逆ハーレム万歳と思っているようなら帰れ……むしろ、帰して。
プロローグ
平凡な女子高校生である彼女は、焦っていた。
だらだらと、頬を伝うほどの冷や汗というものを流していたに違いない。
注釈で『生きていたら』と、付け加える必要があるが。
彼女は死んだ――――そして、焦っている。
けして、目の前にコンビニ期間限定の豚骨ラーメンまみれで美味しそうな匂いを放っていそうな自分の死体が横たわっていることにではない。
百歩譲って、両親不在のため、キッチンで夕食めんどいとカップラーメンに熱湯を注ぎ、自室で食べようと、緑茶とトマトと菓子パンとか持って急いだせいでお茶が足にこぼれて『あぅつうん!』とか奇声を上げて、反射的に片足上げたら、よろめいて後ろに転び、打ち所が悪くて死んだのはよかろう。
いや、花の乙女としてはどうかと思うが、死んでしまったのだから、しょうがない、と彼女は思った。
まだ、やりたいことは沢山あった。
この死に方は正月に餅を喉に詰まらせて死ぬほど有り得ないと思うし、家族や友人たちに二度と会えないという事に、泣きそうにもなった。
だが彼女の最も強い心残りは――――自室だ。
つみあがったライトノベル、漫画、雑誌、攻略本。本格RPGから乙女、ぎゃるゲーまで浅く幅広いジャンルのゲームソフト。中には兄から拝借した大人様限定のPCソフトも、薄っぺらな本もあるのだ。PCのお気に入りリストは、当然それらに関するもので、ディスクトップはお気に入りのゲームのキャラクターだ。残る観覧履歴は、大好きな声優さんの仕事を追った軌跡なのだ。
オタニートの兄と、中二病を患った弟の影響受けた、隠れオタクというのが彼女だ。
隠そうともしない兄弟に比べて辛うじて、隠すぐらいの羞恥が彼女にはあり、学校では、成績も運動も極々平凡な女子高生に過ぎない。
もう少し付け加えるなら、容姿がかなり劣っているということだろう。
大きいといえば聞こえがいいが、ぎょろりとした瞳。高いには違いないが、浮世絵のような見事な鉤鼻。口の形だけは本人は気に入っているが、笑うと鋭すぎる犬歯が覗く――――17年間の間、彼女は『魔女』以外の綽名は付けられたことがない。
その上、オタクというレッテルは涙がでるため隠したのだ。
ばれていたなら、『魔女』から『オタク魔女』にレベルアップを遂げていただろう。
娯楽の産物は六畳の部屋に所せましと並んでいる。
今、彼女の脳内では、母親の『部屋を掃除しときなさい!』という言葉がリフレイン。涙がでていたなら、大泣きしているであろう。
恥で死ぬ。いや、死んでるけど、と彼女が苦悩していると、ぺか!と光った次の瞬間、ネット小説のようにテンプレ的神様(仮)の御前であった。
部屋を掃除してあげるから、異世界行かない?――――その話に彼女は、飛びついた。
おぼろげな知識を駆使して、女衆と試行錯誤の末に、魔獣の脂肪で作成した蝋燭擬の恩恵に預かりながら、日記を認める手を止めた。
僅かに混じる桃色の弱光に、違和感があるが贅沢は言うまい。
できた当初は油っぽい異臭が鼻を掠めたが、制作者である村の女衆の努力で、微かに甘い花の香りが漂うほどになった。膝丈草と呼ばれる赤い草の精油が混じっているため、ほのかにオレンジがかったピンクと色もよく、アロマセラピーの効果もあるようで、身体がぽかぽかする。
特に冬には重宝される、村の重要な資金源の一つだ。
……――――もう、二十歳になったんだろうか?
ふと、日下部 梨央の手が止まったのは、自分が成人しているかもしれない事に気が付いたからである。
異世界に来てから、三年近い。
地盤となる生活が安定するまで忙しかったので、誕生日など祝う暇もなかったし、日にち感覚も乏しかったのだ。
こんな感傷に浸るのも、昼間にジョン=ドウの弟であるルウが、成人の儀式を受けていたのを思い出したせいだろう。
同じく成人の三歳にして、最年少で長老衆までに成り上がった彼らの叔父であるロロから、一人前の男であることを認められたルウは照れつつも、誇らしげだった。
ジョンは自分の事のように喜び、狩りを勤しんで、夕食を豪勢にしていた。
料理をしたのは梨央で、ルウへの祝いは十分かと思ったが、ジョンの時も疑似羊の毛の糸を紡いで編み、ミサンガを作ったので、ルウの時は低確率微毒苺で、橙色に染めて、色違いを作った。
よほど嬉しかったようで、ルウは抱き付いてきたが、ギド先生に『いけません。成人した紳士の行動ではないですよ』と、吹っ飛ばされていた。
熱の籠った抱擁を回避できたことを、梨央は密かにギドへ感謝を送る。
出会ったころは胸元までの子供だったが、今や梨央の身長とほとんど変わらない大人だ。
続いて、ジョンとルウは兄弟で何やら話をしながら、楽しそうにロロの所へ走って行った。
声は聞こえないが、ロロも困り顔ながらも、了承しているようだ。
ロロの糸目がこちらを向き、微笑みを浮かべ小さく頭を下げる様子に、梨央が頭を下げ返すと、ルウとジョンを連れて、立ち去って行った。
たぶん、これからルウと同様に成人した子供たちを中心に、一族の宴の準備をするのだろう。
梨央も料理班として、参戦するつもりだ。
和気あいあいとする、仲のいい家族。
そんなドウ家の家族のやり取りを眺めていたせいなのか、久々に強い郷愁に駆られた。
生前――――梨央が現代日本で生きていた頃は、家族仲は悪くなかったのだ。
「――――だ!ドケろ!」
「キュ―――!きゅいきゅい!―――!!」
もしも生きていたなら、母方の祖母の代から伝わっているらしい着物に身を包み、少ない友達と共に成人式なんぞにいっていたのかもしれない。
若干かび臭いし、着物は動きづらいし、草履は転びそうだから嫌だと、前々から両親に対してごねていた記憶も懐かしい。
そもそも美魔女顔ではなく、老魔女顔の梨央は、成人だからといって着飾る気はなかった。
だが今なら、両親の言葉に素直に頷いて、兄弟にちゃちゃを入れられるのも甘んじて受けただろうし、奇跡的に結婚することができたら、娘には同じ着物を強要しよう。
と、そこまでたどり着いて、苦笑した。
もし神様(仮)に【部屋の掃除】など頼まずに成仏したほうが、よっぽど幸福だったのではなかろうか。
痛む頭を押さえ、その可能性を考え――――途中で、無益だとやめた。
すでに遠い過去のことだ。
異世界に来てから神様(仮)は、一度たりとも梨央の言葉に答えたことはない。
放置プレイにしても、度が過ぎている事を考えれば、今後も答える気はないのだろうと予想される。
それに梨央は、この異世界生活が大嫌いというわけではない。
最初の頃こそ、あまりの酷過ぎる生活環境と自分を保護したドウ家と一族の無力さに、神を恨みもしたのだが、苦難も、逆境もみんなで覆してきた。
少ないながら大切な仲間を得て、微妙とはいえなんとか文明生活まで作り上げた。
「ジョン兄サ―――!」
「ぎゅうういいん!!」
「~~~れは、ボニート殿!や、やめっ――――」
「ぐぁあ!!」
紙一重の日々を過ごして、感じたのは『生きている』ということ。
今度は取り返しのつかない命に、恐怖し、戦慄し、激しく脈打つ己の鼓動に、『生きている』という事を強烈に意識した。
『リオさん――――えで、何をし……るんですか、貴方たちは……』
「きゅい!きゅ……ううい!」
――――ドウ家と仲間から、学んだのは『精一杯生きる』ということ。すべてはまず、そこから始まるのだということだ。
『なっ!……皆さんっ!本当ですか!な、なんて、破廉恥な!』
「おまえノ存在の方ガ、ハレンチだ!」
「一理あり――――」
「きゅ……きゅう、き」
「モ……ジョン兄サン、ロロ叔父サ――――て、リオ姉サン、起きチャ―――」
――――そして、自分の辞書に日本人特有の【謙虚】や【遠慮】という言葉は、この世界においては、ホワイトで修正しなければいけないぐらい不必要であるということ。
もしくは、他の者に合わせていたら、今頃、意に反して二児の母ぐらいになってであろうことは、簡単に想像できる。
感傷に浸る間もなく、自室の扉の前での激しい口論に、梨央はぶちぎれた。
目前にちゃぶ台があったら、ひっくり返しているレベルである。
常に腰からぶら下げている編み上げ鞭は枕元にあるので、手を伸ばして武装し、簡素な鍵を開けた。
怒っているとわかりやすくアピールするために、怒声を上げながら、同居人たちが集まる中に飛び出した。
「―――――っせぇ、起きとるわ!こんな煩くて寝れるか!!」
壁に向かって、挨拶代りに鞭を叩き付けると、ビシイイ!!という素敵な音が響く。
躾の甲斐があったのか、五つの影が硬直したのが、見て取れた。
もっとも、本当に躾けされていたら、部屋の前で騒ぎなどしないのだろうが。
既に就寝時間は過ぎているし、梨央も日記を認めれば、眠る体勢であったが――――騒ぎは収まらず、就寝できないであろうと長年の経験から悟っている。
同じ屋根の下に住む男5人を睨みつけた。
「今度はなに!オークの敵襲でもない限り、頼むから寝かせて!?」
鬼の形相をした梨央の迫力にやられたのか、暫しの沈黙が下りて、ぎょろぎょろとした真紅の双眸を細めて、ジョンが口を開いた。
肉食動物のような、鋭すぎる牙が覗く。
「……今日、ルウが成人シた」
「うん。言わずとも、しってるがな」
昼間に一緒に盛大に祝ったのを、忘れたとは言わせない。
ジョンは大げさに二度頷いて、真剣な眼差しを梨央に向けると、やや掠れた声で告げた。
彼の一族は元々咆哮で会話にしているため、大陸の共通語のニュアンスまで流暢とはいえないが、意味を理解するまで時間がかからない。
「オレも、ロロ叔父上も、とっクに成人シている」
改めて言われずとも、ドウ家の関係性を考えても簡単に理解できる。
梨央は酷く嫌な予感を抱きながらも、目配せして続きを促すと、あっさりとジョンは爆弾を投げつけてきた。
「だから【ドウ家の嫁】にナってクれ」
何度も申し込まれていたが、丁重に断っていたはずだ。
つまりジョン=ドウを筆頭とする、弟のルウ、叔父のロロの三人の嫁になれと言っているのだ。
別に、彼らが可笑しいというわけではなく、価値観の違いだ。
彼らの種族は多産だが、子供が1歳を迎えるのは半分程度までになってしまう。 勿論、男よりも弱い女性は生存率が低く、伝統的に一家に一人嫁という形なのだという話は知っている。もしくは、五人兄弟に嫁二人とか。
話なら昼間でもできたものの、皆が寝静まった後にやってきたのだ。
実力行使という名の、夜這いであることは明白だ。
もっとも、彼らの種族では珍しいことではないから、文化を頭ごなしに否定する気はないが、己の身に降りかかるなら話は別だ。
いくら、ゆとりのある現代社会で生きていた時よりも、心も身体も強くなっているとはいえ、梨央はチートもない、ただの人間である。
いくらゲームと漫画に塗れた人生でも、まだ花も恥じらう乙女。
ジョンは無知さと武骨さ故に、若干デリカシーに掛けるものの、思いやりがあり、気持ちのいいぐらい真っ直ぐな青年だということを、梨央はわかっている。
この村では実力主義で、村長は血筋ではない。
美男子な上に、将来有望株であるジョンが時期村長ではないかと、謳われるほどだ。
本来なら夜這いし放題である。
多くの女性から誘惑されているが、見向きもせずにいることも、どこぞの家族から結婚の話が持ち込まれていることも、知っている。
されど、彼――――彼等が受けたことは一度もない。
梨央がドウ家に保護されたことで、多くの困難があったはずだ。
彼等は、幾度も屈辱と敗北を味わった。
それでも、ボロボロになりながらも、梨央を信じて、立ち上がった。
無論、家族に付き合うように叔父のロロは梨央の保護と、村人の先導に心を砕いていたし、いじめられっ子だったルウは弱い梨央を守るために努力し、形は違うが今や兄に次ぐ実力者だ。
この大陸で最下層に近い彼らは、梨央のために、進化した。
梨央は助けられた。
ドウ一家には、守られ、慈しまれ、愛されていた。
たとえ下心があろうと、この三年間、心を砕いてくれていた事に感謝しない日はないし、心地の良い生活が、この先も続いてほしいと願っている。
だから打算的にも、乙女心としても、ジョン=ドウのプロポーズに正直、心が揺れないと言えば嘘になる、が――――――
「ここで、逆ハーレムとかいらんわ!!」
要らない所で身体能力を発揮し、行き場を失った悲しみの八つ当たりと恥じらいで、ジョンに飛び膝蹴りを喰らわせた梨央に、たぶん罪はない――――とはいえ、ジョンにも罪はない。
梨央は、兄の大人仕様ゲームや漫画で精神耐性がある。
だからと言って、現実となれば、やはり躊躇うのも当然なのだろう。
もし、ドウ一家が人間だったなら、即答でプロポーズを受け入れていたぐらいに熱烈な愛情を注がれているし、好意もある。
―――――だが残念ながら、ドウ家はゴブリンだった。
人型といえば、そうかもしれない。
両手足という構造は同じであるが、長めの腕と、四本の指。
先端の尖った耳に、くすんだ灰緑褐色の肌をしており、最弱のグリーンゴブリンからハイゴブリンへ進化したゴブリンナイトのジョンは180センチほどあり、かなりがっしりとした身体となっている。
昔は毛皮の腰蓑一枚とかだったが、きちんと清潔なズボンとシャツを着ているのが、なぜだか妙に違和感。
ぎょろりとした白目のない真紅の瞳の上に、高い鷲鼻、覗く凶暴そうな牙。
まるで自分が男であったなら、こんな顔だろうと思える容姿だ。
無論、梨央には髪と眉毛はあるが、これがゴブリン族随一の美男子なのである。
ちなみに梨央が不審者として、即座に手打にされなかったのは、不幸にもゴブリン種にとって、美貌の持ち主だったからである。
ジョンは元々、美男子であること以外は平均的なゴブリン種で、叔父のロロと旧知のボニートが身近にいたせいか、大陸共通語を操れる程度には頭が良い程度だった。
下手すると普通に狼にやられることだって、大型の魔獣と対峙すると死の危険すらあったグリーンゴブリンに過ぎない。
だが、ジョンは梨央を守るために、只管に剣を振るい、努力した。
短絡的で、粗野なゴブリン種のジョンが、ただ―――――梨央に、惚れたという理由だけで。
急所に入ったのか、軽くえずいて膝を床に付けたジョンだが、どちらかというと梨央の膝の方が大ダメージだ。
明日には青あざになっているだろう、理不尽な痛みに涙目である。
「ま、待って、リオ姉サン……オ願い」
オロオロと狼狽えた様子でルウは、控えめに梨央の袖口を四本の指で掴んだ。
実弟よりも1.8倍ぐらい可愛いルウに、梨央はジョンに対する物理的な追撃を断念する。
梨央はここにいる全員の中で、比較的ルウに弱く甘い。
理由は短絡なゴブリン種に珍しい気弱な性格と、その面立ちである。
彼が苛められていた原因だ。
ゴブリン種に多いぎょろりとした獲物を狙うような瞳ではなく、くりくりとした程よい大きさに、高くはない鼻と、非常に起伏のすくない顔立ちなのだ
つまり、とても人と顔立ちが近い。
弱肉強食の精神を持つゴブリン種に囲まれた生活をしていた梨央にとって、人間の子供のような顔立ちのルウには、一方的に慰められていたという経緯もあり、やや天然な所も相俟って、可愛がっていた。
彼の気弱さは優しさに似て、人間の常識に近いこともある。
同世代の同朋の露骨な苛めに立ち向かう姿は梨央には眩しく、生きる気力を幾度となく貰った。
梨央が来る前は、苛められっぱなしだったらしく、強くなりたいという理由を聞くと『リオ姉サンを、守れルようにナリたいから……』と、いじらしい答えが返ってくるのだ。
その時、気が付けば梨央はルウのつるつるの頭部を撫でていた。
考えてみれば、ゴブリン種に自分から触れたのは、ルウが初めてだっただろう。
ルウもまた、姉として呼んでいる事を考えれば、仲は悪くない。
若くしてハイゴブリンへ進化後も面立ちには人間らしさが残っており、160センチもない梨央と身長は変わらないのに、猫背気味だ。
人間っぽい顔を隠すために、狼の顔と一枚続きの毛皮を頭から被っているが、その隙間からウルウルとした真紅の瞳が、上目づかいで覗いている。
「ルウ君?」
ルウは瞳を伏せ、腕に巻かれた橙色のミサンガに視線を送っていた。
だが何かを言いたげにギザギザの牙を覗かせながら、口を開閉していたが、梨央の呼びかけに対し、腹に力を入れたのがわかった。
「ルウも、リオ姉サンが、イい――――リオ以外は、イやだ」
初めて呼び捨てにされた事と、潤みながらも、燃える様な意志を宿す瞳にたじろぐ。
ルウは気弱だが、ゴブリン種では珍しいタイプで、勤勉で粘り強く、一度やると決めたことは絶対に曲げない頑固な性質だからだ。
やはり彼もドウ家の血筋だったのだなと、妙に納得してしまう。
強くなる、と決めたルウは、今や同世代のゴブリン種の中で、間違った方向へ飛びぬけた逸材となり、今では逆にいじめっ子たちを従える立場となっている。
するりと、四本の指が袖から手首に移動した。
少年だと思っていたのに力強さには男を感じ、人間よりも低い体温にゴブリン種であることに混乱しながら、梨央は眉根を寄せた。
あの少年だったルウが、男の顔を覗かせる。
いつもなら察して引き下がるルウは、梨央を見つめたまま『お願い』と口を開く。
「そ、そレにっ、ゴブリン種とヒューマン種でも、イっぱいしたら子供デキるって言ってたから、三人いれば、だいじょっ――――!!!」
言い終える前に、鞭を喰らいマヒ状態で倒れるルウを無言で見下ろし、迸る怒りを抑える気配もなく梨央は元凶に振り返った。
「………ロロさん」
ドウ兄弟の保護者である叔父はゴブリン種には珍しい糸目で、やつれている印象を受けるほど華奢――――とはいえ、単純な筋力は進化したロロに、梨央は適わない。
見るものが見れば、後頭部から背筋、目元から首に伸びる黒い刺青から、彼を魔術師だと判断することができるだろう。
魔術を使う稀少なゴブリン種。
そして、その意味は当然、魔術を理解できるほど頭が良いということだ。
少なくとも、ドウ兄弟よりは断然回転が速い。
ヒューマン種である梨央とゴブリン種で、子作りできることを知っていて、長老衆になるほど信頼されている叔父がドウ兄弟に、色々と吹き込むのは簡単だっただろう。
「いやぁ、申し訳ない」
他のゴブリン種よりも、恐ろしく流暢な共通語で『ゴブリン種の繁栄のためには、知識を与えるのも僕の仕事で』と、あっけなく白状した。
「甥っ子たちに夜這いを推奨するのも、仕事ですかね!」
「んん?これでも僕は止めほうだよ?」
「ばっ―――」
「ジョンなぞ自分が成人したら、君を夜這いして、娶ると聞かなかったからねぇ」
遮る様にして告げられた事実に、稚拙な罵声を飲み込んで、梨央は呻きながら拳一つだけ背の高いロロを睨む。
ジョンの成人は二年以上前だ。
それが本当ならば、逆にロロにお礼を言わねばならない立場だ。
今でこそ遠慮もない梨央だが、異世界に足を踏み入れて暫しは大人しかった。
一転する生活に慣れず、少なからず心労はあったし、怯えていた。
その頃に、夜這いされていたなら、次の日には逃げ出すか、深く恨んでいただろう。
ゴブリン種の特性が色濃いジョンに対し、ドウ家の最年少であるルウが成人するまではやめなさいと、諭した姿が目に浮かぶ。
その粘り強さで、梨央が感情と折り合いをつけて納得するのを待ち――――ロロは糸目の目尻に皺を寄せると、ゴブリン種にしては珍しい温和な微笑みを浮かべ、やんわりと追撃した。
「君は我が一族の女神だがねぇ……未婚であることにいい顔しない者も多い」
瞬時に片手程の人物が思い至り、梨央は口を噤んだまま。
長老衆としての立場で、さり気無くゴブリン種の雄の不満を解消しているのが、このロロであるということぐらいは梨央も知っているのだ。
その為に、色々させられた事も多いが、感謝もしている。
たぶん最初の頃は、災いの火種であった梨央を、ロロは快くは思っていなかったはずなのに。
「わかってくれるかい?ルウも、ジャンも、君の身を心配しているんだよ。無論、僕もね」
ドウ家は現在ゴブリン種で、かなり立場の高い位置にある。
村の方針に決定権を持つ長老衆で稀少な魔術師であるロロは勿論、村で最強の戦士であるジャンは何度かあった他種族との抗争の前線で貢献しているし、梨央的には限りなく間違った方向に進んだアサシンのルウは隠密行動を得意とし、敵の奇襲を未然に知らせ、幾度なく村を救っている。
変な話だが梨央の美貌故に、どの家も梨央を望んだのだ。
当初は梨央を、村の独身男性共有にして、種の数を稼ごうという話があったほど。
それが、今は全く聞こえないのは、強い仲間がいるというのもあるが、このドウ家の嫁になるであろうと思われているためだ。
「……君を、慈しみたい」
ロロの四本の長い指に梨央の手が収まっており、その掌に静かに口づけが落ちた。
ひんやりと淡い感触。
親愛や敬愛の様にも取れるが、セックスアピールにも通ずるものがあり、ドキリとするのに嫌悪がない――――そのことに、やはり梨央は困惑した。
日頃は飄飄としているだけに、囁きに籠る真摯さが、強烈な印象を焼き付ける。
そもそも、ロロが求婚に参戦することは、今までなかったのだ。
てっきり、関与しないのかと思っていたが、ここ一番で出てくるとは。
あうあう、と声にならない音を発しながら、梨央が狼狽したのも仕方がない。
元の世界で17年間生きていて、性格もいいとはいえず、顔も残念な彼女に彼氏などという奇跡などはなく、これほど他者から、好意を寄せられたこともない。
正直、家族や友人以外に優しさを与えられたのは、ほとんどないだろう。
異性というならば、数える程度だ。
たとえ相手が人外であろうと、尽くされることや、女として扱われる事に、耐性のない梨央にしてみれば、クラクラするのは仕方がない。
人としての容姿ではないとはいえ、3年間ですっかり慣れてしまっている。
「きゅうううぃいい!!(ええええぃい!!)きゅい、きゅ!きゅうきゅきぃ!(リオは俺の嫁!誰にもやらん!)」
小動物の小さな鳴き声と同時に、脳内に中年男の声が副音声のように響いた。
発している声と、魔法による翻訳という、二重音声。
音を発した廊下の天井から垂れていた巨大な水袋がロロに体当たりする。
大した衝撃ではなかったようだが、よろけたロロは巻き込まぬ様に、梨央から4本指の手を離すと、苦笑を浮かべた。
「いや!お前の嫁じゃないし!」
助かったことは助かったが、また話のややこしくなるだろう人物に、梨央はすかさず蹴りという名の物理的なツッコミを合わせて入れる。
もしここで、否定しなければ、本当に嫁にされるだろう。
それをネタに、セクハラされるに決まっている。
「きゅう、きゅうーきゅいっ!(じゃあ、リオは俺の妻だ!)」
「違うっつーの!」
「きき、きゅうん!ぎきゃんうきゃっ!きゅきゅきゅううぃ!(いくらドウ家とはいえゴブリンだぞ!人間である俺の方が!断然いいだろ!)」
2度目の蹴りを避けて、ぴょんぴょん跳ねるのは、縦横80センチはあるだろう饅頭型の球体だ。
外側から中心に掛けて深みのあるくすんだ水色の濃淡のグラデーションになっている半液体の塊で、目を凝らせばビー玉よりは大きい透明な水晶体があるだろうが、薄暗い廊下では判別つかない。
もしくは、何度か本気で梨央が壊そうとしたため、常に移動させているのかもしれない。
異世界の定番、スライムである。
ゲームの中では、勇者が最初に相手をするだろうモンスターだが、このスライムはユニークモンスター中のユニークモンスター。
「ボニート殿……そろそろ、ヒューマン種ではなくなった事を受け入れたほうがいい」
「き、きゅう!きーきー、きゅるるきゅいん!(う、うっせぇ!身体はスライムでも、俺の心は人間なんだよ!)」
スライムであるボニートは、元・人間だった。
梨央がいるザ・ヴァス大陸に人間はおらず、魔族の天国と化している。
その大陸より、北西にあるらしいオビシビア大陸のとある魔法大国イノール・パースという国の魔法兵士の最上級職・聖騎士だったらしいが、不死の病すら治すと言われた『古の龍の心臓と血』を求めて、ザ・ヴァス大陸へと数年かけて来たらしい。
ラビラ海峡といわれる、船乗りに有名な海系の魔物スポットを奇跡的に乗り越えて。
上陸した時は、すでに仲間たちボロボロ。
これ以上の探索は無理だと判断し、転送の奇跡を宿した魔法道具で帰還するはずが、魔物に襲われ、全滅を避けるために、ボニートは殿となって残ったらしい。
ここまで聞くと、かなりボニートはカッコいいが、実は上司に置いてかれたのだとか。
辛うじて逃げることに成功したが、瀕死の重傷。
動けぬボニートを死に至らしめたのが、スライムだったらしい。
本人の話だと食われたらしいのだが、当時は上司への恨みで死んでも死にきれず、気が付いたらスライムの精神を乗っ取ったのだとか。
スライムはボニートを食べて進化していたので、記憶を保持したまま、最下層の魔物ながら、なんとかザ・ヴァス大陸を生き抜くことができたらしい。
眉唾物だと思ったが、性別と生活環境の差はあれど、彼の思考は実に人間的だった。
そして何より、不良とはいえ騎士の教訓が生きているのか、女性には紳士的だったが、それが行き過ぎて、現在はセクハラの方が多い。
「きゅう、きゅ、きょうぃい……きゅう?(なあ、リオ、俺じゃあ……ダメなのか?)」
ごぽごぽ、という水音を上げて、饅頭型の水球が盛り上がり、人間の男の形へ。
色彩は濃淡のある水色ままで、男の顔だけが曖昧な輪郭を描く。
ハッキリとせずとも、十分な男前で、骨格も騎士職というにふさわしい胸板だ。
自分の見たことがある種族ならば、ドッペルゲンガーのように色彩まで完璧に変化できるというのに、魔物として長すぎる時を過ごしたため、ボニートはもう――――己の姿を思い出せないのだ。
一度は受け入れた事実だが、ボニートの苦しみは計り知れない。
もどかしさとも焦燥とも取れる曖昧な顔のボニートは、背景が透ける手で梨央の二の腕を掴む。
人間という彼の定義は、もはや心でしか証明できないのだ。
だから失った部分を求めるように、自分を求めるのではないかと梨央は思っている。
「きゅい、ききゅるきゅっ…(俺は、お前を本気でっ…)」
異世界で最初に、梨央を見つけたのが、このボニートだった。
旧知だったドウ家に保護してもらうように掛け合ったのも彼で、この男に見つけてもらわなければ、チートもない梨央は森の土となっていただろう。
その後も、村の開発に力を貸してくれたし、感謝は尽きない。
セクハラされ、サンドバックならぬウォーターバックにしたことも多々あるが、一緒にいて気分を沈ませている暇など無いし、軽口の叩き合いも悪くはない。
気安くはあるが、きちんと大人の男として、自分を見守ってくれているのだろう。
梨央ですら気が付いていない感情を、ボニートの方が察するほどだ。
同情の余地も、惚れる要素も、十分にある、が。
「まず人の恥じらいと配慮を思い出せ!!下半身NG!!ノー象さん!!」
肉体が水色に透けていようが、かなり正確に下半身も再現した為、動くたびにブラブラと揺れる立派な象が視界にちらついて、梨央はボニートの腹部に正拳を反射的に放っていた。
硬いゼリーを殴った感触。
腹部を突き抜ける拳に、どろっとボニートは液体化し、饅頭型になる。
「きゅ!きゅい!きゅーきゅるるきゅっ!(ひでぇ!ひでぇよ!マジでプロポーズしてんのにっ!)」
裸ぐらい、見なかったことにしてくれよ!と涙声で叫びながら、転がっているスライムに対し、なにがツボに入ったのかロロは口元を抑えたまま、背を向けて震えていた。
何度、鞭を振りかぶっても、はぐれている感じのスライム並の速度で避けられる。
珍しく家族全員で挑んできたドウ家と、不安定な人型になってまでボニートが深く立ち入ってきた事に理由を欲して、鞭を振る梨央は動揺のままに声を荒げた。
「まったく、なんだ今日は!異世界的エープリルフールですか、先生――――……ギド、先生?」
梨央がドアを開けてから、終始無言だった人物に視線を送ると、左右に二つずつある円らな瞳を伏せて、深刻そうな空気を漂わせている。
感情がわかりづらいゼジド種ではあるが、少なくとも梨央には、そう感じる。
ここにいる誰よりも強く、素晴らしい知識人でもあり、思慮深い紳士だ。
ゴブリンの村では、用心棒と教師を兼任しており、周囲から『先生』と敬愛されている。
ただ感受性が強いせいかわからないが、少し悲観的なモノの見方をするせいか、自分の世界に入り込んでしまうことが多い。
「大丈夫ですか、ギド先生?」
素早いボニートに鞭を振るう手を止め、頬らしき部分を優しく撫でると、赤子の肌のように滑らかな感触。
ここにいる他のモノなら、鞭で叩くか、もしくは安全圏からの蹴りの一つでも喰らわせる所だが、この扱い一つで、梨央からも尊敬が窺える。
はっとした様に、ギドが顔を上げ、パチパチと四つの円らな瞳を瞬かせた。
『貴女という女性は―――……』
切なげなダンディボイスが、脳内と腰に響く。
言葉を発するほどの声帯機能のないボニートと同様に翻訳魔法で通訳されているが、ギドの場合は人間の耳では拾いきれない音域で会話をするため、脳内ボイスだけが頼りだ。
『リオ嬢。私のような、ゼジド種に対して、触れる、など……いけません』
ギドは泣いていると錯覚するほど震える声で、怯えるように僅かに身を下げた。
普通にいつも触れているじゃないですか、と梨央が不服に口を開こうとしたが、ギドは大きい頭部を左右に力なく振った。
彼が自分に自信を持てないのを、梨央は知っている。
昔は梨央とて容姿を恐れた事もあったが、ギドの振る舞いはいつだって誠実な紳士であり、まるでお嬢様扱いである。それなりの体重のある梨央をお姫様抱っこというシチュエーションをつくったのもギドであり、密かにキュンとしたのは末代までの秘密である。
むしろ、盛るスライムや、夜這いを掛けてくるゴブリン種から守ってくれた。
唯一の良心的な存在である。
そもそも、五人が一つ屋根の下に過ごしているのも、他のゴブリン種から守るためであり、隣の部屋がギドで適切だと自然に考えるほど――――むしろ、ベッドが隣でも可と思うほどである。
『どうぞ、私に勘違いをさせないでほしいのです』
ただ残念なことが一つだけあるとすれば、彼の脳内に響く声だ。
低く耳朶に囁かれるような声が梨央の好みにどストライクで、しばしば力の籠るダンディなエロボイスは腰砕けになることもあった。
一瞬、響くギドの声に梨央は言葉を失うほどだ。
それが、怯えていると勘違いされているようだが、はっきりと『腰、砕けてます』とはいえず、悪循環になるときがある。
立っていられなく事もあり、座り込んだ梨央に恐怖のあまり腰が抜けたと思われたほどだ。
『この異形の身……また貴方を困らせてしまう』
「っ、なに言ってるんですか!困らせたことはあっても、困ったことなんて、ありませんよ!」
まるで、前の世界での魔女顔を気にしている自分を見ているようで、ギドがネガティブになればなるほど、梨央は懸命にフォローする。
他の者ならこうはいかないが、梨央は素直に本音を吐露した。
大きく踏み出して、空中を彷徨っていたギドの手と思しき、触手を両手で握る。
「先生は、先生――――大切な仲間で、家族です」
たとえクラゲとタコを足して2で割ったような感じの二メートル近い触手エイリアンという、見た目が卑猥な種族でも。
見た目、兄の大人仕様のパソコンゲームの中では、敵キャラもしくはバットエンド仕様である。
ゼジド種は、個人で大きな力、数は少ないが大陸で一国を築く一大勢力であり――――ボニート曰く、ギドは足の多さから高貴な血筋かもしれないということだ――――発情期には、想像通りの性犯罪を働く者もいるが、大抵は非常に温和な種族なのだとか。
そうでなければ、とっくにエルフや、オーガなどの他の種族は滅んでいるだろう。
ギド一人でも、小さな町などひとたまりもない。
ムゼレビア十二刀流師範代という、十二本の剣を操るギドは、触手の柔軟さを生かして、剣の軌道が不規則で、鞭の様に撓るせいか一撃一撃が鋭い。
それだけでも十分に厄介なのだが、短刀を投げてくる上に、母方がハイエルフらしく、梨央からすれば無尽蔵の魔力があるため剣で攻撃しながら、バンバン魔法を放ってくるのだ。
現在、彼は弓まで習得しようとしている。
しかも口から吐き出す液には、酸、毒、麻痺、回復など種類豊富。
正直、肉体の回復速度も異常で、触手数本ならば回復するのに一分もかからないと聞いた時、これがチートというのかと梨央は深く納得した。
ただ、ゼジド種は女性が少ない。
もっとも、この魔族しかいない大陸で秩序が生まれる前は、他種族の女性を攫っていたらしく、外見もあって恐れられている、というわけだ。
本当かどうか現在確かめるすべはないが、梨央が異世界で出会った人物の中で、一番まともな人格者であることは間違いない。
『ならば……私も彼等と同じように、貴女に愛を請う資格がある、と?』
円らな黒い四つの瞳を潤ませて、哀切の漂わせるギドは、低く掠れたエロボイスで囁く。
ぞわぞわと肌が泡立ち、耳まで真っ赤になるのを梨央は感じだ。
初心な梨央には、あまりにも刺激が強すぎる。
「ぅきゅゆ!きゅい、きゅきゅーきゅ(なにってるギド!好きだっつー想いに、資格なんざいらねぇ)」
ボニートの言葉に、ギドは不安げに『ですが』と首を左右に振る。
なぜか発破をかけるボニートに、ギドはちらちらと梨央を見ながら、どうしていいのかわからない様子でブルブル震えている。
ギドにしてみれば、すでに梨央に告白も同然の台詞に気が付いていない。
「やはりドウ家の最大の敵は、ギド殿のようですねぇ」
「うむぅ、ギド……侮りガタし」
「ん。でもルウ、リオ姉サンと一緒にイたいから、頑張る」
「きゅ、きゅきゅ?(え、俺は?)」
そんな男たちの会話を、薄らぼんやりと聞きながら、空前のモテ期(人外限定)に恋愛力の低い梨央に限界が訪れ、真っ赤になったまま静かに意識を飛ばしていた。
異世界での生活の悩みは乗り越えつつある。
しかし今、彼女には異世界生活最大の試練が訪れたのであった。
■■■ キャラクター図鑑
【日下部 梨央】逆ハーレムヒロイン(笑)
ラーメンまみれで打ち所悪く死亡。
魔窟である部屋のクリーンサービスの代わりに異世界に飛ばされる。
ぎょろりとした目、鉤鼻、笑うと鋭い犬歯が災いして『魔女』と呼ばれていたが、異世界では、絶世の美少女(※ゴブリン的に)。
ちなみに異世界での二つ名は【白小鬼】である。
平凡な隠れオタクだが、異世界で様々な災難に見舞われ凶暴化。
高い適応能力があり、肉体精神共に強くなった。
武器は鞭。
現在は、縄文時代ほどの生活水準をあげるため、奮闘している。
リアル恋愛力0であるためプロポーズ後の、チームモンスターのアプローチに対してドキドキしてしまい、彼等は人間じゃないと自分に言い聞かせているが、どうしてよいのかわからず、悶絶している。
【ジョン=ドウ】メインヒーロー
ゴブリン。間違いなくゴブリン。(大事なので2回)
ドウ家の長男。父は豚鬼との撤退戦で戦死。母はジョン兄弟を出産後に他界。他にも三人の兄弟がいたが、すでに他界している。
現在はハイゴブリンに進化し、ナイトとなった。
180センチほどの、イケメン(※ゴブリン的に)。
ボニートに保護?された梨央に一目ぼれをして、彼女を守るためにゴブリンとは思えぬ力を発揮し、争いの森の中で頭角を現している。
武骨な戦士のような性格であり、寡黙ではあるが、梨央に対しては好意を隠さない。
ドウという苗字は、梨央に付けてもらった。
【ルウ=ドウ】サブヒーロー
ゴブリン。残念ながら、ゴブリン。(大事なので2回)
ジョン=ドウの弟で、ドウ家で一番最後に進化したハイゴブリンのアサシン。
160センチ前後で成人したてで、顔が平坦なので人間っぽく見える、ホームシックになった時に梨央の心を慰めている。
確実にヒロインである梨央より顔が可愛い。
コンプレックスらしく顔を隠すために獣の毛皮を目深に被っている。
最初の頃は身体が弱く、里では顔の事もあって、男衆に苛められていたが、自分を庇う梨央を陰から守ろうと努力するうちに進化した。
しかし、梨央としては間違った方向に進化したと思われている。
【ロロ=ドウ】サブヒーロー
ゴブリン、やっぱりゴブリン。(大事なので2回)
ジョン=ドウの叔父で、ドウ家で最初に進化していたハイゴブリンマジシャン。
ゴブリンの中では飛びぬけて頭が良く、成人と共に長老衆に入った。
珍しい糸目のゴブリンで飄飄としてるが、心労のため、やや草臥れた印象を受ける。
身体にゴブリンマジシャン特有の刺青。
時にゴブリン種族の繁栄の為に非情な手段を用いる事もあり、最初は災いの種になると梨央にはいい感情を抱いていなかったが、今では彼女の豪胆さに密かに気に入っている。
【ボニート=フアンツェル】メインヒーロー
隣の大陸の住人で、王家の命令でドラゴンの心臓を求めて、仲間と共にやってきた騎士。
上司に囮役にされて瀕死の重傷。そのままスライムに生きたまま食われた。
が、持ち前の精神力で、逆にスライムの身体を奪った。
元々公務員だからという理由で騎士になった不良なおっさん。
中身は三十路過ぎの親父で『きゅいきゅい』と鳴くが、軟体を生かして、梨央に微妙にセクハラしてくるため、よく殴られている。
祖父の代からドン家のオフサーバー的存在だったが情が移って、ゴブリン族の手助けしている。
何十年、下手すると百年以上ぶりの人間との邂逅が嬉しく、全力で彼女を守っている。
【ギド=べイロフ=ダエ=バウムガルテン】メインヒーロー
ゼジド種。触手。クラゲと蛸を足して二で割ったような存在。
王族だが、後継者争いに敗北し、国外追放。
それをきっかけに安住の地を求めて大陸を流離い、冒険者として生きてきたが、時に女に泣かれ、時に女に失神され、時に失禁までされて、傷心の所を梨央に用心棒として勧誘された。現在では、村で臨時講師もしている。
一番の常識人で、恋愛小説を好むロマンチスト。
将来の夢は恋愛結婚。
ムゼレビア十二刀流免許皆伝の腕前で、剣で攻撃しながら、魔法を放つ鬼。
たぶん、普通に一人で人間の町くらい陥落させられる。
ちなみにボニートのいた大陸ではドラゴンと並ぶS級指定の魔物である。