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傭兵だった男

作者: 鈴神楽
掲載日:2012/12/07

 内乱に因る戦争が絶えないある小国に、俺、トドロキ火威ビイは、王国側の傭兵として居た。

『こちらアルファー、ブラボー、応答して』

 通信機から、相棒の詠美エイミから通信が入る。

「こちらブラボー、アルファー、トラブルが発生したのか?」

 俺の通信に詠美から回答が来る。

『予想外に元気そうね。こっちは、裏切りがあって、今一歩の所で死ぬところだったのに』

 苦笑する俺。

「それだったら、こっちもだ。お互いに生き残る才能だけは、あるな」

『丁度良いから、違約金をぶんどって来てね』

 気楽に言ってくれる。

「お前な、命があるだけでもめっけものだと思って、ここは、脱出した方が良いと思わないのか?」

『何で?』

 そう返して来たか。

「裏切った相手の所に行ったら、俺が罠にかかって死ぬかもしれないだろうが」

『馬鹿ね、そんなの傭兵やってたら、日常茶飯事じゃない。あたしは、ブラボーとの約束を守って、パートナーである貴方が死んだら、傭兵として誰とも組まないんだから、貴方が死ぬまでに妹を見つけるだけのお金を稼ぐ必要があるの。下らない事を言ってないで、さっさと行く!』

 大きく溜息を吐く俺。

「本気でお前の事情を押し付けてくるな」

『当然でしょ。それとあんたも約束を忘れないでね』

 詠美の言葉に俺は、生返事で返す。

「解ってるよ。万が一にもお前の方が先に死んだら、他の傭兵とは、組まない。絶対だ」

『そう、約束だからね』

 それが俺の聞いた詠美の最後の言葉だった。



 俺がお金を持って帰った時、詠美は、アジトで死んでいた。

 俺との通信の後に、アジトが強襲された。

 襲撃の規模から考えて、俺がアジトに戻っていても、一緒に死ぬしか無かっただろう。

 結局の所、俺が襲撃を放って油断していたクライアントを締め上げる事で、俺への今後の刺客は、無い。

 全ては、詠美が俺を救う為に考えた策略だ。

「馬鹿やろう!」

 俺は、残されたメモを見る。

『あたしのお金は、何時もの口座にちゃんと入れておいてねハート』

 俺は、死ぬ直前まで何時もと同じだっただろう詠美に顔を想いだし、見る影もない遺体を強く抱きしめた。



 そして、俺は、二度と戻る事もないと思って居た日本に戻って来て居た。

 手に持つ新聞には、俺達が最後に所属して居た国の王室がクーデターで滅んだ事が載っている。

「詠美を敵に回して無事に済むわけねえんだよ」

 用意周到とは、詠美の為にある言葉だ。

 詠美は、裏切られて命を狙われる事も考えて、クライアントの弱点を調べ上げていた。

 その情報を俺がレジスタンスに流した。

 権力者がする口約束など最初から当てになんてしていなかった。

 こうして、俺が今まで生きてこられたのも全部、詠美の裏の裏まで読んだ、バックアップがあったからだと確信できる。

「結局の所、約束をまもるしかないって事だな」

 俺は、手に持った新聞をゴミ箱に投げ捨てて、銀行に向かう。



「今時、提携銀行も無いってどんな銀行だ」

 俺は、詠美の最後の金を言われた通り、指定された口座に入金を済ませた。

「これからどうするかな」

 最後にして最高のパートナーとの約束も終らせ、正直、やる事を無くしていた。

「まあ、食うには、困らない蓄えは、あるが、それだけじゃな。遊ぶ金でも稼ぐ為にバイトでもするか」

 俺は、配られていた無料配布のアルバイト雑誌を貰い、ひろげる。

「俺向きの仕事ってなんだろうな? 特技っていえば、どんな状況でも生き残れるしぶとさくらいだからな」

 ページを捲っていく。

 俺がまだ日本に居た頃からある仕事から、新しい仕事まで色々あるが、どれも俺の性に合いそうも無かった。

「いっそのことパチプロにでもなるか?」

 目に付いたパチンコ屋に入る事にした。



「何で、羽物がないんだよ」

 俺の手元の現金を残らず吸い取ったパチンコ屋を睨む。

「兄ちゃんも古いな。でも、兄ちゃんみたいな奴も居るから、ある場所には、あるけど、止めておいた方が良いぜ、昔の台を知ってる人間に言わせれば今のパチンコ台は、ガキのおもちゃだからよ」

 俺の隣に座って大勝していた爺さんの言葉に俺は、同意する。

「当たり前だ。何がエヴァだ。冬のソナタだ。男のギャンブルに女子供の趣味を持ち込むんじゃねえよ!」

「本気で古風だね。そうだ、そこで一杯やらないか? こちとら江戸っ子だ。宵越しの金は、持たない主義だ」

 爺さんの言葉に俺は、乗っかる。

 パチンコに負けて生活費の為に金を下ろすなんて真似は、やりたくなかったのだ。



「それじゃ、海外での仕事を辞めて日本に帰ってきたのか?」

 居酒屋での爺さんの問い俺がビールを飲みながら答える。

「そうだ。相棒が仕事の事故で死んでな、続けられなくなったんだよ」

 辛そうな顔をして爺さんが言う。

「そうか、やっぱり相棒がしんだら、仕事は、続けられないよな。わしも、生涯現役なんて粋がってたが、相棒が死んで、引退して、いまじゃお前の言うガキのおもちゃで死ぬまでの暇つぶしをしている隠居だぜ」

 気があった爺さんとは、そのまま、朝まで飲み明かした。



「ここが爺さんの言っていた仕事場か?」

 首を傾げる俺。

 爺さんが体力に自信があるんだったらと紹介してくれたのが、渋谷の片隅にあるビルだった。

 とても流行っている様には、見えない。

 念の為、名前を確認する。

驚天動地キョウテンドウチ万請負屋ヨロズウケオイヤ。爺さんに聞いた名前と一緒だ」

 因みに業務内容は、何でも屋らしい。

 俺は、ドアを開けて中に入る。

 予想したよりは、綺麗だった。

「だが、活動している人間は、少数。それも女だな」

 部屋を見れば、その程度の事くらいは、解る。

「誰か居ないか!」

 俺が怒鳴った時、俺が入ってきた入り口から人が駆けて来た。

「居ます! あちき、驚天動地万請負屋の店主、天地アマチ部枝蛇ベエタが居ます!」

「嘘だろ? こんなガキがか?」

 俺の言葉に部枝蛇と名乗った中学生くらいのお団子頭の少女が答える。

「安心してください。これでもこの業界では、八年実務をしているベテランですから」

 殆ど無い胸を張る部枝蛇の答えに脱力する。

「はいはい、それじゃあ、これからも頑張れよ」

 間違ってもこんなガキの下で働く気は、無い。

 俺は、部枝蛇の頭を撫でながら去ろうとした。

「もしかして、先代の言っていた、パワフルマンさん?」

「なんだって?」

 俺が質問で返すと部枝蛇が答える。

「昨日って言うか、今朝まで一緒でしたよね? あの人がこの店の先代の店主、あちきのお師匠様でもあるんですけどね。その先代が、今度のバイトは、ライオンと睨めっこ出来る人だって携帯メールが来てます」

 俺は、突きつけられた携帯メールを見る。

 そこには、酒の勢いで喋った俺の武勇伝が書かれていた。

「今度の人は、長続きすると期待して居たのに……」

 少し落ち込んだ顔をする部枝蛇。

 その顔を見た時、何故か詠美の報酬が少なくって次の調査費用が足らないと落ち込んでいた時の顔を思い出してしまった。

 俺は、舌打ちをして言う。

「解った。どうせ暇なんだ、付き合ってやるよ!」

「ホント?」

 部枝蛇が不安そうに聞き返してくるので、俺が頷く。

「本当だ。男に二言は、ねえ!」

「それじゃあ、早速仕事に行きましょう! 車の免許あるよね?」

 そのまま俺を地下駐車場に連れて行こうとする。

 詠美には、あの後、調査費用を補う為の無理やりな仕事をやらされたって事実を思い出したのは、車を運転している最中だった。



「所謂、オカルト地上げのプロで、術者としては、かなりの使い手。今回の依頼は、その排除だよ」

 いかにも幽霊屋敷風の建物の前で部枝蛇がそう説明してくる。

 俺は、頭をかきながら言う。

「詰り、手品で人を騙して、ここの土地を安く買い上げようとしてる奴を追い出せば良いんだな?」

 部枝蛇は、苦笑する。

「結果は、同じだけど、手段は、違うよ。一応ちゃんとした死霊術師なんだから。まともなオカルト商売出来なくてドロップアウトした術者がちゃんとしてないか」

 こいつ、悪い大人に騙されてるのかもしれないな。

 そんな事を考えながら中に入ると、いきなり椅子が空中を飛んでくる。

 俺は、部枝蛇を抱えて避ける。

「ピアノ線は、見えなかったが、どんなトリックだ?」

「違うよ、ちゃんと霊気が感じたからポルターガイストだよ」

 部枝蛇の言葉に、俺は、溜息を吐く。

「馬鹿な事を言ってるな。それより、奥に人の気配を感じるから行くぞ」

 おれは、部枝蛇を床に降ろして、進んでいく。



「よくここまで来られたな」

 余裕の笑みを浮かべる、いかにもってマントを羽織った男の言葉に俺が肩を竦める。

「どんな手品か解らないが、仕掛けが甘い。あんな方法で撃退されるほど甘くないんだよ」

 俺の言葉に高笑いを上げるマントの男。

「所詮は、術も知らぬ輩。私の敵では、無いわ」

 そういって、似非物っぽい杖を向けてくる。

『死霊弾』

 何も見えなかったが、感だけで避けた。

 しかし、右手に何かが当たったのは、解る。

 舌打ちする俺。

「火威さん、ありがとう。後は、あちきの仕事」

 部枝蛇は、そう言って、男に指を突きつけて言う。

「あちきは、二代目驚天動地万請負屋店主、天地部枝蛇! 大人しくここから出て行けば痛い目をみなくても済むよ!」

 馬鹿笑いをあげる男。

「先代は、大した術者と聞いているが、まさかお前みたいな小娘が二代目だなんてな。まあいい、どんな奴でも業界で名が売れた驚天動地万請負屋店主を倒せば、私の、ゴーストグランドロール、小者オシャ様の名があがる」

 俺は、正直呆れた。

「お前も自分の仕事に誇りが無いみたいだな」

「何だと!」

 怒る小者を睨み俺が告げる。

「少しでも埃があれば、真っ当な評価以外で名を上げようなんて思わないもんだぜ」

 悔しそうな顔をして小者が杖を振るう。

「うるさい、うるさい、うるさーーーい! 俺は、一流のネクロマンサーだ! こんな事をしてるのは、周りの人間が俺の実力に嫉妬して仕事を回さないから、仕方なくだ! とにかく、そいつを倒して、名を上げえれば、俺に相応しい仕事が出来る!」

 とことん小者だ。

 しかし、俺の勘が危険を告げる。

「あちきの後ろに居て!」

 部枝蛇は、前に出ると、変な模様がついた物を手に嵌めると前に突き出す。

『汝の名は、蟹座。我に汝の硬き甲羅を授けよ。蟹座防印カニザボウイン

 何かがぶつかり合う気配がする。

 舌打ちする男。

「十二星座印魔術か、面倒な術を使う。しかし、小娘のキャパシティーで、どれだけ受け止め続けられかな!」

 攻撃を続ける男。

 必死に堪える部枝蛇。

 俺は、そんな部枝蛇を抱えると、部屋の外に飛び出し、そのまま近くの窓から外に出る。

 目を白黒させる部枝蛇。

「いきなり何をするの!」

「あのまま、戦っていてもやられるのは、こっちだ。それより、お前等は、本当に魔法が使えるのか?」

 俺の質問に頷く部枝蛇。

「そうだよ。あちきは、この才能あるから、先代に買い取られたの」

 眉を顰めながら俺が質問を続ける。

「まさかと思うが、人身売買なのか?」

 部枝蛇は、頬をかきながら頷く。

「まあね、ロリコン相手に売られた先で、偶々仕事に来て居た先代に才能を見つけられて買い取ってもらったの。修行は、きつかったけど、体は、綺麗なままだよ」

 嫌な事を聞いた。

 こいつは、詠美と同じだ。

 詠美も両親を亡くし、極悪人の伯父に妹共々闇ルートで売られた。

 詠美は、俺が所属していたチームに隊長に目をつけられて、女としての魅力を使った裏方として働き、自分の体を買い取った。

 その後、俺と二人、フリーになって売られた妹を探す為の金を稼いでいた。

「あいつを倒す手段は、無いのか?」

 俺の質問に部枝蛇が言う。

「大技使えば、なんとかなると思うけど、溜めに時間がかかるから難しい」

 俺は、ポケットから幾つかの道具を取り出して言う。

「プロの傭兵の実力を見せてやるよ」



 俺は、再び、小者の前に出る。

「懲りずにまた来たか。しかし、私の術の前では、無力だと知れ!」

 俺は、小型拳銃を抜いて、狙い打つ。

「そんな物が通じるか」

 部枝蛇の予想とおり、弾丸は、弾かれてしまうが、別に構わない。

 俺は、接近し、ナイフを取り出して、薙ぐ。

「きかないと言っているだろうが!」

 小者に触れる前にナイフが何かにあたり、弾かれる。

「無駄だと何故、解らぬ!」

 小者の言葉に俺が笑みで答える。

「だったらお前の攻撃に俺に当たるのか?」

 苛立ちと共に杖が振られ、あの攻撃が始まるが、俺には、当たらない。

 俺が避ければ避けるほど、狙いがいい加減になっていく。

「馬鹿な? 見えて無い筈だ!」

 確かに攻撃自体は、見えない。

 しかし、攻撃をしてくる小者の動きが見れれば、タイミングと方向が解る。

「所詮、土地転がしをやってる二流の攻撃は、当たらないって事だな」

「何だと!」

 激怒して、更に滅茶苦茶な攻撃をしてくる。

 正直、もう少し冷静な方がよけやすいが、こんな馬鹿は、戦場には、幾らでも居た。

 新兵器や高価な兵器を使えば勝てると疑わない馬鹿な奴等だ。

 所詮、どんな技や武器も使い手しだいだって言うのに、それが解らない奴は、多すぎる。

 俺は、ゆっくりと後退する。

 すると、少しでも近づいて攻撃しようと、小者も移動してくる。

 そして、トラップが発動する。

 上下左右から俺が仕掛けたピアノ線トラップが、小者に襲い掛かる。

「いかなる物理攻撃も私の術で防ぐまでだ!」

 小者は、自信たっぷりに杖に構えて、全てのピアノ線トラップを受け止める。

「どうだ、お前の攻撃など、無力だと思い知ったか!」

 俺は、苦笑する。

「無力なのか? 俺には、きっちり役目を果たしたと思うぜ」

「効いていないだろうが!」

 怒鳴り小者に俺が告げる。

「その状態から動くことは、出来るか?」

「動けなくてもお前の攻撃は、通じない!」

 全くわかって居ない小物の言葉に俺は、部枝蛇の方を向く。

「時間は、稼げたよな?」

 部枝蛇は、頷き、呪文を唱える。

『汝の名は、獅子座。我に汝の鋭くき牙を授けよ。獅子座撃印シシザゲキイン

 そして、部枝蛇から放たれた、不可視の一撃は、動けない小者をノックアウトした。



 あの後、気絶した小者を縄で縛り、依頼人に渡すと部枝蛇が言う。

「ありがとうございます。これ、バイト料です」

 そこそこの金額を受け取って俺は、事務所の近くの居酒屋に行く。

 そこには、あの爺さんが居た。

 その前に座って俺が言う。

「人身売買に関わっていたとわな」

 睨む俺に爺さんが言う。

「もっと、わしを嫌いにさせてやろう。部枝蛇は、わしが仕事用に変えた名前だ。本名は、美魅ビミ、お前の相棒が探していた妹だ」

 俺が意外な言葉に言葉を無くしていると爺さんが続ける。

「お前の相棒、詠美が部枝蛇を探していたのは、知っていたから、後継者として買い取ったわしが妨害していた。どうだ、驚いたか?」

 俺は、爺さんに掴みかかる。

「ここでくびり殺してやろうか!」

 気にした様子も見せずに爺さんが言う。

「お前と会ったのも偶然じゃ無い。詠美が使っていた情報屋の口座は、あそこの銀行しかない。見張ってればお前が来ることも解っていたらから偶然を装って接近した」

「何が目的だ!」

 俺の言葉に爺さんが言う。

「言っただろう、相棒を無くして仕事を続ける気力が無くなった。あいつを家族に返そうと思ってたのさ。まさか、その直前に死ぬなんて思いもしなかったがな」

 無力感、それは、俺も抱いていた物。

「これからどうする?」

 爺さんは、苦笑して言う。

「好きにしろ。真実を告げて、店を辞めさせるのも自由だ。俺は、もう舞台を降りた」

 目の前に居る爺さんは、抜け殻だった。

 ある意味、家族よりも、恋人よりも大切な相棒を失って、何もかもを失った抜け殻。

 俺と同じ、抜け殻だった。

「お前には、責任があるだろうがよ!」

 俺の言葉に爺さんは、皮肉な笑みを浮かべる。

「だったら、お前には、無いのか? お前も気付いていたんだろう、お前が傭兵を辞めて幸せな家庭を作ろうと言えば、相手は、妹の事も忘れて新しい家庭を作ろうと思って居たことを!」

 爺さんを掴んでいた手から力が抜ける。

 ずっと考えないで居ようとした事だ。

 傭兵なんて危険な仕事を続けて居たのは、全て詠美が妹を探す費用探しの為と偽っていた自分。

 実際は、自分に自信が無かった。

 だから、傭兵辞めて、一緒になろうと言えなかった。

 その結果がこれだ。

 詠美が死に、その妹は、俺と同じ抜け殻から全てを押し付けられて、裏街道を歩いている。

「わしは、先に逝った相棒の事を思いながら残り少ない人生を無駄にする。お前も好きにしろ」

 爺さんは、そのまま酒を飲む。

 ここで俺に殺されても気にしないだろう。

 しかし、俺は、席を立ち、店を出ていた。



 雨が降る中、俺は、驚天動地万請負屋の前に立っていた。

 自分が何をすれば良いのか解らなかった。

 何もしても全てが手遅れな気がした。

 爺さんに突きつけられた事実。

 俺の無力さ、不甲斐無さが俺を打ちのめしていた。

「今更、俺は、どうすれば良いって言うんだ……」

 理性が言う、部枝蛇、いや美魅に事実を告げて、表街道に戻してやれと。

 詠美に代わってそれをやるのが俺の義務だと。

 しかし、それに意味を見出せない自分が居た。

 既に死んだ詠美。

 そして、同じ姉妹でまだ希望を残した美魅。

 正直言えば、それが許せない。

 必死に妹を探していた詠美が死んで、その妹だけが幸せになるのが。

 間違っているのも理解できる。

 それでも納得できない自分の歪みを理解できた。

 そんな時、部枝蛇が現れた。

「もしかして、泊まる所が無いの?」

 ホテルは、あったが戻る気力もないだけだ。

「だったら、ここに泊まりなよ、バイト用の部屋があるから」

 手を差し出す部枝蛇。

 その手は、昔の詠美を思い出させた。

 俺は、その手を掴んでしまった。



 その後、俺は、未だに驚天動地請負屋で働いている。

 危険を知りながら、部枝蛇に仕事を続けさせている。

 俺が選んだ選択肢、それは、答えを出さない事。

 傭兵をやっていた時と同じ状況を続ける事だった。

 逃げだと思う。

 しかし、俺には、それしか選べなかった。

「朝ごはん出来たよ!」

 毎朝、俺を呼びに来る部枝蛇。

 その笑顔に罪悪感を覚え、それが自分の罪であり、罰だと感じ、今の生活を続ける。

 何時か答えを出せるのかは、解らない。

 もしかしたら、また答えを出せないまま、部枝蛇も失うことになるかもしれない。

 俺の中にそれ、詠美と同じ結末を美魅が迎える事を望む気持ちがある事も理解している。

 だが、今、断言できるのは、力の限り、部枝蛇を護るそれだけだ。

 俺の新たな日常がこうして続いていくのであった。

暗いぜ!

結局の所、火威の真の望みは、部枝蛇を救って自分が死ぬことで、詠美を救えなかった事の代償としようとしてるって事。

もろに間違った選択肢ですが、そんな物を選ぶのが人間って奴です。

一応、読みきりなので、このまま終ったら、何時かそうなって死んだと割り切って下さい。

もしも、そんなのが嫌な場合は、リクエストしていけば、その内、部枝蛇との新しい絆が出来るかもしれません。

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