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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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51.幸せに暮らすということ

「今まで話さなかったのはごめん。言おうとはしてたんだけど、なかなか切り出せなくって」


 取り繕おうとするも、怒りに震えるお母さんの耳には入っていかなかった。


「それと言っておくけどね、凛ちゃんが原因で結婚できなかったわけじゃないからね。お母さんはね、モテないのっ」


「そ、そうなの? 美人だからモテそうだけど」


 怒りを鎮めようとお世辞を口にしたものの、火に油を注いでしまう。


「あのね、大人は見た目なんかで結婚相手を選ばないの。お母さんはしっかり者でしょ? 可愛げがないでしょ? 頼りない男の人を見ると、ついキツくなっちゃうの。理不尽なことには従えないし、不平等なことは見過ごせなくて声を上げる。そんな女性と結婚しようなんて人、そうそういないわ」


「そうなんだね。ははは……」


 お母さんがブチギレるのは雪緒も想定外だったようで、ちょっと気まずそうに引き攣った笑みを浮かべる。


「それにね。私は自分が凛ちゃんの母親になりたくて、母親になったの」


 お母さんはチラッと姉に振り返る。

 二人はアイコンタクトをし、小さく頷き合った。


「凛ちゃんと暮らし始めて一年弱が過ぎた頃、お姉ちゃんから連絡が来たの。『凛之介を引き取りたい』って」


「えっ……」


 初めて聞く話に驚く。

 なぜならお母さんは小学校を卒業する頃まで『もうすぐ凛ちゃんのお母さんが迎えに来るよ』と言っていたからだ。


「私は自分勝手なお姉ちゃんに怒ったわ。自ら凛ちゃんを捨てた人に預けられない。ちゃんと反省して、凛ちゃんとやり直していけるという態度をしっかり示さなきゃ任せられないってね」


「そんなことがあったんだ」


「でもね。それは半分、いえ、ほとんど嘘だった。本当は凛ちゃんを手放したくなかったの」


 お母さんは自らの姉の方を見て、頭を下げる。


「本当はね、凛ちゃんを失いたくなかったの。うちに来たばかりでまだ遠慮がちだった凛ちゃん、はじめて『お母さん』と言ってくれたときの顔、本当のお母さんのように私を信頼してくれる姿……そのすべてが愛おしかった。私も凛ちゃんが本当の息子だと感じていたの」


 お母さんは目に溜まった涙を拭いながら笑う。

 俺は涙を見せたくなくて、意味もなく空を見上げていた。


「その後も何度かお姉ちゃんから凛ちゃんを引き取るって連絡は来た。仕事を見つけた、二人で住める部屋を借りた、貯金もはじめて将来の学費に備えてる。でもその度私はお姉ちゃんを突っぱねた。凛ちゃんのことを何も分かっていない、覚悟が感じられない、それでは凛ちゃんと会わせることもできないって、具体性のない要求を突きつけ、キツイ言葉を投げつけて。本当にごめんなさい」


「ううん。沙耶は悪くない。凛之介を捨てた私がすべて悪いんだから。むしろ感謝してるわ。凛之介をこんなに立派に育ててくれて」


 生物学上の母が俺のお母さんに深々と頭を下げた。

 雪緒はここにいる誰よりもポロポロと涙をこぼして頷いていた。

 唯一血縁関係がない立場のくせに泣きすぎだろ。少しは遠慮しろ。



『先輩に幸せに生きて欲しい』 


 雪緒の願いを思い返す。

 病気を治すという願いを取り下げてでも叶えたがった願い。

 そのためには俺とお母さん、そして生物学上の母親もこの場に集まらなくちゃいけなかった。

 少なくとも雪緒はそう考えていた。


 本音を隠して接していても分かり合えない。

 きっと雪緒は俺だけじゃなく、俺のお母さんにも幸せに生きてもらいたいと願ったのだろう。

 そして恐らく俺の生物学上の母親にも。


 だからこんな無茶な状況を作ったに違いない。


「お母さん」


 呼びかけるとお母さんは「なぁに?」と涙を隠すように拭いながら俺を見る。

 生物学上の母親の方はピクッと震え、堪えるように俯いていた。


「ごめん、俺、高校卒業しても、今の家で暮らしてもいいかな……」


 そう伝えるとお母さんは呆れたように笑った。


「凛ちゃんがそうしたいならそうしなさい。あなたの家なんだから」


「ありがとう」


「ただし大学に行くならバイトして給料を少しは入れるように。働くなら少しと言わずたくさんお金を家に入れるように」


「は? 俺の働いたお金なんていらないんじゃなかったのかよ?」


「そりゃ家を出ていくならいらないわよ。でも実家にいるなら生活費は入れてもらわないと。大学生なら家事も今まで以上にしてもらうわ」


「マジかよ」


 ここぞとばかりに次々と要求を突きつけてくるお母さん。

 しかし怒らせた直後なので、ここは言うことを聞くしかない。


 俺たちのやり取りを聞き、生物学上の母親が帰ろうとしていた。


「待てよ」


 呼び止めると彼女は振り返った。

 しかし顔は上げず、俺と目を合わせようとはしない。


「よくドラマとか映画で産みの母を『本当の母』とか表現するよな。俺、あれが大嫌いなんだよ。『本当の母』は愛情を持って育ててくれた人に決まってる」


「……そうね」


 彼女は静かに呟く。


「俺のお母さんはこの人だけだ。俺を産んだのかもしれないが、あんたは俺の『本当の母』なんかじゃない」


「凛ちゃんっ」


 お母さんが口を挟もうとしたが、雪緒がお母さんの肩に手を置き止めてくれた。


「ただあんたは一応お母さんの姉だ。俺の伯母さんでもある。無関係な人間じゃない。お母さんに会うためにたまに顔を出すくらいなら迷惑じゃない」


「凛之介……ありがとう……」


『伯母』の目に涙があふれ、深々と頭を下げる。

 そんな姿を見たくなくて俺は目を逸らした。


「あとな、俺をお母さんに預けてくれたことは感謝している。おかげで俺は幸せに暮らすことができた。ありがとう」


 伯母はひたすら「ごめんね、ごめんね」と謝りながら頷いていた。

 お母さんはそんな姉の肩を抱く。


 なんの感情なのか分からない涙が込み上げてきて、俺は雪緒から貰ったサングラスをかけて目を隠した。

 雪緒にしてはなかなか気の利いたプレゼントだ。

 まさかこんな展開を予想して用意したわけじゃないだろうけど。


「なんで夜なのにサングラスなんてかけてるんですか?」


 雪緒がからかいながら俺の隣に立つ。


「せっかくもらったからかけてみたんだ。似合うだろ」


「そうですね。とってもよく似合ってます」


 雪緒はにっこりと笑って頷いた。






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