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第13章 愛の対峙(1)特定の夜
静まり返った夜の中で、わずかな香りが過去を呼び覚ます。
穏やかな日常の裏で、確かに動き始めていた“影”。
その夜、柊と凪は、見えない糸の先にある真実を追う。
「来た……エレベーターの制御ログ、該当タイムスタンプ。入館ICは“GUESTモード”だけど、Bluetoothのビーコンが拾えてる。個体識別No.一致。居住棟Bの“702”に強く反応。」
柊が短く頷く。
「702……田中朔也、だな。」
「念のため、決済履歴も引く。近隣コンビニ、今日の21:03。“写真L判×50、のり、画鋲、マスキングテープ”。」
「……十分だ。」
柊はスマホを取る。
「警察に状況を上げる。環はここに。」
環はゆっくり頷いた。
その指が、テーブルの写真から微かな香りを拾っている。
(エゴイスト……やっぱり、あの人だ。)
凪が顔を上げる。
「先輩、警察の到着は十数分。その間に“動くなら”外付けカメラを携行しておいてください。僕は遠隔で映像バックアップ回す。……環さん、ここにいて。何かあれば、このボタンで僕にすぐつながる。」
「ありがとう、凪。」
柊は環の頭をそっと撫で、視線を合わせる。
「戻る。すぐに。」
「……うん。柊。」
冷たい闇の中に浮かぶのは、1枚の写真。
そこに残るのは、偶然ではなく――誰かの意志だった。




