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怖い気持ち

作者: 鰯田鰹節



 病気で2ヶ月の療養休暇に入った。いよいよ年明けから復職する。それがとても怖い。

 来週、職場に行かなくてはいけない。入念に打ち合わせしないと、1月からスッと戻れないからだ。

 春から異動した新しい職場なのに、同僚も上司も優しい。打ち合わせも、メールや電話などでも対応できる、わざわざ来なくても大丈夫だとも言ってくれた。良い人たちだ。

 なのに、「怖い」と思ってしまっている。


 心の奥に「怒られる」と思い込んでいる自分がいる。私の分の仕事は、今、同僚たちで手分けして受け持ってくれている。それが申し訳ない。

 本当にみんなが、

「あなたのせいではないのだから、謝らなくていいんですよ。」

「病気の時はお互い様ですよ。」

と言ってくれている。

 休みにも即座に入らせてくれた。無駄な引き継ぎで、出勤や電話をしなければいけない日も無かった。


 休みの期間中、つまり今は、静かに穏やかに治療に専念できている。

 休んだ分、お給料やボーナスがカットされることも無かった。だから治療費を心配することなく、科を跨いでしっかりと必要な通院ができた。

 


 もし、逆だったら…?

 逆に、私が健康で、同僚の誰かが病気でお休みすることになったら…?

 私はその人を怒らないし、謝らないでと言うだろう。私もきっと、割り当てられた仕事をこなすし、絶対に文句を言わないだろう。

 頭ではわかっているのに、私は職場に迷惑をかけていることが情けなくて、怒られることが怖くて仕方ない。


 だって、「逆」の場合は、ありえないからだ。私より欠勤が多い人なんて見たことがない。私ほど体が弱い同僚に会ったことがない。

 それに自分の病気はこれから先、投薬治療を何十年続けても完治しない。

 私は、寒い、もしくは暑い中、立っているだけで倒れる。とにかくすぐに貧血になる。視界が欠ける。耳も聞こえなくなる。下腹部痛やこみあげる吐き気でしゃがみ込んでしまう。

 こんな自分がこの先、同僚の誰かを助けられる気がしない。

 「お互い様」じゃない。私が社会にとって迷惑な存在に思えて、たまらなくなる。


 療養休暇に入ったばかりの時は、本当に寝たきりだった。療休直前の通勤なんて、最後の方は歩けなくて、タクシーで行って帰ってきていた。

 休暇に入り、少し動けるようになってからは、体力をつけることだけを目標にした。昨日より今日、今日より明日、と歩数を地道に増やす方法を取った。

 始めは1日100歩も歩けずバテていたが、最近は9000歩以上歩けるようになった。

 それでも勤務に耐えうる体力がある気は全然しない。ただ、もうこれ以上、職場に迷惑をかけたくない。復職してすぐまた休むなんて、したくない。

 だから私は、残りの日数も体力をつけることだけ頑張るつもりだ。



 この2ヶ月間で、危険なことは結構あった。


①包丁や野菜をみじん切りにする機械で、料理の際に手を切ったこと。

…これは、貧血の時にぼーっとしながら調理に取り掛かるとやる。

 下手したら、指がみじん切りだった。


②コンロの火をつけっぱなしにしたままで忘れていたこと。

…これも同じ。

 フライパンが熱されて、爆発しそうになっていた。


③グリルにサイズの合わないシリコンの器を入れて燃やしたこと。

…グラタン作ろうとしたら、気がついたらシリコン燃えていた。

 ボヤ騒ぎ。


④外で倒れたこと。

…貧血でグッタリして、ソファーで横になったまま無反応。

 こうなると、そのまま様子見か、下手したら救護室か救急車。


⑤左下腹部で、全く動けなくなったこと。

…あまりの痛みに、道でしゃがむしかできなかった。

 鎮痛剤を飲んで、効くまでは道端に座っていた。



 全部いきなり解決はできない。起こらないように努力したい。それには、まずいつでも頭が回るようにしておきたい。

 一度貧血になると、頭が回らなくなる。回復に時間がかかる。意識消失した場合、最低でも1時間くらいは目が覚めない。

 おくすり手帳は肌身離せない。



 先週、管理職から電話があった。

「復職するにあたってどんな努力をするか。」

と尋ねられた。

 正直、聞かれた時、モヤモヤした。

 管理職は、言葉のチョイスがストレートな人だ。別に私を審査するつもりではなかった。それは、理解できる。でも、私はとても嫌な質問だなと直感的に思った。

 だから、「体力増強…?です…?」と答えておいた。


 さて、この管理職との電話でのやり取りを夫に話したところ、夫は怒った。

「そんなのは、病気で休んでいる人にする質問じゃない。」

「努力するのはあなたじゃないよ。職場の労働環境の改善を、管理職がすべき!」

と、珍しく憤慨していた。

 夫は大変温厚なので、こんな風に怒ることは滅多にない。

 夫も別の会社で管理職をやっている。それで、働く人の権利や社員の人権を守る側で、いつも意見をくれる。

 夫と話していて、あーそうか、私は頑張って頑張って病気になったから、これ以上、何を頑張るとか…ズカズカ聞かれたくなかったなあ〜と、つくづく感じてしまったのだ。

 管理職に悪気はないのはわかる。心配してくれたこその言葉ってこともわかる。

 が、言い方って大事だ。受け取った自分は、「生半可な努力じゃだめなんだ…!」って、一気に不安になってしまったのだ…。


 昨日は、全く起き上がれない日だった。鉄剤を飲んでも動けなかった。目が覚めるたびに、怖い気持ちが湧き起こってきた。

 夜になるにつれて、少しずつ、意識がはっきりしてきた。なろうで、ある人のエッセイを読んだ。

 ずっとずーっと遡ってまで、珍しく、追いかけて読んだ。仕事についての考え方のエッセイが、とても面白かったのだ。

 しかも、いっぱいあって、全然飽きなかった。

 「みなさんはどうですか? 」じゃなくて、「私は自分の仕事に対してこう考えている! 」と書かれていた。全て納得できる内容だった。


 そもそも、私は、読者に呼びかけをしている文章があまり好みじゃない。すうっと中身に入っていける文章の方が好きだ。

 その人のエッセイは、全部面白かった。わかりやすかった。仕事以外のことを書いたものも、面白かった。短い時間で読めるのもありがたかった。

 もちろん、他の人の作品にも励まされている。復職への怖い気持ちをいったん手放して、物語やエッセイを読む。読み終わった後、荒れていた気持ちが落ち着いているのだ。


 怖い気持ちはあるのだが、なろうで、私はとても勇気をもらっている。

 このサイトに、画面の向こう側の人たちに、心から感謝している。



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― 新着の感想 ―
[一言] 復職の目途が立つまで頑張って治療に専念された事が凄いと思います。 お疲れ様です。 これからも大変だと思われますが、応援しております。 病気になりたくてなる人なんていません。 病休は法律で認…
[良い点] 気持ちをどうお伝えすればいいのかわからないのですが、応援しています!
[一言] エッセイを読んで励まされるのすごくよく分かります。 たらこもここへ来てエッセイを読むようになって、悩んでいるのは自分だけじゃないんだって分かって、勇気を貰えたような気がしました。 うつうつ…
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