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俺の考えたデタラメな都市伝説を信じる美少女後輩に懐かれてしまった  作者: 鹿ノ倉いるか


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49.そして『約束の地』へ

 金曜日の放課後、俺は自宅の最寄駅の一つ手前の駅で降りて『約束の地』へと向かう。

 俺の考えたいい加減な伝説なんてなんの奇跡も起こすはずがないのに、妙に胸が高鳴っていた。


 駅を出て『約束の地』である駐車場に向かっていると、交差点付近に雪緒が立っていた。


「お疲れ様です、先輩」


「雪緒もいま来たのか?」


「はい。それとこれをどうぞ」



 雪緒はカバンから綺麗にラッピングされた袋を渡してきた。


「なんだこれ?」


「誕生日プレゼントに決まってるじゃないですか。お誕生日、おめでとうございます」


「え? ああ、そっか」


 今日が自分の誕生日だということをすっかり忘れていた。


「わざわざありがとう」


 袋を開けようとすると「ちょっと待ってください」と止められた。


「せっかくなんで落ち着いたところで開けてください」


 そう言いながら雪緒は以前行った昭和の遺構のような喫茶店『エーゲ海』を指差す。

 誘われるまま入店すると、今日もそれなりの客で賑わっていた。

 よくこんな見た目でこれだけ客が来るものだと改めて感心してしまう。


 飲み物を注文してから雪緒のプレゼントを開けた。

 中から出てきたのは──


「ん? 眼鏡ケース? 俺眼鏡なんてしてないんだけど」


「ケースを開けてみてください」


 訝しみながらケースを開けると、中にはサングラスが入っていた。

 楕円形のレンズにメタルフレームの、アニメやドラマで殺し屋がかけてそうな代物だ。


「なぜサングラスを?」


「釣りに行ったとき、先輩サングラス持ってなかったじゃないですか。だからプレゼントしようかと」


「釣り用ならもっとスポーティなやつだろ」


「それだと釣りにしか使えないじゃないですか。普段使いしてもらうには、もっとカジュアルなものがいいかなと」


「カジュアルねぇ……」


 なんだかいかつい感じのサングラスに視線を落とす。


「絶対似合いますって。かけてみてください」


「こうか?」


「ひゃー、かっこいい! やっぱりよく似合ってます」


「そうかな?」


「ほら、こんな感じですよ」


 写真を撮って見せてくれたが、なんだかガラの悪そうなやつにしか見えない。


「なんだかチンピラっぽくないか?」


「そんなことないです。スパイみたいでクールですよ」


「そうかぁ?」


「なんだかプレゼントが不服そうですね?」


「いや、そんなことない。うれしいよ。ありがとう」


 雪緒が似合ってると言ってくれるならそれでいい。

 俺は有り難くプレゼントを受け取った。


 雪緒はスマホをチラッと見たあと窓の外へと視線を向ける。


「それにしても夏休み明けに先輩と出会ってから、あっという間でしたね」


「そうだな。雪緒が泉に落ちたのが、遠い過去に思えるよ」


「人の黒歴史をさらっと抉らないでください」


「ビューキューブも始めましたし、先輩とお泊り旅行もしましたしね」


「スマートボールが予想外の形をしていたのには驚かされたな」


「もー。だからそうやって過去の傷に塩を塗らないでください」


「そうか? 今なら笑い話だろ」


「まだ早いです。ようやく傷が癒え始めたくらいです」


「意外と治りが遅いタイプなんだな」


 普段から人の目など気にしない雪緒にしては意外だ。


「高校は休学しちゃったけど、マナちゃんとは友達になれたし。目まぐるしい二ヶ月間でした」


 まるで映画のラストシーンのような穏やかで、それでいてどこか寂しい雰囲気だった。

 店内では『Raindrops Keep Fallin' on My Head』が流れている。

 陽気なようでどこか悲しげな歌声が、今の雰囲気にマッチしていた。


「高校はまた来年から行けばいい。焦らなくても大丈夫だ」


「でも来年だと先輩三年生じゃないですか。一緒の学校生活は一年しかありません」


「別に卒業したって会えるだろ」


 そう言うと、雪緒は非難がましい目を向けてきた。


「卒業したら東京に行くって言ってたじゃないですか」


「東京なんて電車で一時間ちょっとだ。すぐ会える」


「すぐっていってもこれまでみたいに徒歩数分じゃありません」


「それはまあ、そうだけど」


 東京には行かないと言うことも出来た。

 しかし雪緒にいずれ破る約束をしたくなかった。


「……七つの試練をクリアして、本当に願いは叶うんでしょうか?」


「そりゃ叶うだろ。きっと」


「いつもと言うこと違うじゃないですか。いつもなら『オレの考えたいい加減な伝説にそんな効力はないはない』とか言うくせに」


「これだけ雪緒が頑張ったんだ。きっと叶う」


 こちらの嘘は胸を張って言えた。

 雪緒の病は気の持ちようだ。うまくいけば本当に克服することだって出来るかもしれない。


「そうですね。きっと叶いますよね」


「ああ。だからそろそろ『約束の地』へ向かおう」


 立ち上がろうとする俺を尻目に雪緒はなぜか鞄からノートを取り出した。


「なんだ、それ?」


「ビューキューブの『穴あきチャンネル』のデータですよ」


「へぇ。そんなもの取ってるんだ。凄いな。そういえば再生回数は伸びてるのか?」


 そう質問すると、なぜか雪緒は呆れた顔をして俺を睨む。


「先輩は『穴あきチャンネル』の運営スタッフですよ? 再生回数くらい毎日自分でチェックしてください」


「そりゃそうだな。悪かった」


「先輩がそんなことだから再生回数が伸びないんですよ」


「それは関係ないだろ。素材動画の問題だ」


「動画の内容だけが問題じゃありません。ほぼ同じような内容でも再生回数にはかなりのばらつきがあるんですから」


 そう言って雪緒はノートを広げ、これまでアップした動画の内容や再生回数の推移をグラフにしたものを見せてくる。

 確かに雪緒の言う通り、似たようなものでも人気が出るものとそうでないものの差がある。


「こんな細かなデータを作ってたんだ」


「そりゃそうですよ。私は収益化に向け真剣に取り組んでいるんですから」


 冗談を言っているようではないので、刺激しないように頷いておく。

 実際『眠れる森の美少女』を患ってる雪緒には、普通に就職するよりこういった道のほうが向いている。


 どんな動画が人気出るのか、どういったタイトルがいいのか、サムネイルはどうするのかなどしばらく話し合った。


 データとしてみるとやはり最初のスカートを履いてのパルクールが圧倒的に人気なのだが、そのことについて意見するとまた変態扱いされてしまうのでスルーしておく。

 そもそも雪緒の際どい動画をみんなに観られるなんて俺が耐えられない。


 ふと窓の外を見ると、すでに日は落ちて車もライトを付けて走っていた。


「そろそろ『約束の地』に行かないか? 暗くなるぞ」


「えー? まだ『穴あきチャンネル』の方針も決まってないのに」


「そんなにすぐに答えなんて出ないだろ。こういうものはトライ&エラーであれこれやってみるしかない」


「あ、じゃあ先輩を登場させてみましょうか?」


「却下だ。何にもできない男が登場したところで誰も喜ばない」


「何も出来ないから面白いんじゃないですか。私が軽々とすることを真似しようとして失敗するんです。面白くないですか?」


 雪緒は名案だと言わんばかりに身を乗り出す。


「雪緒の真似なんてしたら頭から落ちて首の骨折って死ぬわ」


「そこはうまく転んでください」


「無理だろ。ジャングルジムからバク転で飛び降りるとか、ブランコから飛び降りて前宙とかだぞ? 絶対死ぬ」


「うーん。まあ。確かに危ないですね」


 どこまで本気だったのか知らないが、雪緒は残念そうな表情を浮かべる。



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