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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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50.雪緒の願い

 雪緒はスマホを見ると、グラスに残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干した。


「さて、ではそろそろ行きましょうか、『約束の地』へ」


「そうだな」


 店を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。

 今日はお母さんが食事を担当する日なので遅くなっても大丈夫だが、それにしてもそろそろ帰らなくてはいけない時間だ。


 駐車場はさほど車も止まっておらず、閑散としている。

 雪緒は料金説明の書かれた大きな看板の前で立ち止まった。


「着きましたね」


「あとはこの場所で願いを祈るだけだ」


「はい」


 雪緒は神妙な面持ちで、祈るように手を合わせる。

 そのとき──


「凛之介っ……」


 突如声をかけられて振り向く。


「あんたは……」


 そこに立っていたのは俺の生物学上の母親だった。

 六年の歳月のせいか、それとも彼女のその後の苦労を物語っているのか、記憶にある姿より随分やつれて年老いたように見える。

 しかしその女は間違いなく俺の生物学上の母親だった。

 その隣には不安げな顔をしたお母さんの姿もあった。


「なんであんたがここに……」


「ごめんなさい。今さら凛之介に合わせる顔がないのは分かって──」


「なんでここにいるんだと訊いてるんだ。余計なことを話すな」


 感情が爆発したが、口から出たのは自分で物驚くくらい低く重い声だった。

 しかしそれは怒鳴り声よりも強い力があるようで、生物学上の母親はビクッと震えて俯いた。


「私が呼んだからです」


 雪緒が俺の前に立ち、そう言った。


「雪緒が?」


「はい。お母さんと相談し、産みのお母さんに来てもらうようにお願いしました」


 雪緒は怯むことなく俺の目を見て立っている。


「ごめんね、凛ちゃん」


 お母さんは申し訳なさそうに頭を下げていた。

 その隣で生物学上の母親はもっと申し訳なさそうに俯いていた。

 そういえばたまに雪緒が俺の家にやってきていたことを思い出す。

 あれはこの日のための相談だったに違いない。

 そして先ほど喫茶店でダラダラしていたのは、お母さんたちが到着するのを待っていたからだろう。

 今に思えばあのときの雪緒は時間稼ぎをしていたようにしか思えなかった。


「六年ぶりの感動の再会を期待したのか? だけど残念だったな。感動なんて一ミリもない。誰がこんなこと頼んだ? それともビューキューブの企画か? どっかでカメラ回してて、感動の場面でも撮るつもりだったんだろ」


「そんなつもりはありません」


 雪緒は俺を見てニコッと笑った。

 何笑ってるんだと怒りが湧きかけ、慌ててそれを鎮める。

 雪緒だって笑いたくて笑ってるわけじゃない。

 無理に笑っているんだ。

 緊張し、戸惑うとまた眠りに落ちてしまう。

 それを避けようと楽しいふりをしているに違いなかった。

 しかしそうと分かっていても、雪緒と一緒に笑うことは出来ない。


「じゃあなんでこんなことしたんだ?」


「それはもちろん『七つの試練』を達成した願いを叶えるためです」


「えっ……願いって病気の完治じゃなかったのか……?」


「はい。もちろんはじめは病気を治したくてはじめました。でも途中で願いが変わり、紆余曲折の末、この願いに変わりました」


 俺たちとはまるで別の世界線にいるかのように、雪緒は一人だけテンションが高い。

 まるで笑うことしか許されていないピエロのような悲哀を感じた。


「悪いが雪緒、さすがにそれは無理だ。俺はこの人と仲直りすることはないし、ましてや親子関係に戻ることはない」


「凛ちゃん。それは言い過ぎよ」


 お母さんが悲しそうな顔になり、胸が痛む。

 全てこの女の身勝手なのに、お母さんは自分を犠牲にしてまで俺を育ててくれたのに、なぜ傷つかねばならないのか。


 沸騰しそうな感情を必死で抑えていた。


「違いますよ、先輩。私の願いは先輩とその方との仲直りじゃありません」


「え?」


「私の願いは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」


 本当に愉快になってきたのか、演技が見事なのか、雪緒は曇りのない笑顔を見せる。


「言ってる意味が分からない、俺は幸せだ。こんな俺を捨てて消えた人間と俺の幸せは無関係だ」


「だったらなんで先輩は高校卒業後に実家を出ていくと決めているんですか?」


 そのことは雪緒から聞かされていなかったようで、お母さんは驚きで一瞬目を見開いた。


「それは……」


 すぐに答えようとしたが言葉に詰まる。


「それはなんですか?」


 雪緒は俺を落ち着かせるようにニコッと微笑む。


「俺がいたらお母さんは結婚もできないだろ。お母さんは姉に子供を押し付けられ、俺を育てるのに精一杯だったんだ。俺が高校を卒業したら、せめて自由に暮らして欲しいからだ」


「凛ちゃん……」


 お母さんは瞳を潤ませ、震えながら俺を見ていた。

 無責任なその姉はその隣で気まずそうに俯いていた。


「先輩はお母さんが本当のお母さんだって言ってたじゃないですか。だったら気を遣って出ていくなんておかしいです」


「それとこれとは別の話だろ。もちろん上京したあともたまには帰ってくるし、働き始めたら毎月仕送りはする」


 俺は雪緒とお母さんのどちらともつかない方向を見て話した。


「なにが『たまには帰ってくる』よ。なにが『毎月仕送り』よ! 凛ちゃんの働いたお金なんて要らないわよ」


 突然お母さんが怒り出す。

 普段あまり怒らない人なので、驚いてしまって圧倒される。



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