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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1 ― 原点 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season1― 原点 ―
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13/21

第10章 祝杯と告白 ― 大切な人の意味と失感情症 ―(前編)

ひとりで抱えてきた時間が長いほど、

「誰かを好き」と思う気持ちは怖くて、そして愛しい。


今回は、環が初めて“自分の言葉で”「好き」を見つける瞬間です。

名前を呼ぶ――その小さな行為が、彼女にとって世界を変える魔法になります。

トラブルを見事に回避したアークシステムズ。

チーム初の大型案件を無事納品できた喜びと安堵が、3人の胸に広がっていた。


「お疲れさまで〜す!」

「お疲れさま。」

「お疲れさまです。」


乾いたグラスの音が、ささやかに響く。

予約していた海辺のレストランの窓際席。

店内は柔らかな光に包まれ、外の海が夜風に揺れていた。





「3人でこうやって食事するの、初めてですよね〜」


「そういえば、そうだな。」


「そうなんですか? なんか、私こういうの初めてなんです。

 会社の飲み会とかも行ったことなくて。」


「え? 環さん、飲み会行ったことないの?」


「はい……そういうの、避けてたというか……誘われたこともなくて。はは……」


「え、なんで? あんなに話せるのに?」


「私、人付き合い、あまり得意じゃないんです。

 話すの、苦手で。少しでもきつい言葉を聞くと、動けなくなっちゃって……。

 だから1人でいる方が多かったです。」


「え〜、そんなふうに見えないよね、先輩?」


「ああ、確かに。」


「たぶん……柊先輩と凪くんの前だと、緊張しないからです。

 安心できるというか……。

 でもね、昔から感情がよくわからなくて、変なところで笑っちゃうんです。

 笑ってほしくない時に笑うとか。

 子どものころはそれでよく怒られてました。

 大人になってからは少しマシになりましたけど……。

 あ、すみません、私ばっかり話して……。

 こういうところなんですよね、ダメだな……。」


(しゅう)が穏やかに口を開いた。


「環、話したいことは話していい。俺は環の話を聞くから。」


その言葉と同時に、そっと(たまき)の手を握った。

その手はあたたかく、けれど静かで、まるで「ここにいる」という合図のようだった。


(なぎ)も微笑んで言う。

「僕も聞きますよ。環さんの話。

 気になることは話したほうがスッキリしますから。」


(たまき)は小さく頷いた。


「ありがとうございます。

 柊先輩も凪くんも優しいですよね……。

 それに、すごく仲が良くて、見てるといいなって思うんです。

 仕事のときの2人はカッコいいし、お互い信頼してるし……。

 私もその中に入りたいって思うのに、いざ行こうとすると、ブレーキがかかるんです。

 “また裏切られたらどうするの”って、心のどこかで声がして。

 ……どこへ行っても嫌がらせされたり、意地悪されたり、信じてた人に裏切られたり。

 他人を信じると痛い目にあうから、信じない方がいいって、わかってるのに。

 それでも手を伸ばしたくなって、離されて……。

 そんなことの繰り返しでした。」


(なぎ)の表情が少し曇る。

(たまき)は遠くを見ながら続けた。


「以前の職場で、大事な書類がなくなったことがあって。

 私が封筒に入れたからって、犯人にされたんです。

 でも後で別の人が持ってたことがわかって。

 その頃から、何かあると、いつも私の名前が出るようになって。

 ある日、仲良くしてた同僚が“三浦(みうら)さんのせいにしとけばいい”って言ってるのを聞いちゃって……。

 動けなくなって、怖くなって、辞めました。

 次の職場でも同じ。クロノスでもまた……。」


小さな沈黙。

ワイングラスに映る光が、揺れる波のように淡く揺れた。


「でも、柊先輩と凪くんに会ってから、なんか違うんです。

 前よりも胸のこの辺があったかい感じになって、笑うことができて。

 こういうの、いいなって感じることが増えて……

 ああ、これが“楽しい”ってことなのかもしれないって。」


(たまき)の声が少しだけ震えた。


「でも、家に帰ると、何も音がしなくなるんです。

 静かで、怖くて、涙が出てきて……。

 ずっと涙なんて出なかったのに。

 それが何度かあって。

 気づいたら、柊先輩と凪くんといるときは楽しいから、

 たぶん、これが“寂しい”ってことなんだなって、やっとわかりました。」


(なぎ)は、静かに彼女を見つめていた。

(たまき)も気づき、少し笑う。


「凪くん、私ね、子どものころ母親に虐待されてたの。

 それが原因で、感情がよくわからないんです。

 “好き”ってことも、まだよくわからなくて……。

 たまに変なこと言っちゃってるかもしれません。」


(なぎ)はゆっくり首を振った。


「そうなんだね……。でも、変なことなんて言ってないよ、環さん。

 そういうの、僕、全然気づかなかった。ごめんね。」


「え? 凪くんは悪くないから謝らないでください。

 私ね、柊先輩と凪くんにはずっと一緒にいてほしいなって思ってるから、話したんです。

 ご迷惑でしたか?」


(なぎ)は笑顔を見せた。


「迷惑なんかじゃない! ずっと一緒にいたいなんて言われて、うれしくない人いませんよ。

 僕も環さんとずっと一緒にいたいです!」


「ありがとうございます、凪くん。これからもよろしくお願いします。」


「もちろん! 環さん、こちらこそ!」


(しゅう)(たまき)の手を握ったまま、何も言わずにその会話を見ていた。

ただ、優しい目で。


しばらくして、(なぎ)がグラスを空け、軽く伸びをした。


「よし! じゃあ僕、先に帰りますね〜!」


「え?」


「お2人で、この後デートしてきてくださいね! 僕、お邪魔虫ですから〜!」


「何言ってんだ、気をつけて帰れよ。」


「はい! 環さんも、気をつけて帰ってくださいね!」


「うん、ありがとう。おやすみ、凪くん。」


(なぎ)が去ったあと、残された2人の間に、静かな夜風が通り抜けた。

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