第3章 アークシステムズ設立
新しい始まりの章です。
過去の痛みを抱えながらも、
“誰かを信じる”という勇気を選んだ人たちの物語。
それぞれの想いが交わる瞬間を、静かに感じていただけたら嬉しいです。
― 光の弧のはじまり ―
雨上がりの空に、
わずかに弧を描く光が見えた。
ビルのガラスに反射するそれは、
どこか儚く、それでいて強かった。
如月柊は、その虹をしばらく眺めていた。
退職届を提出してから、すでに2週間。
クロノス・ソリューションズという巨大な企業を離れ、
ようやく静けさを取り戻したはずの胸の奥に、
まだ消えない痛みが残っていた。
「……あのままでよかったのか?」
自問するように呟く。
誰も答えない部屋の中で、
パソコンのモニターだけが淡く青白い光を放っている。
クロノスで起きた情報漏洩事件。
真面目で、誰より誠実に働いていた三浦環が、
突然の謹慎、そして退職に追い込まれた。
“彼女がそんなことをするはずがない。”
そう思いながらも、
何もできなかった自分が、何よりも悔しかった。
あの日以来、柊はずっと考えていた。
――人を守るためのシステムは、
本当に人を守れているのか?
クロノスでは、利益と効率が最優先だった。
“人間”はシステムの一部としてしか扱われない。
その矛盾に気づいていながら、
見ないふりをしてきた自分を、ようやく認めることができた。
ドアがノックされ、凪陽翔が顔を出した。
「珍しいですね~。柊先輩が昼にカーテン開けてるな
んて。」
冗談めかして笑う凪の目にも、
どこか疲れがにじんでいた。
彼もまた、クロノスを辞めた1人だ。
「先輩、これからどうするんですか?」
その言葉を待っていたように、
柊はゆっくりとノートパソコンを閉じた。
「作ろう。俺たちの場所を。」
凪が目を見開く。
「会社を、ってことですか?」
「そう。もう誰も理不尽に傷つかないような、
“人を守るシステム”を作りたい。」
そのとき、
部屋の奥のソファに腰を下ろしていた大塚柊真が口を開いた。
柊の叔父であり、かつてクロノスの部長だった男。
「……柊、お前もようやく言ったな。」
低く穏やかな声。
その声音には、責任を取って辞職した人間の覚悟が宿っていた。
「俺も、同じことを考えていた。
会社という名前の下で、
人間が使い捨てにされる世界はもう見たくない。」
3人の視線が、静かに交わる。
凪が笑って肩をすくめた。
「いいじゃないか。俺たち、たった3人だけど――
やってやろうぜ。“アークシステムズ”。」
柊がその名を口にすると、
不思議と胸の奥が温かくなった。
“Arc”――弧、そして方舟。
光を導き、人を乗せる船。
「透明で、温かい技術を。」
大塚が言葉を添える。
凪はノートを開き、白紙のページに一行を書き込んだ。
『光の弧で、人を守る』
それが、アークシステムズの最初の理念となった。
三人は夜遅くまで語り合った。
理想と現実、希望と不安。
それでも、最後に柊は確信していた。
――あの人が教えてくれた。
誠実であることは、時に弱さではなく、
最大の強さになると。
その“あの人”――三浦環――の名前を、
心の奥でそっと呼んだ。
誰にも聞こえないその呼び声が、
まるで光の弧のように、
新しい夜明けを描き始めていた。
ご読了ありがとうございます。
アークシステムズという新しい場所が生まれ、
物語は少しずつ光へと進み始めます。
環の心にも、確かに“変化”の種が芽吹いています。
次章では、その小さな光が形を持ち始めます。
ゆっくりと、どうぞ見守ってください。




