第13章 愛の対峙(4)対峙の痕
嵐のような夜が過ぎ、残されたのは静けさと温度。
恐怖は消えない。
それでも、彼らは手を取り、前へ進もうとしていた。
数時間後。
柊の家のテーブルに、温かいスープ。
凪は機材を片付けて、玄関で振り向く。
「僕、少し外の警官と手続き詰めてきます。環さん、先輩。お疲れさまでした。」
「ありがとう、凪。」
「環さん。これからは、“怖い”って思ったら、即僕か先輩を呼んでください。僕らは、いつでも出ますから。」
「……うん。凪くん、ありがとう。」
扉が閉まり、リビングに静けさが戻る。
柊は環のカップを持ち替え、手を重ねた。
「震えてる。」
「……まだ、少し。」
「震えていい。俺がいる。」
環は、その手に自分の指を絡めた。
「柊。私、強くなりたい。怖くても、ちゃんと“怖い”って言えるように。」
「言えた。今、言えた。」
柊の言葉は、まっすぐで、やさしい。
環は顔を上げる。
「ねえ、柊。」
「うん。」
「さっき、言ってくれた言葉……“彼女は彼女自身のもの”。あれ、すごく好き。」
「よかった。」
「だから、私が選びます。隣にいてほしい人を。」
「誰?」
環は微笑んで、名前で呼ぶ。
「――柊。」
柊は、ふっと目を伏せて笑い、そっと額を合わせた。
「ありがとう、環。」
窓の向こうで夜がほどける。
恐怖は終わらない“かもしれない”。
でも、ふたりで、そして凪と、越えていける。
香りは記憶する――だから彼らは忘れない。
守ること、信じること、そして選ぶことを。
夜が明け、世界はまだ冷たい。
それでも、環の胸の中には確かな温もりが残っている。
柊の言葉が、その温もりを形にした。
――香りは記憶する。
あの夜を、そして“選ぶ勇気”を。




