表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

その悪役令嬢、転生者につき〜モブの私が相棒になった結果〜

作者: 山太郎

モブですが悪役令嬢を救います


プロローグ:目覚めの衝撃


目が覚めた瞬間、私は自分が誰なのかわからなくなっていた。いや、正確には二つの記憶が頭の中で渦巻いていた。一つは日本で平凡なOLとして生きていた二十五年間の記憶。もう一つは、この世界で十五年間を過ごしてきた貴族の令嬢としての記憶。


「お嬢様、お目覚めですか」


侍女が優雅に部屋に入ってくる。豪華な天蓋付きのベッド、壁に掛けられた絵画、窓から差し込む柔らかな朝日。すべてが現実離れしていて、それでいて妙にリアルだった。


そして私は理解した。これは前世で夢中になっていた乙女ゲーム『永遠の薔薇園』の世界だということを。鏡の前に駆け寄ると、そこに映っていたのは栗色の髪に茶色の瞳を持つ、可愛らしいけれど特別印象に残るわけでもない少女の姿。


記憶を探る。メリッサ・ハートフィールド。伯爵家の次女。学園では悪役令嬢クラリッサ・ローゼンベルク様の取り巻きグループの一人。


「悪役令嬢本人じゃなくて、その取り巻き!? しかも名前すら覚えてないモブキャラ!」


第一章:悪役令嬢との出会い


王立アカデミーの豪華な休憩室には、すでに何人かの令嬢たちが集まっていた。そして中央のソファには、絵画から抜け出してきたような美少女が優雅に座っている。クラリッサ・ローゼンベルク。金髪碧眼の悪役令嬢その人だ。


「ところで、皆さんに話があるの」


クラリッサが優雅に紅茶のカップを置いた。


「例の平民娘のことよ。最近、エドワード様が彼女と親しげに話しているところを何度も見かけるわ」


エドワード。それは王太子の名前だ。そして平民娘というのは、ゲームのヒロイン、エミリア・ブラウンのことだろう。


「まあ!それは許せませんわ!」


「そうですわ!クラリッサ様の婚約者なのに!」


周りの令嬢たちが口々に言う。でも、私にはわかっていた。このまま進めば、クラリッサは破滅する。そして、彼女の取り巻きたちも同様に破滅エンドだ。


「クラリッサ様」


私は思わず口を開いていた。


「もしかしたら、それはただの噂かもしれません。確認もせずに動くのは、よろしくないのでは」


瞬間、部屋の空気が凍りついた。取り巻きのリーダー格、ソフィアが鋭い視線を向けてくる。


でも、クラリッサは不思議そうに私を見つめていた。そして、その青い瞳が一瞬、驚いたように見開かれた。


「...面白いことを言うわね、メリッサ」


クラリッサの声が、微妙に震えていた気がした。


「確かに、あなたの言う通りかもしれない。私たちは高貴な貴族。噂話に振り回されて軽率な行動を取るのは、確かに品位に欠けるわ」


第二章:秘密の共有


その日の午後、図書館で一人考え込んでいると、突然声をかけられた。


「メリッサ、少しいいかしら」


振り返ると、そこにいたのはクラリッサだった。彼女は周りを確認してから、小さな声で言った。


「あなた...転生者でしょう?」


私は心臓が止まるかと思った。


「な、何を...」


「隠さなくていいわ。私もそうだから」


クラリッサが静かに微笑んだ。その表情は、さっきまでの高慢な悪役令嬢のものとは全く違っていた。


「私、前世で『永遠の薔薇園』っていうゲームをプレイしたことがあるの。そして気づいたら、そのゲームの悪役令嬢として転生していたのよ」


「まさか...クラリッサ様も!」


「ええ。だから、自分の運命がどうなるか知ってる。国外追放、もしくは処刑エンド。どちらも最悪よね」


クラリッサは自嘲気味に笑った。


「でも、あなたの今日の発言で確信したわ。あなたも転生者だって。普通のモブキャラが、あんな風に物語の流れに逆らうような発言はしない」


私は観念した。


「その通りです。私もこのゲームをプレイしていました。でも、私はあなたみたいに重要キャラじゃなくて、ただのモブで...」


「モブの方が有利じゃない」


クラリッサが真剣な表情で言った。


「私は悪役令嬢本人だから、周りからの期待や視線がある。でも、あなたは自由に動ける。ねえ、メリッサ。協力して、この破滅フラグを回避しない?」


「協力...ですか?」


「そう。私一人じゃ限界がある。でも、あなたが外から私をサポートしてくれたら、きっと未来を変えられるわ」


クラリッサの目が、希望に輝いていた。


第三章:斬新な作戦


それから私たちは、秘密の会合を重ねるようになった。図書館の奥の誰も来ない書庫で、二人で破滅回避の作戦を練る。


「でも、どうやって破滅を回避するんです?」


「それなのよ。普通に考えたら、エドワード様の愛を取り戻すか、おとなしく婚約破棄を受け入れるかの二択よね」


クラリッサが資料を広げながら言った。


「でも、私には第三の道があると思うの」


「第三の道?」


「ビジネスよ」


クラリッサの目が、キラリと光った。


「考えてみて。なぜ悪役令嬢は破滅するの?王太子妃という地位にしがみつくからよ。でも、もし私が経済的に自立していて、王太子妃の地位なんて必要ないって証明できたら?」


「それは...」


「前世の知識を使えば、この世界にない商品やサービスを開発できるわ。それで成功すれば、私は一国の王太子妃以上の影響力を持てる。そうなれば、婚約破棄されても痛くも痒くもないわ」


なんという斬新な発想。確かに、経済的に成功してしまえば、貴族社会からの追放も怖くない。


「でも、クラリッサ様一人では難しいのでは?」


「だから、あなたの力が必要なの、メリッサ」


クラリッサが私の手を握った。


「私は悪役令嬢として監視されている。派手に動けば、すぐに注目される。でも、あなたは違う。モブキャラのあなたなら、自由に動ける」


「つまり...」


「あなたが表に立って、ビジネスを始めるの。私は裏から資金とアイデアを提供する。成功したら、その功績はあなたのものよ」


「そんな、私にそんな大それたこと...」


「できるわ。だって、あなたは前世で社会人だったんでしょう?私は学生だったけど、あなたはOLとして働いていた。ビジネスの経験があるじゃない」


確かに、前世では営業として働いていた。商品企画にも関わったことがある。


「何を売るんですか?」


「まずは、この世界にない化粧品から始めましょう。前世の知識で、安全で効果的な美容液のレシピを知ってるわ。それを貴族向けに売り出すの」


クラリッサの目が、ビジネスの可能性に輝いていた。


第四章:秘密のビジネス


私たちの秘密のビジネスは、想像以上に順調だった。クラリッサが開発した美容液は、貴族の令嬢たちの間で瞬く間に評判になった。


「メリッサさんの美容液、本当に肌が綺麗になるわ!」


「どこで手に入れたの?私にも売ってちょうだい!」


私は表向き、「遠い親戚から譲り受けたレシピ」ということにして、小規模に販売を始めた。クラリッサの資金援助で原料を仕入れ、信頼できる職人に製造を依頼する。


利益は順調に上がり、私たちは次の商品開発に取り掛かった。香水、石鹸、そして前世で人気だったハンドクリーム。


「メリッサ、すごいわ。もう私の初期投資の三倍のリターンが出てる」


秘密の会合で、クラリッサが興奮気味に言った。


「これなら、もっと大規模に展開できるわね。商会を設立しましょう」


「でも、それだと目立ちすぎませんか?」


「大丈夫よ。表向きは、あなたの家族の事業ということにすればいい。私の名前は一切出さない」


私たちは慎重に計画を進めた。そして半年後、「ハートフィールド商会」が正式に設立された。


第五章:変化の兆し


ビジネスが軌道に乗るにつれて、学園内での私の立場も変わってきた。


「メリッサ様、こちらの新作の香水、ぜひ試させていただけませんか?」


「メリッサ様、うちの領地でも販売していただけないでしょうか?」


いつの間にか、私は「様」付けで呼ばれるようになっていた。モブキャラから、一目置かれる存在へ。


一方、クラリッサは表向きは相変わらず悪役令嬢を演じていたが、以前ほど攻撃的ではなくなっていた。


「クラリッサ様、最近お優しくなりましたわね」


取り巻きの一人が言った。


「そう?気のせいじゃない」


クラリッサは涼しい顔をしているが、私には彼女が内心ほくそ笑んでいるのがわかった。ビジネスの成功が、彼女に自信と心の余裕を与えていた。


そんなある日、王太子エドワードが私たちの前に現れた。


「クラリッサ、そしてメリッサ。少し話がある」


エドワードの表情は、いつになく真剣だった。


「最近、君たちの様子がおかしい。何を企んでいるんだ?」


「企む?失礼ですわ、エドワード様」


クラリッサが涼しく答えた。


「私たちは何も企んでおりません。ただ、自分たちの人生を充実させているだけですわ」


「ハートフィールド商会...あれは君たちが関わっているのか?」


エドワードの問いに、私たちは顔を見合わせた。


第六章:真実の告白


「そうです」


私が先に答えた。


「ハートフィールド商会は、私が経営しています。クラリッサ様は...出資者の一人です」


「なぜそんなことを?」


「自立するためです」


クラリッサが静かに言った。


「エドワード様、正直に申し上げます。私、あなたのことを愛していません」


エドワードの目が見開かれた。


「幼い頃から婚約者として育てられましたが、私たちの間に愛はない。それはあなたもわかっているはずです」


「それは...」


「だから、私は自分の力で生きる道を選びました。王太子妃という地位に頼らず、自分の才覚で成功する。そうすれば、婚約が解消されても、私は困りません」


クラリッサの言葉は、凛として美しかった。


「メリッサが、それを手伝ってくれました。彼女は本当の友人です。利益のために私に従う取り巻きとは違う」


エドワードは、しばらく黙っていた。そして、ふっと笑った。


「クラリッサ、君は変わったな。以前の君は、ただ高慢で意地悪な令嬢だった。でも今の君は...」


「今の私は、自分の人生を生きています」


「わかった」


エドワードが頷いた。


「実は、僕も婚約解消を考えていた。エミリアという女性に惹かれているから、というのもあるが...君が不幸になるのを見たくなかったんだ」


「エドワード様...」


「でも、もう心配はいらないようだね。君には、しっかりとした未来がある」


エドワードは優しく微笑んだ。


「婚約解消を、正式に申し出よう。君のビジネスの邪魔にならないよう、円満な形で」


第七章:新しい始まり


婚約解消の発表は、社交界に衝撃を与えた。でも、予想に反して、クラリッサへの風当たりは強くなかった。


なぜなら、彼女が既に成功した実業家の後援者として知られていたから。ハートフィールド商会の陰の功労者として、彼女の名前は密かに広まっていた。


「クラリッサ様、素晴らしいですわ。王太子妃の座を手放しても、これだけの影響力を持つなんて」


「さすがはローゼンベルク家の令嬢ですわね」


周りの評価は、むしろ上がっていた。


学園祭の日、私たちは商会のブースを出店した。


「いらっしゃいませ!ハートフィールド商会の新作、ローズウォーターです!」


私が元気に客を呼び込む。クラリッサは隣で、優雅に商品の説明をしている。


「メリッサ、クラリッサ」


エミリアとエドワードが、手を繋いでやってきた。


「商品、買わせてもらうわ。友達の応援よ」


エミリアが微笑んだ。


「ありがとう、エミリア」


クラリッサも笑顔で答えた。


かつて敵対していた悪役令嬢とヒロイン。でも今は、互いを認め合う友人同士だ。


エピローグ:モブの勝利


それから二年後、私たちは学園を卒業した。


ハートフィールド商会は、今や王国最大の美容品商会に成長していた。私は代表として、クラリッサは最高顧問として、日々ビジネスに励んでいる。


「メリッサ、次は海外展開を考えましょう」


「いいですね、クラリッサ様。隣国との貿易ルートを確保できれば...」


私たちは、もう取り巻きと悪役令嬢という関係ではない。対等なビジネスパートナーであり、親友だ。


「ねえ、メリッサ」


ある日、クラリッサが言った。


「もし私があなたに出会わなかったら、きっと破滅していたわ。あなたのおかげで、私は本当の幸せを見つけられた」


「私も同じです。クラリッサ様がいなければ、私はただのモブで終わっていました」


二人で笑い合う。


モブキャラとして転生した私。でも、悪役令嬢を救うことで、自分自身も救われた。


そして気づいたのだ。この物語に、真の主人公なんていない。みんなが、自分の人生の主役なのだと。


「さあ、新しい商品のプレゼンに行きましょう」


「ええ、行きましょう」


私たちの物語は、まだ始まったばかりだ。


(完)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけたら、

下にある☆☆☆☆☆から、評価ポイントを入れていただけると執筆の励みになります!ブックマークもぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ