エピソード32 命拾い
フレデリックの別荘が、森を抜けた地区にあった。管理の者が敷地内に住んでおり、早馬で知らせて準備がなされていた。
馬車内でレスターにもたらされた魔力注入の知識は、浩輔にとってショッキングなものであったが、望むところでもあった。
浩輔は、時々カズマに人工呼吸という名の微量の魔力を流しながらも、レスターに熱心に教えを請い、フレデリックの屋敷に着くと、客間にカズマと共に入る。
その間は、フレデリックもレスターも気が気ではないが、待つしかない。
首尾よく事を終え、2人が歩いて出てくるのを待った。
翌朝、浩輔が客間から1人で出てきた。
「どうした。カズマは?何故お前1人なんだ」
応接室のソファの一つを占拠していたフレデリックが立上り、カズマの容体を確認するため詰め寄った。
友人のアルバータを差し置いて、魔力抽入の大任を引き受けた浩輔の成功を、祈っていたからこそだ。
「意識は戻りました。魔力をちゃんと受け渡せたようです。でも、あっちこっち痛いって、立ち上がれなくて」
顔を赤くしながら、恥ずかしそうに頬を掻く。
「良かった」
ホッとしたフレデリックが、カズマに言う。
「アルバータに報告しに行って来る。昨日の事後処理もあるから王都に戻るけど、この別荘はしばらく自由に使っていていいよ」
そう言い残して別荘を出ていく。
「私は、カズマの様子を確認してから、失礼します」
カズマのいる客室にレスターが向かう。
浩輔は、ソファの1つに座り、こちらの世界に来てから昨日までの、怒涛の生活を振り返る。
結局俺には、カズマが生きていてくれて、元気で隣にいることが1番大事な事だった。
他には何もいらない。
あんな父なら尚更だった。
ふと、育ての父は別だと思い返す。
俺達を受け入れ育ててくれた園長先生が、生きてきた世界での俺の父だ。
俺が貰われて行った先で、毎回問題を起こして戻ってくるものだから、結局俺を引き取ってくれた、優しい父。
彼には、素直に心配をかけて申し訳ないと思う。
でも、俺の優先順位はカズマだから。
だから、父さんごめんなさい。
俺は、カズマの生きる世界で生きることにするよ。




