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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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55.待つのではない選択

「ねぇ凛ちゃん。今度の週末暇?」


「なんだよ、唐突に」


「よかったら遊びに行かない? 東京とか少し遠くに」


 マナは空回りするほど明るくそう提案してきた。

 辛いことを隠して笑う雪緒の姿によく似ていた。


「悪いけど週末はちょっと」


 とてもそんな気分になれず、首を横に振る。


「じゃあ家でゲームしよ。昔みたいに。私もゲームの腕を上げたからもう凛ちゃんには負けないよー」


「ごめん」


 謝ってから歩く速度を少し速めた。


「ずっと雪緒ちゃんを待ってるの?」


 マナの声のトーンが急に下がる。

 振り返るとマナは真剣な目をして俺を見ていた。


「俺はずっと待つよ。雪緒のことを」


「でも……でももう二度と目が覚めないかもしれないじゃんっ」


「マナっ!」


 思わず声を荒らげるとマナは目を伏せた。


「……ごめん。今のは言い過ぎた。でも雪緒ちゃんがいつ目を覚ますのか分からないのに、その間凛ちゃんはずっとそうしてるの?」


「そのつもりだ。俺だけは雪緒を待っててやらないといけないんだ」


「そんなの、雪緒ちゃんが喜ぶかな?」


 マナのその言葉は俺の胸を抉った。

 動揺する姿を見せたくなくて、俺は再び歩き始める。

 マナはあとをついてこなかった。

 冷たい風が吹いて制服の隙間から入り込む。

 冬はもうすぐそこまで来ている様子だった。




 ──

 ────



「今日は雪が降ってるぞ、ほら」


 窓の外に視線を向けると、雪が景色を白く染めていた。

 時おり風が吹くと雪がそれに合わせてうねる。

 風の形を見るようで面白い。

 しかし雪緒ははしゃぐこともなく静かに瞼を閉じて寝息を立てていた。


 雪緒が眠りに落ちて三ヶ月目。

 やはり目覚める様子もなく、雪緒は眠り続けていた。

 状態は落ち着いているので健康には問題がないらしい。


 時折パジャマが変わっているので、おばさんが着替えをさせているのだろう。


「そうだ。この前年始のあいさつで伯母さんがうちに来たんだ。特に話すことなんてなかったけど、自室に戻るとお母さんが悲しむだろうからリビングにいたんだけど。そのときふと思い出して伯母さんに訊いたんだよ。『七つの試練』って知ってるかって。そしたらあの人。きょとんとした顔で『なに、それ?』って言ったんだ。ウケるよな。あの人の耳に入るかと思って流した伝説なのに、まるで届いてなかったんだよ」


 俺が笑うと雪緒も笑った、ような気がした。

 最近は無反応な雪緒に話していても、反応があるように感じられるようになってきた。

 たとえ眠っていても、耳は聞こえている。

 俺の声が届いていると信じ、語り続けていた


「小学生が広めた噂なんて、所詮そんなもんだよな。まあ噂を聞いたところであの人が俺を思い出したかも怪しいけれど」


 苦笑しながらまた窓の外へと視線を移す。

 以前はぎこちなかった雪緒への語りかけだが、今は本当に会話しているかのように振る舞うことができた。


 ドアをノックする音がして返事をすると、おばさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。


「いつもありがとうね、椿本くん」


「いえ。こちらこそいつもお邪魔してしまい、すいません」


「いいのよ。椿本くんが来てくれると、雪緒も喜ぶから。きっと」


 おばさんは微笑みながら目を覚まさない娘に慈しみの支線を向ける。


「……でもね、椿本くん。もういいのよ」


「何がいいんですか?」


「ずっと雪緒を待っていてくれてるんでしょ? でももういいの。椿本くんには椿本くんの人生がある。高校生なんて人生で最も輝かしい時じゃない。いつまでも雪緒のことを待っててくれなくてもいいのよ」


 おばさんは優しく、諭すようにそう言ってきた。


「いや、俺は待ってなんていませんよ」


 そう答えるとおばさんは不思議そうに首を少し傾げた。


「確かに以前は雪緒さんが目を覚ますのをいつまででも待とうと考えてました。雪緒さんが目を覚ましたとき、一人じゃないと思ってもらいたくて。でも今は違います」


 俺は眠っている雪緒を見て、頬を緩める。


「雪緒さんはここにいるんです。どこにも行っていない。生きている。俺は待ってなんていません。今ここで確かに生きている雪緒さんと同じ時を過ごしているんです」


「椿本くん……」


 おばさんは目を赤くして言葉を詰まらせた。


「だから心配なんてしないでください。俺の輝かしい高校時代は今現在もこうして雪緒さんと共に歩んでますから。雪緒さんが寝ているか、起きているかなんて関係ありません」


「ありがとう、椿本くん。そうね。あなたの言う通りね。お恥ずかしい話、私は雪緒が目覚めるのを待ってしまっていたのかもしれない。でも椿本くんの言う通り、この子はどこにも行ってない。いま生きてここにいる人を待つなんておかしな話ね」


 おばさんは目に涙を溜めながら微笑む。

 そんな俺達のことなどお構い無しに雪緒は寝息を立てていた。


 もしかしたら、雪緒はもう二度と目を覚まさないのかもしれない。

 けれど雪緒がこの世にいる限り、俺は隣で寄り添い、時を共に行くつもりだ。



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