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7 牢入ってメチャクチャして寝るマン

「着いた……着いたのか……」


 森を抜けて、ほどなく歩いたところにようやく、道に光が射した。都市というほどの所ではない。控えめに言うと町。しかし、いまのおれにはそんなことはどうでも良かった。


「あぁ、ここまで来るのにどれだけ掛かったか……」


 死ぬ思いまでして、一人犠牲にして、ようやく俺の人生にも光が射したんだぁ。おぼつかない足で俺は精一杯走る。


「こんにちはーーーーーー正義のヒーロー加藤純一郎が来ましたよーーーー」


 しかし、誰もこなかった。


「迎えぐらいしろや! 貧困市民共がよぉ!?」


 そこまで言ってようやく家からチラホラと住人が出てきた。ヒーローを迎えに来たというより、怪人を遠目に見守っているという感じだ。


 まぁ無理もないだろう。数ヵ月の森林生活で俺の見た目は、刻一刻と悪化していった。前から細かった腕は断線したコードのようになり、顔の頬骨もすっかり無くなってしまい、もはや別人だ。


 今の俺は、アマゾンの原住民と間違えられてもしょうがない。なんなら人間と認識されなくてもおかしくない。そんな俺が町人達と距離を詰めようとするも、一歩進めば町人全員が一歩退く。


 これはあれか。ライオン等の猛獣にある、檻の中に居ると皆が皆興味を示し寄ってくるのに対し、その檻が消えた途端、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。


 人間はどれ程強い相手でも、相手が手を出せる状況になければ慢心する。今の俺はどうだ。檻から解き放たれたライオンそのものだ。


 ここから導き出される答えはそう、俺が相手に手を出せる状況じゃなくすればいいだけだ。


「お、おい。あいつ何かしだしたぞ……」


 遠巻きに見ている奴らに対し、俺は着ている服を脱いで手足に縛り付けた。パンツ一丁にはなってしまったが、これでこの町の奴らも俺が敵ではないということが伝わっただろう。やれやれ、手間の掛かる連中だ。


「うわっ、キモッ、おい! 今の内にこいつ取り押さえようぜ!」

「え……ふ、ふざけんなよ、バカ! そこは皆で可愛がれよ! イテェッ! なあ、なんでそうやって弱者をいじめるの? 楽しいか? 弱者をいじめてよぉ!?」


 俺は一瞬の内に押さえつけられて、そのままどこかに連れ去られて行く。クソッ、薄情者共が! アンガ田中みたいな扱いしやがって……


──「ここはどこなんだ……? 縛り上げられてからの記憶が全くねぇ……」


 周囲は高い塀に囲まれており、それ以外に変わった点と言えば、黒く光る鉄格子が何本かだけ正面にあった。


 ……俺の知っている知識だと、ここは牢屋だ。ということはだ。俺は牢屋に入れられたということになる。


「やだ! 暗いよ! 怖いよ! 助けて! うわああああああああああああああ」


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! マママッッマママッマッマッマママ。


 彼はパニック障害を患っていた。脳内に異変を察知するとこのように精神状態が狂ってしまい、まともに喋ることが出来なくなってしまう。


 頑丈で分厚い壁は本調子ではない純一郎の声など簡単に跳ね除ける。叫び続けること数分、この声が届くことは果たしてもう無いのだろうか。


「うるさい! 夜中に一人で騒いでるんじゃない!」


 なんと、見守りを任された看守の一人が純一郎に近づいて来た。そして、鉄格子の前までやって来て牢の内部の確認を始める。この状況を機に、純一郎の頭はようやく回り始めた。


「すきありいいいいいいいいいいいいいい」

「なっ! モガッ!」


 断線したコードのような腕と、針のような体はこのためにあったんだ。俺は自らの体を活かし、鉄格子を悠々とすり抜けた。その瞬間を狙い、看守の後ろから首を絞め落としてやったってわけだ。


「我ながら完璧な作戦だ! アッハッハッハッハッハ!……」

「おい、脱獄者だ! 捕まえろ!」


 成功を祝い安堵の大笑いをしていると、どこからともなくやって来た他の看守が、何人かで俺を取り囲むように近づいてきた。


「てめぇらには人間の心がねぇのかよ!? 普通こんな脱獄成功してる雰囲気がしてたら、空気を読んで看守は追ってこねぇんだぞ!」

「牢屋で堂々と高笑いしているバカが居たら捕まえるに決まってるだろ! どこのゲームの話だ! 現実にわざと罪人を逃がすような奴は居ない!」

「ちくしょおおおおおおおおおおお」


 ああ、意識が……トルネコも死んだ時はこんな気分だったんかな。ごめんな、何回も殺しちまってよ……


──「おい、目を覚ませ! 横山紫(よこやまむらさき)会長が直々にお話を希望だ」


 なんだ、もう朝か? 眠い瞼を擦り、鉄窓を見上げるとそれだけで分かる朝の光。ここが牢屋じゃなければ最高の朝だったのに。はぁ……取り押さえられてからずっと寝てたのか。しかも今度は呼び出し……大変だな、ヒーローって役柄も。


 俺は牢屋から引っ張り出されて、言われるがままに看守の足跡を追う。


「おい、ちょっと聞いていいか?」

「なんだ、手短に話せ」

「その横山紫って奴は誰なんだ?」

「……学の無さそうなお前には分からないかもしれないが、会長はこの立川(たてかわ)町の町長でおわせられる。そして、同時にこの『横山独房カンパニー』の会長としても名高い名誉あるお方だ」


 なんだよ、独房カンパニーて。テラキモス。どこの世界の横山もクソきめぇや。


「さぁさ、ここが会長の部屋だ。くれぐれも粗相の無いように!」

「おう、どうも、ここまでの道案内ご苦労、さんっ!」


 俺はクルッと踵を返した看守に対して二度目となる絞め落としを実行した。ちなみに昨晩と同じ看守だった。


「へっ……一度やったからって同じ手が来ないとでも思ったか? 今度は完璧だ。このフロアには会長しか居ない。だから前みたいに、無駄な援軍を呼ばれる心配も無いからな」


 そうと分かれば後はずらかるだけだ。こいつの服を借りてっと……


「バウ! そこで何をしている!」

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