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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1 ― 原点 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1― 原点 ―
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第5章 運命のカフェ(前編)

ふと立ち寄ったカフェで、思いがけない再会が訪れます。

ほんの偶然のように見える出来事が、

人と人をつなぐ“光の糸”になることがあります。


明るくてまっすぐな凪の笑顔、

そして、環の心に生まれる小さなぬくもりを感じながら、

ゆっくりと読み進めていただけたら嬉しいです。

カップの中で、ミルクがくるくると渦を描いた。

平日の昼下がり。

有給を取ったたまきは、いつもより少しだけゆっくりと流れる時間を楽しもうと、

ふらりと入った駅前のカフェで席を探していた。


店内には穏やかなジャズが流れ、

カウンター席の向こうでは、バリスタが静かにミルクを泡立てている。


「……ここ、空いてるかな」

窓際の席に腰を下ろしかけたその時――。


「あっ!」


弾むような声に振り向くと、

明るい茶髪の青年が笑顔で手を振っていた。


「たまきさん! やっぱり、たまきさんですよね!」


その顔を見た瞬間、環の記憶がはじけた。

ポップコーン、暗闇、スクリーンの光。

あの映画館の……。


なぎくん……!」

思わず声が出る。


「わー、やっぱり! 覚えててくれたんですね!」

凪はうれしそうに目を細めた。

まるで子犬のような無邪気さと、柔らかい人懐っこさが混ざった笑顔。


「こっち、空いてます! 一緒にどうですか?」


凪に案内されて奥のテーブルへ向かうと、

黒のシャツをさらりと着こなした男性が1人、

スマホの画面を見ていた。


凪が嬉々として紹介する。

しゅう先輩、この前映画館で会った環さんですよ!」


その言葉に、スマホから視線を上げた柊が、ゆっくりと顔を向けた。


その瞬間、環の胸がどくんと跳ねた。


(……声、顔、やっぱり――如月きさらぎさんだ)


整った輪郭、知的で落ち着いた瞳。

あの会社のカフェテリアで何度も見かけて、

目で追ってしまった人。


「はじめまして。……三浦環さん?」


低く穏やかな声。

ロイド・フォージャーのようなあの声が、現実に響いた。


「え……!」

思わず声が漏れる。

「……如月さん……」


柊が少し驚いたように眉を上げた。

「え? 名前、知ってた?」


環は慌ててカップを持ち直した。

「い、いえ、その……クロノスにいた頃、カフェテリアで何度かお見かけしてて……」


「ああ……」

柊はわずかに微笑み、目尻を柔らかくした。

「覚えてくれてたんだ。うれしいな。」


その笑顔に、環の心が一瞬止まる。

自然体なのに、まっすぐな言葉が照れくさいほどに響く。


隣で凪がぽんと手を打った。

「なるほど~! どうりで、どこかで見たことあるなーって思ってたんですよ!」


「え?」と環が首をかしげると、凪はいたずらっぽく笑った。

「クロノスの時、ニュースになってましたよね。誤送信事件。

 ……あ、変な意味じゃないですよ! 僕、あれ絶対何か裏あると思ってたんで!」


「凪。」

柊が軽く名を呼ぶ。

その声だけで空気が和らいだ。


「……ごめんなさい、環さん。凪は口が軽いけど、悪気はないんです。」


「いえ……大丈夫です。」

環は小さく笑った。

久しぶりに、心から笑えた気がした。


「それにしても、偶然ですね。」

凪がカフェラテをかき混ぜながら言う。

「たまきさんがこの街にいるなんて。」


「今日は有給だったんです。ゆっくりしようと思って。」


「そっか……」

柊がカップを持ち上げ、静かに頷いた。

「ちょうど良かった。少し話ができてうれしい。」


その言葉に、環はまた心臓が高鳴るのを感じた。

この穏やかな声で「うれしい」と言われるだけで、

なぜこんなに世界が明るく見えるんだろう。


凪がスマホをいじりながら笑う。

「ねぇ柊先輩、これってもう“運命”じゃないですか?」


「……運命?」

柊は苦笑しつつも、環の方へ視線を向けた。

「たしかに――偶然にしては、できすぎてるかもしれないな。」


環はカップを持ち上げ、そっと微笑んだ。

「じゃあ……“運命のカフェ”ってことで。」


凪が「うわー、タイトルみたいだ!」と笑い、

柊も静かに目を細めた。


その笑顔に、環はもう一度、胸の奥が熱くなるのを感じた。


――あの日、遠くから見ていた背中が、

今、目の前で優しく笑っている。

ご読了ありがとうございます。

偶然の再会は、環にとって“人の優しさ”を思い出すきっかけになりました。


凪の明るさと、柊の穏やかなまなざし。

その二つの光が、少しずつ環の心を照らし始めています。


次章では、静かな会話の中に“真実”が少しずつ見えていきます。

どうぞ、温かい気持ちで見守ってください。

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