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ノーア帝国物語

王太子は真実をまだ知らない

ユルい設定ですが、お読みいただければ幸いです。

一部内容を付け足しました。

創世記によると、海を挟んだ島国エトルス国は魔力を以て国を治めていた。

しかし時代が下るにつけ、魔力が少ない王が続いたことで国に恐慌が起こった。


時の王は闇の者と取引をして強い魔力を保持すると、人が変わったような狂王となって王宮では殺戮が繰り返され、国は恐怖で支配された。


そんな国から海を渡って来たエトルス人が対岸の半島に国を建てた。

その時のエトルス人の王の名前からつけたのがノーア国である。


しかし、勝手に入植されて土地を奪われた半島の民は、エトルス人の王を追放して土地の奪還を果たした。

その時の戦いで勇敢に戦った三人の英雄が中心となって新生ノーア国はサエニウス王家と元老院による合議制の国へと変貌を遂げたのだった。


新生ノーア国は戦いによって積極的に領土を広げ、ある時に半島を統一するほどになった。


それを対岸から見ていたエトルス国。

自慢の魔力を持つ者は、狂王の闇の魔力に負けて皆粛清されて絶滅し、その闇の呪いで国土は荒び疲弊の一途。

対岸のノーアはエトルス人の祖先が建国した国、つまり自分の領地だと勝手を言って、攻めてきた。

しかし、戦闘に積極的なノーマ国は海岸線で待ち構えると、迎え撃った。


開戦では、上陸するのが非常に難しく、迎え撃つ方が有利なのだ。

しかも荒廃したエトルス国の軍備など、絶賛軍拡中のノーマ国の敵では無い。

開戦から程無くして、勝利が確定路線となった。

後は、軍事賠償をどれだけ取れるか、搾るか決めるだけである。


その大切な会議に、意気揚々と大軍団でサエニウス王が王都から戦地の会談場所へと向かった。


大軍団を引き連れて王都をパレードして出発する王の一団を、ノーマ国民は歓声と共に見送ったのが、数日前だったか。



「ユリア!ユリア アンキウス!お前との婚約は今夜、この時を以て破棄する!」


王都の中心にある王宮で、先日のエトルス国との戦いに勝利したことを祝って祝賀パーティを開催した。


主催は、賠償会談に向かった王に代わって王太子である、ププリウス サエニウス プルトゥスである。

ププリウスは薄茶色の髪と碧色の瞳を持つ彫刻のような美しい顔立ちの美青年である。


しかし彼は乾杯の挨拶をする前から、その腕にこの場にそぐわない大きく胸元の開いた服を着た女を腕にぶら下げて、開口一番、婚約破棄を告げたのであった。


「ユリア、どこにいる!前へ。」


しかし、そこには多くのユリアが進み出る。

ユリアは非常によくあるノーアの女性の名前なのである。

しかもアンキウス家は三英雄のうちの一つ、時の大将軍であり、元老院議員でもあるユリウス アンキウスの家門だ。


その場にはユリア アンキウスさんも多く存在する。


「何をしている、私の婚約者であり、ユリウス将軍の娘のユリアに決まっているだろう!前へ出ろ!」


美しい顔を歪ませて、とても王の風格ではない癇癪な声で叫び地団駄を踏む。


すると、多くのユリアさんの人波の真ん中が割れ、大将軍の娘 ユリアが前に進み出た。

そのユリアは均整のとれたスタイルの彫りの深い顔をした大変な美女で、この国には珍しい銀髪に紫の瞳をしていた。これは、彼女の母方の血にかつてのエトルス王家の血が入っているからだろう。


「やっと姿を現したか!無礼者。いいか、よく聞け。お前との婚約をは」

「婚約破棄、慎んでお請け致します。」


ユリアは王太子の言葉に被せて、すばやく了承した。

その無礼な振るまいに、王太子は眉間にシワを寄せた。


「お前、理由を」

「結構です。では、御前失礼致します。」


またしても、王太子の言葉を遮ると、きれいな笑顔をみせ丁寧な礼をした後、退出していった。

その後ろを多くのユリアさん達も続いていく。


「お前、無礼だぞ!殿下がまだ話されているではないか!」

王太子の後ろに控えていた護衛のマルクスが激昂しユリアの前に素早く飛び出して、その腕を掴もうとした瞬間、ポロンっとその手首が床に落ちた。


「え?」

音もなく、マルクスの手を斬った者がユリアの前に立つ。

黒髪に黒い目をした、黒い軍服を着た青年が細身の剣を血に塗らしていた。


「うおーーーーー、手が!手がーーーーーー」

突然のことに呆然としていたマルクスだったが、一気に痛みに襲われたのか、転がり回って騒ぎだした。


「な、何をしているのだ。ここは王宮である。殺傷沙汰はご法度だろう!」

王太子が顔面を青くして、ユリアの前に立つ者に向かって怒鳴る。


「三門の盟約が解消されたのだ、問題ない。」

そう言うと、その男が王太子に向かって剣を向けた。


「ルフス頼みましたよ。」

ユリアはそう告げると、後ろのユリア達だけでなくその場にいた多くの者を従えて優雅にその場から去った。


「な、な。どうなっているのだ。」

王太子とその腕にぶら下がっている女と、手首を斬られて転がっている者と遠巻きに見ているメイド達を残して、あっという間に会場から人が居なくなった。


王族を守る近衛騎士も知らぬ間に誰一人として居なくなっている。


「こいつはこのままでいいのか?」

フッと嫌みな笑みを浮かべてルフスはそう言うと、疾風のように消えた。


とにかく、マルクスを手当てしなければとメイドに言いつけると、王族の席に座っているはずの母王妃を見やる。

が、入場した時には確かに居たその席に、母王妃の姿が見えなかった。


「ププ様、これどうなってるんですか?」

腕にぶら下がっていた豊満な肢体の女が青ざめて聞く。


「ちょっと、取り込んでいる。リウアはさきに部屋に行って休んでいよ。誰か、そこの者、彼女を私の部屋へと案内せよ。」

「は、王太子殿下の私室でよろしいですか?」

「そうだ。」


メイドに連れられて、リウアが出ていった。

彼女は王都にある所謂娼館で働いている娼婦である。

ある時幼馴染みのマルクスに連れられて行ったのが、癖になった。

それはそれは目眩くスペクタクルであった。


王太子としての仕事はそんなにない。

精々、元老院への嘆願書に署名するくらいのものだ。

時間に余裕のあるププリウスは、暇に飽かせてリウアの元へと通ったのだった。


そのうち、身請けをリウアからお願いされ、安請け合いしたは良いが、言うほど王太子に自由になる金が無い。

いや本当のところは、使途がきちんとしていれば、稟議書を上げて元老院で承認されれば、予算が出るのだが、娼婦の身請け代は出ないと側近の文官、幼馴染みのルキウスに言われてしまった。


その後も会う毎に身請けをリウアにせがまれたププリウスはマルクスに相談したところ、『王太子の婚約者にすれば予算が出るのでは?』と言われ、王と将軍の居ない内に婚約破棄と再婚約をしてしまえば良いだろうということになって、この破棄騒動になったのである。



ー そういえば、いつも自分の側には護衛騎士のマルクスと文官のルキウスが侍っているのに、今日はルキウスを見ていないな、どうしたのだろう ー


そんなことを考えながら、母王妃の私室のある宮へと向かうと、そこはもぬけの殻。

母王妃だけでなく、侍女もメイドも下女も居ない。


誰もいない宮に愕然として暫く佇んでいたが、ハッとして王太子宮へと踵を返して向かった。

急いで向かったがその間誰にも会わない。

メイドも侍従も誰もいないのだ。

ここは王宮である。

扉の前に騎士も居ないなど考えられない。


焦って自分の私室に入ると、リウアすら居なくなっていた。


「え?リウア?リウアどこだ?リウア。誰か、誰か居ないかー!」

叫んでも怒鳴っても誰からの返事もない。

人の気配がしない。


そうだ、マルクスだ!と急ぎ救護室へと走り向かう。


そこにはベッドにただ寝かされているだけで、なんの処置もされていないマルクスがいた。

「マ、マルクス?医師はどうした?」

「知らない。ここにメイドに放り込まれてそのままだ。痛い、痛い。このままでは血が止まらず死ぬ。殿下、助けて」

はあはあと苦しげなマルクスにかける言葉が無い。

とにかく、人が居ないのだ。

しょうがない、誰か居ないかと、王宮の外へ出ると馬丁が居たので声をかけて、手伝わせると馬車にマルクスを乗せてマルクスの屋敷に向かった。


「大変だ、マルクスが。すぐに医者にみせてくれ!」

そう言ってマルクスの家の玄関で声をかけると、家人は騒然となり、マルクスの母は泡を吹いて倒れた。

父親の大マルクスは、非常に不機嫌な顔でププリウスに声をかけた。


「そのまま王宮で放っておいてくれたら良かったのに。あなたのお陰で、我が家門はもうお仕終いだ!早くその愚か者を置いて出ていってくれ」


「な、どうしてもうお終いなんだ!」

ププリウスが驚いて聞き返すが、

「そんなことも知らぬのか!愚かな。王妃はどうした!?」

敬称も付けずに母王妃を呼び、愚か者と罵る大マルクスに気を悪くしながら、ププリウスは

「居ない。王妃宮はもぬけの殻だ。」

「なんてことだ!自身の撒いた種だろうに!王妃の実家に送ってやろう。そこで話を聞くのだな。」

そういうと、使用人が買い出しに使うような幌馬車に乗せられ、布を掛けられて裏門から追い出された。


そして、王妃の生家に有無を言わせず投げ込まれて、

「王妃の息子のしたことだ!キチンと責任をとるんだな。どっちみち、うちもそっちももうお終いだ!」

大マルクスはそう怒鳴ると、幌馬車に乗って帰って行った。


王妃の生家は側近の文官ルキウスの家だ。

ルキウスは王妃の兄の子で、ププリウスの従兄弟である。


「ププリウス、あなた何てことをしでかしたかわかっているの?」

母王妃が酷く震えながらキツく叱る。

「母上、私はユリアとの婚約を破棄しただけです。それなのにこの現状はどういうことなんですか?」

ここに至るまでの疑問を口にしたププリウスには周りの騒ぎを不思議そうに思っている節があり、王妃だけでなく生家の一族みなにピリッと電流が走った。


「三門の盟約が破棄されたのだ、明日にでも争乱が起こる。いや、それすら起こらず、我が家門と大マルクスの家門、そしてサエニウス王家が断罪されて終わるだけか。」

母王妃の兄、ミヌキウス家当主が自棄っぱちに吐き捨てた。


「王家が終わる、いったいどういう意味だ。三門の盟約ってなんなんだ!?」


「お前、そんなことも知らないのか!この国なら平民さえも知っていることを!どうなってるんだ!?」

当主が息子でププリウスの側近文官のルシウスを怒鳴り付けて詰問する。


「まさか、そんなことも知らなかったとは!殿下、この国の三英雄のことは知っているでしょ?」

「ああ、もちろん。王家のサエニウス家、執行官のミヌキウス家、軍閥のアンキウス家だろ。それがなんだ!?」

あまりに無知なププリウスにルキウスは驚愕して言葉を失った。


「元々、エトルス王家を追い出し、新生ノーア王国を建国したのはアンキウス家だ。我が家門は執行官としてアンキウス家に仕え、サエニウス家は補佐執政官として我が家門に仕えていただけだ。元からノーア王国はアンキウス家のモノだ。」

ミヌキウス家当主が地を這うような低い声で語った。


「半島を統一し、領土を拡大していくのに統治をする暇はないからと、元老院に席を置くだけにして我が家門と王家にノーアの統治を委譲していたのだ。この三門はこの役割を絶対に破らないという盟約を結んでいた。それを一方的にお前が破棄したのだ!真の王家が取り戻しに来るだろう、ノーアを。」


「そ、そんな!そんなこと、誰も言ってなかった。」

ププリウスは愕然として、一人言ちる。


「そんなバカな話があるか!お前には何人もの教師がついて教育をしていただろうが!その中でこの盟約について教えないなんてありえない!」


「本当に、本当に知らないのですか、殿下!そんなバカな!」

ルシウスも驚いて聞き返す。


「王妃、王宮でどういう教育をしていたのだ!」


「いえ、優秀な者を教師として迎え、普通に王族足る教育をしてきた、ハズ、だけど。ええ?本当に知らなかったの?ユリアとの婚約についても私からも話したわよね。」

兄に叱られ震えながらも自身の教育の正当性を証明したいと必死で聞く。


「教師に盟約や建国についての話は聞かなかった。ユリアについては大事にすること、仲良くすることしか言われていない。」

ププリウスが途方にくれたように呟く。


「ええ!?・・・もう、お終いだ」

「いやーーーーーーーーーーー」

兄の呟きを聞くと、王妃は悲鳴を上げた。



一方その頃、王宮から王都の屋敷に戻ったユリアはルフスから報告を受けていた。


「賠償会談は問題なく締結された模様。ププリウスの婚約破棄を受けてすぐに御館様に早馬を出して知らせてある。王家はまだ戦地でのんびりしているようだが、御館様はすでに出立して明日の早朝にはここに着く予定だ。勿論我が一族は使用人までも戦闘準備を整えている。」


「そう。」

ユリアはゆったりと返答すると、窓の外、空を飛ぶ鳥を眺めていた。


翌日、御館様こと、父であるユリウス アンキウス将軍が屋敷に戻ってきた。

そして全ノーア軍による戦時体制が敷かれた。


将軍が帰還してから、三日後。

やっとのことで、側近数人を連れ簡素な馬車で王が王宮に戻ってきた。

そこに、兄に引き摺られて泣く泣く戻らされた王妃と王太子、ミヌキウス家の当主と息子のルシウスと家門の者、大マルクスと手首を失ったマルクスと家門の者が沈痛な面持ちで出迎えた。


「お前は、何て言うことをしてくれたのだ!」


王は顔色を無くしていた。


会談を好条件で終え、祝勝の宴を楽しんで眠っていたが、朝になると王と側近を残して、兵士一人も残って居なかった。御者も居ないし馬車も無い。

近隣の村で馬車をなんとか手に入れて側近が馬を操ってやっと帰ってきたと思ったら、ことの顛末を王妃から聞かされ、気を失う寸前で頑張って踏ん張って耐えている状況だ。


「だいたい、なぜ教師が三門の盟約を教えない!ププリウス、お前はなぜユリアと婚約したと思っていたのだ!?」


「ユリアが私に一目惚れしたからでは!?」

ププリウスがさも当然とばかりに言った。


そこにいる全員の時間が止まった。


「殿下、それは誰が言ったのですか?」

ルシウスが恐る恐る尋ねると、

「最初についた教師が言っていた。ユリアがわがままを言って将軍にごり押ししてもらったから軍閥なんぞの野蛮な家門から妃を娶らねばならぬ私が不憫だと言われた。」

ププリウスは不機嫌そうに答えた。


「な、なんてことだ。ププリウスの教師を選んだのは王妃か!なぜそんなものを選んだ!」

王が王妃を怒鳴り付ける。


「とんでもございません。教育係を選ばれたのは先代の王妃様、王太后様付きの女官長とププリウスの乳母です。

乳母は王の乳母の娘ですから、王もよく知る人物では無いですか!」

王妃が自分のせいにされては堪らないと、強く言い返す。


「な、それならばその者達をこちらへ呼べ。」

王が側近に命令するが、


「元女官長も乳母も教師も、誰も居ないのです。王宮に居るのはここに居る者のみ。」


絶望的な顔をして側近が答えた。


そこへ、先触れもなく突然ユリウス将軍とユリアが現れた。


「久しいな、レリウス。ユバはやっと戻って来たか!」

元老院議長も兼ねる行政官のトップ レリウス ミヌキウスと王であるユバ サエニウス プルトゥスを呼び捨てにして歩いてくる、覇気を纏う真の王者の姿がそこにあった。


「ププリウス、お前は本当にプルトゥスの名に恥じぬ者だ!期待通りの活躍だな!ハハハ」

屈強な体躯に豪快な笑い声、それが決して下品にならないのは美丈夫が故だろう。


そこにいる一同は、みなかしずいて頭を垂れた。

一拍遅れてププリウスもかしずき頭を垂れた。


「ほう、ププリウスやっと自分の立場がわかったか!まあ時既に遅しだがな。」

顎を撫でながら、ユリウスがニヤリと笑いキツい一言を溢した。


「王国の真の太陽、ユリウス陛下、発言をお許しください。」


「なんだ、ユバ。どうした、言ってみよ。」


「ププリウスの過ちは当然報いなければならないことにございます。しかし、教師がププリウスに意図的に片寄った教育を施していたことがそもそもの問題でした。」


「ほう、ほう、その件にやっと気がついたのか。遅きに失したな!戦場じゃ隊は全滅だぞ、そんな情報収集能力では。」


「で、では陛下はご存じだったのですか!」

王はユリウスの発言に驚き、背中を冷たい汗が流れる。

「ユリア、代わりに教えてやれ。」


「はい、お父様。それは五十年前のこと。我がアンキウス家には秘密にして、サエニウス王家とミヌキウス家によって行われた、ザビーナ国の悲劇。」


「ザビーナ国の悲劇とはなんだ?」

ププリウスが隣のルシウスに尋ねる。

その声のあまりの大きさと、王族が知っていなければならない醜聞をププリウスは全く知らないことを今さらながら知り、ルシウスは頭を抱えた。


「あら、王太子殿下はご存じ無いのかしら?あなた様のお祖父様が音頭を取って行った、隣国の蹂躙ですわ。友好国だったザビーナ国の者たちを当時の国境線にある辺境地の祭りに王が国をあげて招待し、祭りの最中、家族と同席していた乙女を拐った国家犯罪ですわ。」


「え!?」

ププリウスは額に脂汗を浮かばせ、目をキョロキョロ泳がしはじめた。


「そして、その拐った乙女を自分の家門や有力な支持者へと報償として与えたのですよ。元女官長も王の乳母も確かその乙女だったハズでは?」

ユリアが抑揚の無い声で王に尋ねる。


「いや、そのようなことは知らないが。本当なのか、ザビーナの悲劇の乙女が王宮勤めなど。」


「そうですか。当時のアンキウス家の当主は戦地でその事を聞き、激怒し、戦局を一気に片付けて帰還すると、この問題について対応したそうですわ。拐われた乙女を大切に扱うように地位を与え、乙女の安全を確保し、復讐することを認めたと我が家の歴史書ではそう記載されております。当時の王妃様は我が家門の出故に王宮の自分の下にザビーナの悲劇の乙女を保護されたのでしょうね。王の乳母として。」


!!!!そこにいる者全員に電流が走った。

ププリウスの教育が片寄っていたのは復讐によるものだったのだ。


「確かに教師は意図的に教えないこともありましたが、本人がやる気があれば図書館にある歴史書でも王家の正史にでも書いてあることです。それすらせずに今に至るとは愚かの謗りを禁じ得ませんね。」

ユリアが抑揚の無い冷たい声で言い切った。


「しかし、そんな先代の科を今払わされるとは、些か不本意」

王が顔を上げず、小さい声で反論した。


「いいえ、過去の科だけではありませんわ。規模は小さいけれど、同じような乙女狩りを今世でも行ったのです。ね、王太子殿下。そして、マルクス。ルシウスは参加はしなかったけれど、止めなかった、そうでしたわよね。」


ユリアが冷たい目をププリウスとマルクス、ルシウスに向けて言い放った。


そうなのだ、歴史を知らないププリウスは突如思い立って、狩りと偽って出掛けると、王国の端の少数民族の乙女を拐って凌辱して歩いていた。

あまりに頻発する乙女狩りに、さすがのマルクスも付き合いきれず、娼館を紹介したのだった。


先程から尋常じゃない脂汗を垂れ流しているププリウスは身に覚えがある悪事を聞いて、自分の悪事が断罪される予感に震えていただけだったのだ。


「あ、あなたは、なんてことを!」

王妃がププリウスの頬を打った。


「よい、王妃よ。三代たってもその身に流れる愚か者の血は変わらないのだ。必要なことは学ばず、余分な悪事は思い付く、どうしようもない愚か者の血よ。もう、半島も統一した。貸していたものを返してもらおう。」


そうユリウスが告げると、右手をスッと上げた。

それを合図に多くの騎士兵士が流れ込み、そこの者を捕らえた。



屋敷や領地にいる一族の者も時を同じくして捕らえられ、その処罰が告げられた。


サエニウス王家は断絶、広場でのギロチン刑である。

特に、ププリウスは始め、街の広場に磔にされ、市民から石をぶつけられ、目が潰れ、骨が折れ、ひどい有り様になって後、ギロチンにかけられた。


これはマルクスも同様であった。


マルクスの一家は男は辺境地の奴隷に落とされ、女は鉱山労働者専用の娼婦にされた。


王妃の生家である、ミヌキウス家も本家は取り潰しになり、平民に落とされた。

しかし、優秀な行政官を輩出する家門のため、分家の分家が後を継いだ。

もちろん、アンキウス家の臣下としての永遠の盟約を結んだ。


ユリウスは王を改め、皇帝と名乗り、ユリウス帝として即位した。



「ユリア様、本当にありがとうございました。」

王都のアンキウス邸の中庭にあるガゼボで、豊満な肢体をゆったりとしたワンピースに包んだ女性がかしずいていた。


「いいえ、よくぞ耐えましたね。お祖父様の教えで、乙女狩りの被害者に復讐の機会が与えられると決まっていたのです。しかし、期を見なければならない。辛い時期を良く耐えましたね。」

ユリアが優しい眼差しを向けて慰労する。


「有り難いお言葉です。」

その女性は顔を上気させてユリアを見上げた。


「これからルフスと田舎に戻るのですか?」

ユリアがリウアに尋ねる。


「いいえ、もし叶えていただけるのなら、ユリア様の元で働かせて貰いたいのです。兄と共に。」

そういうリウアの横に音もなく並んでかしずく黒髪の男がいた。


「どうか、我が主として今まで通りお仕えさせて下さい。」

そう言うと、ユリアの手を取りそっとその手の甲にキスを落とした。


「まあ、まあまあ。」

ユリアが珍しい声をあげ動揺した様子をみせた。


二人の行く末はまた、別の話。



《完》


お読みくださいましてありがとうございました。

誤字誤謬があるかもしれません。

わかり次第訂正いたします。


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プルトゥスというのはアグノーメンと呼ばれる日頃の行いに対してつけられる名で、[間抜け][愚か]の意味する蔑称です。ププレイウスの祖父から代々継がされています。


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