訪問
ある平日の朝。
玄関前にスーツ姿の男が立っていた。
我が家の周辺は飛び込みのセールスマンも多いと聞くが、ましてや特殊詐欺に騙されるようなわたしではない。
この男がどのような素性にせよ、毅然とした態度で臨むことにした。
「ウチに何か御用でしょうか?」
江戸っ子気質なわたしの圧にも男は動じない。
それどころか、カバンからパンフレットを取り出しつつも妙なことを言い始めた。
「今日のほうがご都合が良いということでしたので、本日お伺いさせて頂きました。
では、早速ですが新商品のご紹介を始めたいと思います」
「お前を呼んだ覚えなんてない! しつこいようなら警察を呼ぶぞ」
馬鹿にするにも程がある。このようなセールスマンと約束などしてはいない。
わたしはスマホをちらつかせ、通報も辞さない姿勢を見せつけた。
「なるほど、今日もご都合が悪いようで……。また日を改めます」
スマホでどこかにかけるフリをすると、面倒事は勘弁と言わんばかりに男は退散した。
数日後。
胡散臭いセールスマンのことなどすっかり忘れていたわたしは、朝から妻と口論をしてしまい、気分転換にと散歩に出かけることにした。
しかし玄関を開けて外に出ると、またあのセールスマンが立っているではないか。
「お客様、今日はお求めになりますよね?」
すまし顔で商品を薦める男に対し、気が高ぶっていたわたしは思わずこう怒鳴った。
「またお前か、おととい来やがれ!!」
(すこし・ふしぎシリーズ『訪問』 おわり)