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お題は『サンザシ』『カクテル』『チェス』です。
詳しくはあらすじ参照お願いします。
「ちぇ……、」
チェスでたとえると、後藤は歩兵。とりえはないけど愚直でまっすぐな彼らしい駒だと思う。時折ななめにそれるひねくれっぷりまで表現してくれるなんて大した表現だと自画自賛してみる。
こんな風に、人をチェスやら将棋やらの駒にたとえるのはよくあることだと思う。その人物の行動理念とか、性格を端的に表してくれるから。もう一つ二つ例を挙げるなら、思い込んだら止まらない性格の瀬川は城で、気がつくと背後に立っていたりする神出鬼没な井上は騎士が相応しい……、かな。
違う。わたしはこんなことが言いたいんじゃない。今わたしの目の前にいるのは後藤でも瀬川でも井上でもない。
わたしが言いたかったのは……、
「あ、あれ!? ごめん気に入らなかった!?」
「い、いやそういうんじゃないから!」
「え、じゃあ」
「ちぇ、チェスやりたいねって……、言いたかったんです」
「あはは、鹿野ちゃんはいつもそれだね。さすがチェス研部員ってとこかな?」
「ち……、違……」
チェスで、わたしの王でいてください。あなたのためなら女王にでもなるから……。
喉元まで出かけた言葉は、奥に引っ込んだ。この流れではもう、言い出せそうもなかった。
笑いながらカクテルをちびちびと飲んでいるのはわたしの幼馴染。そうは言ってもわたしが幼稚園の頃から近くに住んでいたというだけで、もう成年している。中学生の私のいう言葉なんて、きっと届かないだろう。
先輩のことはよく知らない。今行っているのがそこそこ有名な私立大学ということだったり、名前が久利至ということだったりするのは知っていても、先輩が何をしているのかとか、先輩は何が好きなのかとか、大切なことは何も知らない。
だから先輩とわたしが今いっしょにいるのは、母の「中学生の娘を一人にするのは心配ね」という一言が原因だった。預け先として白羽の矢が立ったのが、たまたま先輩だっただけ。
先輩は「こっそり出かけようか」と言ってわたしを連れ出した。近くのバーで二人、ちびちびと飲み物を飲みつつ話をした。先輩が「一口だけだよ?」と笑って差し出した飲みかけのカクテルは、オレンジの甘酸っぱい味がした。それを飲みながら、もう言うことはないかなって、なんとなく思った。
「ああ、ちょっと遅くなっちゃったね。もう帰ろうか」
「はい……」
先輩は終始にこやかで、告白に失敗したわたしはきっと暗い顔をしていただろう。
(あーあ、先輩に悪いことしちゃったな……)
その時、思いを見透かしたようなタイミングで先輩が振り返った。
「あ、そうだ。鹿野ちゃん、これあげる」
そう言って渡されたのは……。
「花? じゃなくて模型……?」
「うん、サンザシの花。今日は5月13日だったからね」
「あ、ありがとう……ございます」
「ねぇ、知ってる? サンザシの花言葉」
先輩は顔を私の耳元に近付けてくる。そして、ささやくような声で言った。
「唯一の恋、だよ」




