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8 横山独房カンパニー、祝賀会放送

ちょうど看守の服に袖を通した瞬間だった。目の前のドアが開かれ、突如として現れたのは、


「あんたが……横山紫か……」

「いかにも。そして、俺の前に現れたお前は誰なんだ!」


 横山紫は目と鼻と口だけをハンドスピナー型のマスクで隠した完全な変態だった。どこから見てんだこいつ。


「……あー、今不審者が居たから、確保しておいた」

「そうか……俺はこのあと加藤純一郎とやらに面会するはずなんだけど。まだかな」


 そうだった。俺はこいつに呼ばれてたんだった。まあ、どう見ても馬鹿そうだからなんとでも誤魔化せそうだけど。


 横山紫は顔のパーツが見えないので表情を伺うことはできないが、さっきから腕を組んだり、足をトントンさせたりと、焦りの兆候が見られる。


 となれば、多少強引な流れでも上手く納得してくれるだろう。俺はここで畳み掛ける!  


「馬鹿野郎! こいつが加藤純一郎だ!」

「!? 本当か!」

「ああ、実は会長室にこいつが忍び寄ろうとした所を発見したんだ。恐らくお前に暗殺でも仕掛けようとしたんだろう」

「まじで!? ……あれ? この加藤純一郎は上着以外なんで看守の格好してるんだ? あ。あと、お前はなんで上着以外囚人の格好してんの?」


 しまったな。服装のこと完全に忘れていた。さて、どう誤魔化すか。訝しげに俺のことをじろじろ見てくる横山紫。やっぱりこいつの目がどこにあるのかを聞きたい。


「これはコスプレだ」

「コス……プレ?」

「囚人が看守のコスプレをして、看守が囚人のコスプレをしている。それだけだけど文句あんのか?」


 右斜め上を見ながらうんうんと頷く横山紫。そこ換気扇しかないけど。


「あー、ふーん、なるほど。あと、さっきから気になったんだけどなんでお前ため口なの? 俺上司で、それと会長なんだけどさ」

「馬鹿かてめぇは」

「そういうため口やめろって言ってんの!」

「ため口だけどな。これは俺なりに親しい間柄の人にしかしないんだよ。むしろ喜んで欲しいんだよね、お前ごときに関係を持とうとしてるってことを。はっきり言って、それすらも分かんねぇのなら死んだ方がいいよマジで。いや、本当に。そもそもお前周りからなんて呼ばれてるか知ってっか? 空気の読めないクソオワコンじじい、あんたの時代終わってんだよ、って。でも、俺はそこまで思っちゃいねえよ? だから、俺だけはお前とはため口で対等に話してやるって言ってんだよ。おめぇみたいな屑が相手してもらえるだけ感謝しろよ。恨むなら相手にすらされない虚しいクソみたいな自分でも恨んでろよ。あと、笑わねぇとかキモイから死ね」


 俺ですら言い訳としか思えない発言をただ黙々と聞いていた横山紫は、話が終わると同時にがしっと俺の手を掴んできた。くっ、さすがにバレたか……


「ありがとう……俺はいままでなんてことを……」


 馬鹿で良かった。お前が本当に馬鹿で良かった。後はもう、流れに乗じてここから去るだけだな。俺は横山紫に背中を向け振り向きざまにこう告げた。


「じゃあ、俺は行くから。加藤純一郎をよろしくな」

「バウ!」


 横山紫の表情は相変わらず分からなかったが、彼の頬に静かに涙が伝っていたのを俺は忘れないだろう。あぁ、キモかった。


──さて、刑務所を出たもののどうしようか。辺り一面に広がる異世界感の無さ。正直千葉の実家から何キロか歩けば見れそうなレベル。


「こう、もうちょっと華やかなもんを想像してたんだけどなぁ」


 辺りに飛び交う謎のマシンとか、空飛ぶ人間だとか、うんたらかんたら。特に行き場もなく、俯きながらさまよっていると、肩にドンッと衝撃が走る。


「イテッ! 誰だよ!」


 ふと、顔を上げると目の前には見知らぬ女が立っていた。


「ちょっと! あなた、ちゃんと前見て歩いてるの?」

「は? てめぇがぶつかってきたんだろうがよ! 邪魔邪魔、どけや!」

「な、何! ぶつかっといてその言い草は!」

「チッ、ピーチクパーチクうっせぇなぁ! こっちも忙しいんだよばーーーーーーーーか」

「もう! なんなのあなたは!」


 女は沸点が低いのか、顔を真っ赤にしてこちらに近づいてくる。肩ぶつかったくらいで何マジになっちゃってんの? キツいわ。


「今俺は、困ってんだよ! 急に異世界だかなんだかに飛ばされて、金も住むところもねぇしよ!」


 俺の発言に女がピクッと反応を示した。喧嘩腰だった姿勢から一転、ゆっくりと近づいて俺の全身を興味深げに観察し始めた。


「な、なんだよ」

「……あなた、もしかして異世界人なの? 道理で何だかおかしな格好で、言動もおかしいんだ」


 言動はともかく服装は……ハッ……気づいた。この格好はおかしい。俺の格好は上着だけ看守のコートを着た囚人服のままだった。何故これであそこから出られたんだ。


「あ、っていうか異世界の概念とかあったのかよ、すげぇな……」

「あなたみたいな常識を欠いた人は初めてだけど」


 こいついちいちイラつくな。いかにも女って感じ。めっちゃ上から目線だし。でも、待てよ。こいつは利用する価値があるんじゃねぇか? よく見てみると、顔もそこそこだし、スタイルだって悪いわけじゃねぇ。なら別に……


「はぁ、もう異世界人ってことならいいよ。謝る気も無いでしょうし、今回は許してあげる。さよなら」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! さっきも言った通り俺、ここに来たばかりで金も住むとこもねぇんだ! 頼む! 一緒に連れてってくれ!」

「はい? さっきはあんなでかい態度取ってたのに、急にそんなこと言われたって……」

「お願いします!」


 俺は地面に頭を擦り付け、いわゆる土下座をした。もうプライドなんか知ったこっちゃねぇ! 生きるのに必死なんだこっちも!


「ちょっと! こんな町中で土下座だなんて……みんな見てるでしょ! ほ、ほら……」


『うわぁ……あの女土下座なんてさせてる……』

『男の方は囚人服? そういうプレイかしら』

『ツウィッターに投稿しよ』


「分かった! 分かったから! いいよ、ついてきても!」

「本当かっ? よっしゃあああああ!」

「ただし! ただしよ? 条件があるの!」

「え?」

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