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エピソード1 プロローグ

 新緑がサワサワと風に揺れる、街路樹の枝葉で陰になった歩道を、カズマは急ぐでもなく学校の最寄り駅に向かって歩いていた。


「カズマー」

 今通ってきた通学路の遠くの方から、自分を呼ぶ、よく通る中低音の声が聞こえてきた。

 車道を走る車の走行音や、下校中の生徒の時折高くなるおしゃべりと笑い声に負けない大声が、駆け足の音と共にあっという間に追いついてくる。


「カズマ待ってよ、先帰ることないだろ」

 陸上部も真っ青の健脚ぶりだが、高校3年間は何故か、自分と同じ帰宅部を選んでいた、振り向くまでもなく親友の見渡 浩輔だ。

 小中高校と現在まで、更には来春受験する予定の志望大学まで被ってしまった、腐れ縁が続いている幼馴染で同級生である。

 カズマは前を向いたまま僅かに歩調を緩める。 

 公共の場で人の名前を叫びながら走ってくるな。そう口に出すより先に、浩輔はカズマの横を通り越して前に回り、制服のワイシャツの襟とネクタイを緩めながら、向かい合わせに後ろ向きで歩き出した。

 向かい合うと目線が上がる浩輔の身長は、自称173㎝のカズマより10㎝近く高い。

 部活をしてない割には程よく日焼けし、整った顔立ちが上気し薄っすら赤くなっている。

 普段は軽く後ろに流している癖のない黒髪も、額にかいた汗で心なしか湿っているようだ。 ワイシャツの袖を交互に軽く捲る姿も様になっている。

チッ、モテるのも分かる気がするぜ。

「サトセンに呼ばれてたろ。だから先に帰ったんだぞ。今日は遊ぶ約束してなかったろ」

 意図して置いて帰った訳じゃないんだぞと言外に滲ませ、制服のポケットからハンカチを浩輔に渡してやる。

「お、サンキュー」

 受け取ったハンカチを広げて髪の生え際や顔の汗を拭くために立ち止まり、行く手を遮られたカズマが歩みを止めた瞬間、浩輔の両腕が伸びカズマを抱えるように包み込んだ。

 何が起きたか咄嗟に分からないカズマの真後ろから、狭い歩道を大学生風の男が乗ったママチャリが走り抜けて行く。

「危なかったな。カズマ、ケガないか?ったく車道を走れよな。なー?」

 浩輔がだいぶ遠くなった自転車を睨みながら、左手で茶色がかった猫毛のカズマの髪を撫で、同意を求めてきた。

「もう大丈夫だから、手離して」

 浩輔の過保護振りに慣れている俺は、助けてもらっておきながらも冷たく言い放ち、冷静に浩輔の腕を外したのだった。

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