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エピソード13 条件

 翌日、アルバータに会うのが気まずかったカズマは、アルバータが出勤した頃を見計らい部屋を出た。

 忙しそうに屋敷内を動きまわるクリスを捕まえる。

「遅くなってすみません。今日こそ何か仕事をさせて下さい」

「ああ、おはようございます。支度は出来てますね。ではアルバータ様のお部屋へ。目覚めたら呼ぶように仰せ使っています」

「……はい」

 勝手に部屋に入り込んだ事を咎められる気しかしない。

 もしかして屋敷を追い出されるのか?

 クリスに続いてアルバータの部屋に向かいながら、頭の中でドナドナの音楽が流れている。


「カズマをお連れしました。

 ノックをし了承を得たクリスは、カズマをアルバータに引き合わせると、自分は1人で来た扉から出て行ってしまう。

 昨夜の寝室とは違う書斎とはいえ、豪華な調度のアルバータの部屋が、深夜の出来事を思い出させる。

 閉じた扉を背にカズマは俯いたまま声を出せないでいた。

「そんな所につっ立っていないで座れ」

 ソファを指し示され、おずおずと腰掛ける。

 「昨夜は、勝手な事をしてすみませんでした」

 まずは謝らなきゃ。頭を下げて声を絞り出す。

 少しの間沈黙があった。

「先日の魔力検査の結果が出た」

 カズマの発言とは無関係な話が続く。

「魔力属性についてはあの時見たとおりだ。

 カズマには現在魔力として認識されている7属性つまり、炎、水、土、雷、風、光、そして癒しの力、全ての属性が検知された。

 魔力量も潜在的には申し分ない程多い。

 ところが、表面上の魔力値はゼロに近い。どういう事かわかるか」

 俺は魔法の知識が幼児レベルだ。全くわからない。

「使えないのは通常は幼少期に修得する魔法の使い方を獲得していないからだ。

 カズマには本日から、魔法を自在に扱えるように訓練を受けてもらおうと思うが、良いか?」

 魔法のない世界で生きてきた自分には、ピンと来ない。

「訓練したら俺でも魔法が使えるようになるんですか?」

「やってみないとわからない」

 何故だかわからないが、出来ない方が良いと思っているように聞こえたが、次に聞こえた言葉は逆だった。

「子供でも出来るんだ、大丈夫だろう。早速だが午後に、著名な魔導師レスターを講師として呼んである。

 昼食を終えたら応接の間で待つように」

 え、決定事項?

「待って下さい。俺はこれからの生活で魔法が使えるようになれば助かりますけど、アルバータはどうして俺のためにそんな事をしてくれるんですか?昨夜の事もあるのに……」

 疑問に思った事は解決したい性質だ。つい聞いてしまったが、最後は尻すぼみとなる。

 アルバータは、少し考えるようにしてから慎重に話す。

「カズマには、やって貰いたいことがある。魔力覚醒した時に説明する」

 何をさせるつもりだろう。

 頼れる人のいない世界で、保護者のようなアルバータには恩がある。出来れば役に立ちたい。

 アルバータのことは何も知らないが、昨夜うなされるアルバータを目にした時、どうにかしたいと体が先に動いていた。

 カズマは自分の直感を信じている。

 確たる根拠はないが、物心ついた頃からの積み重ねで、迷った時は直感に従う。

「わかりました。出来るかはわからないけど、やってみます。

 その時には手伝いますけど、条件があります。代わりにアルバータのことを教えて下さい」

 アルバータの目が心なしか大きくなり、驚いているようだ。こんな表情をしても顔が良い。羨ましい。


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