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ネオヒューマンビーンズ  作者: 加藤純一郎
レストラン編
9/21

9 飯食わないとか正気かよ

「実はね……私、とある物を集めててね、こういうのって見たことある?」


 そういうと、女は懐から何かを取り出す。まばゆい光を放つ玉みたいな物だった。当然そんなものに見覚えは無い。俺は無言で首を横に振った。


「そうだよね、ここに来たばかりって言ってたもんね。知ってるわけないよね、まあ、単刀直入に言うと、条件っていうのはこれ。このオーブを集めてきて欲しいの」

「よーし、分かった! 任せとけ」


 適当に二つ返事で承諾する。こんなもん何とかなるだろう。


「え、そんな簡単に決めちゃっていいの? 裏があったりとかするかも……」

「そんなことより今俺、腹減ってしょうがねぇんだ。何か食わしてくれねぇか?」

「……ま、まあ、確かにもうお昼時ね。ご飯にしよっか」

「やったあああああああああ」


 異世界に来てまで女にたかれるとは思ってもなかったぜ。でもなぁ、なんかちげぇんだよなぁ……あんまり異世界感が無いっていうか。ま、どーでもいいわ。


「着いたよ」

「はっや、テレポートでも持ってんのか」

「え? 目の前にあったけど」


 そう言うと、女はすぐ目の前にあるマンションに指を指す。……おい、待て待て、ここ横山独房カンパニーじゃねぇか。何で苦労して出てきたのにもう1回捕まんねぇといけねぇんだ。そもそも飯なんかねぇだろと思って、マンションのフロア説明に目を移すと何故かレストランがあった。わけわかんねぇ会社だな本当に。


「ここだけはやだ! あっちにもレストランあるだろ、あそこにしよう!」

「奢ってもらう分際で……」

「っせ! よく分かんねぇ光る玉集めてやるって言ってんだからこれぐらいいいだろが!」


 女はずーっと不満そうに睨んでいたが、しぶしぶと俺に付いてくる。はぁー、ったく。女ってのはもうちょっと諦めよくなれねぇのか。


「そうそう、まだ名乗ってなかったね私。ゴロリ=キミ=シヤバラヒって言うの。みんなからはゴロリって呼ばれてる」


 おお、異世界っぽい名前。だけど、親しみ深く感じるのは何故だろう。一応名乗られたので、俺も振り向いて名乗り返す。


「俺は加藤純一郎。やがてはヒーローになる男だ。気軽に純ちゃんとでも呼んでくれ」

「そ、そっか。じゃあ行こうか」


 なんだかぎこちない感じのゴロリを見て、俺が言ったミスに気が付いた。ああ……やがてじゃなくて既にヒーローだったな。


───「ここがレストラン……?」


 目の前に広がる光景に、思わず吃驚してしまった。日本のとは比べ物にならないレベルにでかい。おかしい、入る前は千葉にありそうな潰れかけのラーメン屋みてぇなとこだったのに…… 


 なんか、でかい皿の中央にオサレな一つまみぐらいの魚の切り身を置いて、オリーブオイル数的垂らした後、スプーンで引き延ばしているような店になってる……! あまりのギャップに躊躇していると、ゴロリが背中を押してくる。


「こういうとこ来るの初めてだからって、そんなに驚かなくても……」

「人をあんまり見た目で判断すんなよ、来たことぐらいあるわ! 俺が驚いてるのは、なんで入る前は人間の屑が営んでそうな店だったのに、こんな質量の法則が崩れるような内装なんだってことだ」

「なんだ。それならこれは多分、空間拡大の魔法とか使ってるんだと思う。最近内装に気を遣う店が増えてきたし」


 ふーん、なるほどな。でも、俺だったら外装がゴミみてぇなとこにはいくら評判が良くても入る気はしねぇけどな。見た目を気遣えない店って時点で評価は0。


「ていうか、やっぱ魔法とかってあるじゃん! なぁ他にも色んな種類あるんだろ? 俺にも使えねぇの?」

「魔法適正っていうのがあれば……まぁその話は後でじっくりしてあげる」


 そう言うと、ゴロリは先陣を切って、広い広いレストランの一席に座る。上手くはぐらかされた気もするが、ここは素直に従っておこう。飯だ飯だ! うーわ、それにしても本当無駄に広いなぁ。その割に客居ねぇや。


 俺が席に着くと、ゴロリは既にメニューを見ていた。紙媒体の。そういうとこはアナログなんだな。地球とは違って、科学はそこまで発展してないのか。


「さてと……じゃあまずはサラダからね」

「は? レストラン来てまでサラダとか馬鹿か? お前だけ食ってろ。俺、肉から食うから」

「ちょっと! なーに言ってんの! 栄養が偏っちゃうでしょ。それに何日もまともな物食べてないなら最初はあっさりした物から……」

「ずっとまともなもん食ってねぇからこそ肉食うんだろが! てめぇあれだろ、合コンでいいって言ってんのに、サラダ取り分けたがる女だろ。そういう善の押し売りまじで迷惑だから。やめろな?」

「はぁ……もういいよ、好きにすれば……」


 分かってねぇよな本当。葉っぱとか食いもんじゃねぇから。家畜と一緒に牧草でも食ってろ。


 しかし、肉ってだけでもすげぇ種類があるな。迷っちまう。……よし! 決めた。このS19ランクの肉にしよ。店員は……呼べばいいのか?


「すいませーん! 注文いいですかーーーー?」


 最大限の大声で、奥にいるであろう店員を呼び寄せる。少し間が開いて、呼び寄せた店員が奥から気だるそうな雰囲気で出てくる。そして、頭をポリポリ掻きながら、


「あの、そこにボタンあるんでそれ押してもらえませんかね。無駄に動かせんなよ、……ったく」


 あ? 帰った? こいつ接客業舐めてんな、絞めたろか。つかここまで出てきといて戻んなよ、ぶっ殺すぞ。

 

「こいつは痛い目見せてやらんといけんな……ゴロリ! ちっと手伝え」

「いいじゃん別にあれぐらい。言われた通りベル押して呼べば?」

「うっせ! あんな生意気なガキにはお灸を据えてやらんと」

「何する気なの……」

「ピンポンダッシュって知ってるか?」


 俺が尋ねると、ゴロリは怪訝そうな顔で見つめる。


「知ってるけど……まさか!」

「そう、まさかの『レストラン~食事前のピンポンダッシュ添え~』フルコースだ!」

「異世界の人ってここまで頭が弱いのね」


 ゴロリは半開きの目でじとーっと見つめてくるが、白い目で見られるのなんて慣れっこだし、今更どうということはない。俺はゴロリに耳打ちで指示を出し、二人して席を離れた。ゴロリは一番左端のテーブルへ、俺は一番右端のテーブルへと移る。ゴロリが左端のテーブルへ着いたのを確認すると、俺は大声で叫んだ。


「さてと、じゃあ俺こっち押すからお前はそれと同時にそっちのを押してくれ! 押し終わったらすぐに元の席に戻れよ!」


 こんだけ広くても俺の透き通るような声は聞こえるみたいだ。ゴロリがそれとなく頷いていた。さあ!


 ピンポーン!


 よし、ゴロリの方は……


 ピンポーン!


 っしゃ! 完璧だ! その音が鳴ると同時に俺たちは元の席へとダッシュで戻る。


「さぁ、見とけよ」


 少しして、さっきのガキが出てくる。俺が呼び出しベルを押した右端のテーブルへと向かうために。

 へっ、それが罠だとも知らずに……

 しばらくして、小さくだが微かに声が聞こえた。


「……誰も居ないじゃねぇかよ。ちっ、誤作動か。次は左端の席かよ……めんどくせぇな、くそっ」


 ガキは頭をボリボリ掻きながら、今度は左端の席へと歩いていく。その姿を見送り、


「はっ、馬鹿が! そっちも誰も居ねぇよ! ざまあみやがれ!」

「ね、ねぇ、純ちゃんっていつもこんなことしてるの?」

「ふっ、まあな、ヒーローとしての役割を果たしただけだ!」

「これがヒーローなら、純ちゃんの世界ってどうかしてるよ……」


 本気で心配するゴロリを見て、なんだか可哀想に見えてきた。この価値観を理解できないなんて……


───「はぁ、食った食った!」

「食いすぎでしょ。ステーキ何枚頼んだと思ってんの」


 はぁ、とため息を吐きながらも、なんだかんだ頼ませてくれたことを考えるといい女だ。あっちのゴロリよりよっぽど……


「お客様、お食事がお済でしたらこちらのデザートはいかがでしょうか?」


 ふっ、と一息ついていると、タキシードを着こなしたいかにもな人が、デザートのメニューを持ってくる。ちなみにさっきのガキは、ピンポンダッシュをされたショックで二度と出てこなくなった。若いのは根性もねぇな。まぁ、根性より容姿だけどな。容姿容姿。200は手堅い。


「ちょっと……ここのデザート高いんだから調子に乗って頼んだりしないでよね」

「ああ、まぁ、お前にも世話になったしそんなに迷惑掛けるわけにもいかねぇよな」


 その俺の発言を聞いた途端、ゴロリは寝起きにクラッカーで誕生日を祝われたかのような顔でこっちを見てきた。


「う、うそ、純ちゃんにも常識って物が存在したんだ……」

「癪に障る言い方が好きだな、お前は」


 まあ、でもメニューぐらいは見たっていいよな。俺は貰った冊子に目を落とす。


『粘土男の氷漬け』

『光るヒトデの目玉焼き』

『ティファニー』


「なぜだろう、涙が止まらない」

「えっ、ちょっと。純……ちゃん?」

「これ全部くださあああああああい」

「かしこまりました」

「ねええええええええ! なんでこんなことしたの!? 私への嫌がらせ? 何もしてないのに? ご飯まで奢った私に何の恨みがあったの!?」

「えへへ、みんな、みんな、みんな、お前はこっち見んな」


 程なくして、俺の仲間を連れたワゴンがこちらへと向かってきた。あはははは! もうすぐ、みんなと会えるんだぁ……


「お待たせしましたデザート三品でございます。それと、伝票でございます」

「みんなあああああああああああああああああああああああ」

「一、十、百、千、万、十万……百ま……いやああああああああああああああああああああああああ」


 レストラン中に、二つの大きな叫び声が響いていた。

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