きそうな勢いで、暗い路地を駆け抜けていった。
——ぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすぽすっ!
遠ざかって行く間抜けな足音に、ヴォルケは脱力して転びそうになったが、何とか堪える。
異常事態に対処するのが、最優先であった。
異変の中心だろう場所へ、駆け出して間もない時だ。
ヴォルケの身体が、意思とは全く無関係な部分で、動く。
——僅かな変化を、知覚する間も無かった。
自分が屈んでいることにヴォルケが気付くのと、彼の頭上を異様な気配が通りすぎたのは、ほぼ同時。
「——はぁっ!!」
リアの裂帛の気合と共に、激しい金属音が響いた。
暗闇の先でヴォルケに見えたのは、月明かりに照らされた白い肌と、紅い輝きを放つ鈍色の刃、そしてリアに圧し掛かろうとする、黒い影だ。
鉤爪の様に曲った指と、リアが持つ中途半端な長さの両刃の刃が、がっちりとかみ合っている。
よく見ると、剣の刃をまともに受けた手は、びっしりと鱗で覆われていた。
彼等のつばぜり合いは、一瞬にも満たない。
リアの剣が攻撃を受け流し、黒い影の姿勢が崩れた。
そして、襲撃者の空いた片腕が振り下ろされるより早く、リアの蹴りが相手に見舞われる。
リアの小柄な体格に反して、相当に重いであろう一撃は、だが、襲撃者の足を一歩後ろに下がらせるに留まった。
そうして、ちらりと見えたそれに、ヴォルケの背筋を冷たいものが走る。
——闇の中で青銀に輝く瞳は、明らかな人外の証として、瞳孔が縦に割れていた。
その瞳が、リアを見据えて愉悦に歪む。
「——どっせいっ!!」
びごぉんっ!!
ヴォルケは、思わず肩を落としていた。
……だから、何故にいちいち間の抜けた音を出すのだろうか……。
ピコピコハンマーとかいうヘンな武器を振り抜いたクロードは、敵を吹き飛ばすのと同時に、この場の緊迫感も粉砕したのである。
「何やってんだ、お前はっ!」
クロードは、びしっと、襲撃者に指を突き付けるが、右手に持つおもちゃの様な見た目の鈍器のせいで、全く迫力が無い。
ふっと、雲に隠れていた月が、姿を現す。
月明かりに照らされ、路地に蹲っていたのは、少年の姿をしたモノ。
ギラギラとした人外の瞳は、どうしてかリアに向けられている。
それの顔は、赤黒いナニカで凄惨な化粧が施されていた。
「——ヨコセ」
その面に浮かぶのは、底なしの飢餓に引きずり出された狂気だ。
ヴォルケが、以前見たことがあるもの。
リアの目がすっと、細くなる。
「人食いか」
淡々とした言葉には、恐れも何もない。
「クワセロ」
「あのなぁ」
それが動き出すのを阻むように、クロードは苛立たし気な声を上げた。
「——ねーちゃんは、食べるものじゃ、ありません」
「ウルサイ」
言い聞かせるようなクロードの言葉が、それに届いた様子は無かった。
「——クイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクイタイクワセロォッッッ———————!!!!」
人外の金切り声は、途中で咆哮に変わった。
ぐにゃり、と、襲撃者の輪郭が歪む。
地面に落とされていた影が、見る間に膨れ上がった。
「——お前ら、何危険物連れ込んでんだよっ!!!」
「違うしっ!
濡れ衣だからっ!
あいつは俺らと別枠なんだっ!!」
怒るヴォルケに、クロードが腕を振り回して弁解する。
金属的な煌めきを放つ青い鱗。同色の皮膜が大きく広がる。鋭い牙と爪は、簡単に人を屠れるだろう凶暴性を秘めていた。
——普段ヴォルケが騎獣として目にするワイバーン等の亜竜に似た、けれど亜竜よりも厄介な存在。
「ついこの間まで雛だった様な竜が、こんなところにいるとはな」
リアは、呆れた様に鼻を鳴らした。
年若いと言えど、真竜は真竜だ。
けれど、世界最強種と呼ばれる存在を前にして、リアには恐れも何もない。
「喜べ、レーゲン将軍」
リアの口元が吊り上がり、その瞳の黒炎が苛烈に燃え盛る。
「——成上がりの将軍の次に、竜殺しの箔が付くぞ」
「ちょ、殺る気満々だぁっ?!」
クロードの緊張感の無い叫びに、リアは凄絶に嗤った。
「人の味を覚えた阿呆は、とっとと狩るに限る。
——それに、『アレクサンドリアの人喰い竜』が、今更幼竜如きを恐れる道理も無い」
家屋をゆうに超す巨体を前にして、ヴォルケよりも小柄な娘は、背筋が寒くなる様な戦意を滾らせていたのであった。




