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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

まぁー

作者: 壱原 一

左ハンドルの白い乗用車で田んぼのあぜ道を走っている。


甚だ細い砂利道ゆえハンドルを取られないよう心して徐行している。


遠目には近視が癒えそうな緑の山々が起伏して、徐々に鮮やかに彩度を増し手前の田んぼへ遷移する。


青々の豊かな地に反し、空は黒々と隙がなく、一面ふたをされた如く画一的な闇が覆う。


風に倒れそうな外灯がぽつりぽつりと灯るのが、目に見える限りの光源で、つまり山だの田んぼだのが見える筈がないため夢と分かる。


証拠にあぜ道の両側でまるきり同じ造形の幼児が手に手を繋いで並んでいる。


横並びに道を見て整列し、車が近付くと顔を向ける。


過ぎざまに繋いだ手を掲げ、喚声かんせいを発しつつ見送り、顔を戻し手を下ろすのを繰り返す。


大口から発せらる喚声は一様に「まぁー」と言っている。


なんら感情のこもらない、医者に「舌を出してあーと言え」と言われて言うような淡白な声が宙を突く。


同じ児の同じ声なので道が単調な「まぁー」で埋まる。


まぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…


あぜ道の砂利をタイヤが轢くじゃりじゃりした走行音に負けない声量の喚声がよそよそしく平たく続く。


夢で見るからには覚醒時なにかしらで見た児だろうが、あいにく夢なのも手伝って思考は鈍く判然としない。


ただ白いスウェットにデニムのオーバーオール姿で手を繋ぎこちらを見送る同じ児の喚声が充満する田んぼのあぜ道を徐行する。


まぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…


直線の道を進むにつれ徐々に前方の山影が迫り、先で外灯が絶え闇へ沈む手前に児が1人立ちふさがるのが見えてくる。


ぽつりぽつり灯る外灯と車のハイビームに照らされて、たらんと腕を下げ佇立ちょりつする児がぼんやりと白く浮き上がる。


アクセルペダルから足を浮かせブレーキペダルを踏む意思が回路を断たれたように伝わらない。


そもそも回路がないかの如く心してハンドルを持ったまま行く手の児へ向けて徐行する。


まぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…


視野の両端で児たちの手と顔と声が車を送っては元へ戻る。


正面の児も両脇の児たちと同様くるまが近付くと口を開けた。


まぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…ぁああぁーー…


発される喚声を聞きながら、己の手足が車をって突っ立つ幼児へひた進む。


*


通過する間の感触をまざまざ宿して目が覚めた。


動悸がして手汗が滲んでいる。顔や首筋を擦ると多量の脂汗でぬめる。


この蒸し暑い夜に窓を開けずエアコンも点けずで寝苦しく悪夢を見たのだろう。


とりあえず立って大きく伸びと呼吸をし、少し気分がましになって、起き抜けの意識もやや冴える。


恐らく時刻は真夜中で、虫の声さえ静まり、人家はおろか星明かり一つ望めない。


まだ寝ぼけていて思い出せない。


どうしてここに居るんだっけ。


今でた場所を振り返ると左ハンドルの白い車が細い砂利道に停まっている。


疑問が不安に変わる前に、席に着きハンドルを握っている。


砂利にハンドルを取られぬよう心して徐行を始め、やがてこの細い砂利道が遠目に山々の起伏する田んぼのあぜ道と分かりだす。


左ハンドルの白い乗用車で田んぼのあぜ道を走っている。


ぽつりぽつり外灯も見えてくる。



終.

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