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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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53.最後のピース

「好きだ」と伝えることが、こんなに勇気がいることだとは知らなかった。

 スマホを介した文字ならいざ知らず、面と向かって伝えるのはあまりにもハードルが高い。

 でも雪緒には、どうしても直接顔を向き合わせて思いを伝えたかった。


「先輩、ちょっと妙泉神社に寄っていきませんか?」


「え? いいけど、なんで?」


「お礼参りですよ。『七つの試練』で願いが成就したんですから」


「なるほどな。いい考えだ」


『七つの試練』にお礼参りなんて風習はない。

 その提案に賛成したのは、告白するチャンスが巡ってきたと思ったからだ。

 あそこで雪緒と出会い、多くの時間を共にした。

 雪緒に想いを伝えるのに最適な場所だった。


 しかし到着して、少し後悔する。

 以前来た時も感じたことだが、夜の妙泉神社は薄暗くて少し不気味だからだ。

 愛を語るより怪談を語るのに適している気がするが、ここまで来て尻込みするわけにはいかない。


「ここの試練は本当に苦戦させられましたよねー」


 雪緒はベンチに座り、泉を見詰めていた。

 俺は緊張しつつその隣に座る。


「雪緒が一日一回とかいう変な縛りを作ったから余計に難しくなったんだろ」


「私が考えたんじゃないです。それが正式ルールなんですってば」


「そんなわけあるか。俺が正式ルールを知らないわけないだろ」


「先輩は知らないんじゃなくて、忘れたんじゃないですか?」


 何やらうっすらと哲学的な響きを感じる指摘をされ、雪緒の横顔を見た。


「どういう意味?」


「そのままの意味ですよ。初めはそんなルールを作ったんですけど、いつの間にか忘れてしまったんですよ」


「そうだったっけ? うーん……」


 必死に記憶を辿ったが、忘れたことを覚えているはずはない。


「この二ヶ月、本当に色んなことがありましたね」


「ほんとだな。雪緒と出会ったのが九月の初旬だったなんて嘘みたいなくらい、濃密だった」


「先輩と出逢えて、本当によかったです」


 雪緒は俺の目をじっと見つめてから、スッと目を伏せた。

 その仕草を見て俺は焦った。

 雪緒が今にも告白してきそうな勢いだったからだ。

 俺から告白するつもりだったのに、雪緒に告白されるわけにはいかない。

 もはや一刻の猶予もなかった。


「ゆ、雪緒、あのっ」


 俺は慌てて告白しようとして声が裏返る。

 ロマンスもタイミングもあったもんじゃないが、それどころじゃなかった。


「先輩……」


 雪緒は俺の肩に寄りかかってきて体重を預けてきた。 

 大胆で予想外な雪緒の行動に、俺は硬直してしまう。


「ごめんなさい、先輩……私、とても眠いんです」


「えっ……?」


「ずっと堪えていたんですけど、そろそろ限界みたいです」


「き、昨日徹夜でもしてたのか? 今日のこのサプライズのために」


 そんな理由じゃないと察しつつも、現実を直視したくなくてつまらないことを言って笑った。


「今度眠ったら、きっと長いと思うんです。その前に『七つの試練』の願いを完了させなきゃいけないと思いまして、ここに来ました」


「願いの完了? なに言ってるんだ? 試練の願いならもう叶えてくれたじゃないか。雪緒のおかげで俺は過去に囚われず自由で幸せに暮らせるようになった」


 今にも眠ってしまいそうな雪緒を励ますように語りかける。

 笑っているつもりだったが、ただ頬が引き攣っているようにしか見えなかったかもしれない。


「まだ最後のピースが残ってます」


「最後のピース? なんだ、それ?」


 そう訊ねると雪緒は微笑みながら自らを指差した。


「私です」


「雪緒?」


「先ほども言いましたけど、今度眠ってしまったら、いつ起きられるか分かりません。もしかしたら一日かもしれませんが、一週間、一ヶ月、下手したら一年かそれ以上かもしれません。しかもそれは一生続きます。たとえ目覚めてもまたすぐに寝てしまう可能性だって十分にありえます」


 雪緒は俺の肩に頭を預け、とろんとした顔になる。


「大丈夫か、雪緒」


 慌てて手を握って呼びかけると、雪緒は俺の顔を見上げて微笑みながら涙を溢れさせた。


「私に付き合っていたら、先輩にご迷惑をおかけします。先輩の貴重な時間を無駄にさせてしまうんです」


「無駄なわけあるか。雪緒との時間は俺にとっても大切なんだっ」


「ありがとうございます。でも私が耐えられないんです。私のせいで先輩の自由や未来を縛ってしまうことが。実は二人で旅行に行った翌朝に発症したのもそれが原因でした。ここまま甘えていたら、先輩の未来をダメにしてしまうと思いまして」


 雪緒は泣くのを堪えるように目元に力を込め、俺の手を離す。


「私のことは構わず、先輩は先輩の人生を歩んでください。それでようやく『七つの試練』に込めた私の願いは叶います。大丈夫です。二ヶ月前までに戻るだけです。先輩はまた私のいない世界に戻ってください。あ、ハリセンボンは飲まなくていいですからね」


「嫌だ。そんなのは駄目だ。おい、雪緒。聞いてるのか」


「ありがとうございました、先輩……」


「待て、雪緒。俺はお前のいない世界なんて無理だ。俺はお前が好きなんだ。そんなことを言えば雪緒の負担になると思って言えなかったけど、俺はお前が好きだ。愛してる。だからずっとそばにいてくれっ!」


 必死に思いを伝えたが、雪緒は既に眠っていた。

 俺の最後の言葉が雪緒に届いたのかすらもわからない。


「雪緒っ!」


 俺の叫ぶ声に驚いた鳥が飛び立つ音が暗い森に響く。

 冷たい風から守るように雪緒を抱きしめる。

 十月末の気温は低く、雪緒のぬくもりは一層強く感じられた。






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