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苦労人副騎士団長と最強女公爵による思い出話  作者: 波望
第一章 学園時代の思い出話 〜剣術大会
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第5話 悪役令嬢の話②

悪役令嬢は、果たして何をするべきか。

令嬢としてのマナーを磨き、学問に取り組む……いいや、確かにそれも大切だがそれはあくまでもそれは普通の貴族令嬢の話。

悪役令嬢は違う。

来る日に備え、鍛えて金を貯金をする。

その他にも計画的に断罪されないように策を練るのが悪役令嬢というものだ。


しかし!


私は、悪役令嬢とは言えど断罪されることはない。

ということは、マナーやら勉強やらダンスやらに毎日毎日取り組まなければならないのだ。

断罪されることがないから。

そんなの嫌だ。

スマホも漫画もゲームもないこの世界で、私に娯楽がないこの世界で勉強漬けだなんて!

まあ、前世では成績はいい方だったし、そんなに困らないと思うけど、マナーはなぁ。

これは嫌だな、面倒くさそう。

というか、前世を思い出してだいたい一週間経ったけど実際面倒だった。

食事やら振る舞いやらエトセトラエトセトラ。

一応、こなしてはいるけどやってらんない。


「よし、ストレスが溜まる時は外で体を動かそう」


そんなわけで私は自分の部屋の椅子からおり、そう宣言した。

前世みたいに気軽に走り回ったりは出来ないけど庭を散歩したりする程度であれば許してもらえる。

私は歩きながら考え事をするのが好きなのだ。

早速庭へ出ようと扉を開けると、そこには今日もキッチリと髪をまとめたできる専属メイドのサラが立っていた。


「お嬢様」


「サラ。一体どうしたの?」


この時間帯は朝食の片付けとかしてるはずなのに珍しい。

何かあったのかしら?

私と同様に不思議そうな顔をしながら彼女はクローゼットの方を指さした。


「今日はこれから王城の方で顔合わせですよね。なのでドレスの準備に伺いました」


王城、顔合わせ。

そんなんあったっけ?

でも、サラが言うことならおそらく確かだ。

なんてったってサラは優秀な所謂できる女であり私の記憶なんかよりもずっとあてになる。

記憶の蓋をひっくり返せば、ぼんやりと思い出してきた。

あれはいつだかの夕食時。

お父様が王子たちや宰相の息子やら国のトップの子供たちを合わせるための会をすると言っていた。

お兄様も参加するはずだ。


「……あ、そうね。予定よりサラが来るのが少し早かったから驚いたわ」


オホホホホとサラの言葉に笑ってみせるが、内心冷や汗ダラダラだ。

ヤバい、忘れてた。

しかも、王城なんて言ったら!

攻略対象に出会ってしまう!

そんな私の葛藤におそらく気づいていないサラはクローゼットからグリーンのシンプルなドレスを取り出している。

そのドレスを見て私はなんだか目眩がしてきた。

これは攻略対象の過去を振り返る場面でカリーナが着ていたドレスだ。

顔合わせの際、カリーナは攻略対象、宰相の息子と婚約を結ばされるのだがその時のドレスは今のものと瓜二つ。

公爵令嬢は同じドレスを何回も着回さないだろうし間違いないだろう。

私は今日が勝負だ。

あのまったくタイプじゃない宰相の息子は絶対に嫌だ。


乙女ゲームの攻略対象であり宰相の息子である婚約者(予定)さんは顔立ちこそ整っているものの性格はかなり悪い。

俺様で自分中心じゃないと気が済まない俺様タイプ。しかもドS。

ヒロインには優しくなっていくけれどカリーナに対する態度は最悪だった。

それはこっち(プレイヤー)が不快になるくらい。

そこがいいっていう人もいたけれど私はそうは思わない。

そんな奴の婚約者なんてお断りだ。


「お嬢様、終わりました」


「ありがとう、サラ。いつものことながら本当に丁寧で早い仕事ぶりだわ」


心の中でノー婚約と思っていればサラがドレスに着替えさせてくれていた。

ミントグリーンのドレスは派手な装飾こそないものの分かる人であればひと目で一級品だと分かる天才デザイナーの自信作。

胸元にはダイヤモンドのネックレス、髪飾りは金色で蝶の細工が施されている。

カリーナの天使のような容姿も相まって今ここにとんでもない美貌のお姫様が爆誕した。

私が言うのもアレだけど超可愛い。

サラもコルセットをしめるのとか食事のことを考えて緩めにしてくれてるし本当にあっという間に着替えさせてくれるのだから凄いものだ。

お礼を言えば、はにかむようにサラが微笑んだ。

うーん、いいメイド。


「では、カイン様が待っていらっしゃるので行きましょうか」


「ええ」


私は力強く頷き、部屋を出た。


ーー


馬車の前にはお兄様と見送りのお父様とお母様がいた。

お兄様、カイン・サラヴィラ。

カリーナとよく似た容姿をした二つ上の兄だ。

何より攻略対象。

まあ、公爵家嫡男でイケメンなんていうスペックでまさか攻略対象じゃないわけがないよね。

肩まである銀色の髪をなびかせ、月のように輝く金色の瞳を細めたお兄様は神々しいくらいだ。

服装もいつもより豪華なものなので余計にそう見える。


「お兄様。今日は体調は大丈夫なのですか?」


カインが病弱なのはゲームと変わらない。

いくらゲームとはいえ、ここが少し心配な点だった。


「カリーナ。今日は大丈夫だよ、あの王太子に勝たなきゃいけないからね。気合いが入ってるんだ。それよりも新しいドレス、似合ってるね。いつも本当に可愛いけれど今日は特にーー」


「カイン、落ち着け」


早口で喋り出すお兄様にお父様が呆れたような口調で静止をかける。

その隣でお母様はクスクスと笑っていた。

どちらも容姿端麗で基本的に優しい、というか私とお母様にはかなり甘いけれど時には厳しいお父様と穏やかで優しいお母様。

お父様はお兄様に苦々しい顔をしながら告げた。


「あのなぁ、お前は王太子殿に敵対心を持ちすぎだ」


「いくらお父様とはいえ、ここだけは譲れません」


ハッキリキッパリ言い放つお兄様にお父様は溜息を着いた。

ゲームではそんなことなかったんだけどなぁ。

むしろ、王太子の側近だったのに。

なにがどうしてそうなってしまったのかは、私もよく知らない。


「まあまあ、いいじゃない。カインの好きにすれば」


お母様が笑いながら言いお兄様は満足そうに頷いた。

可笑しいな、ゲームじゃ天使キャラのはずなのに腹黒にしか見えない。


「……わかった。じゃあ、気をつけて行ってくるんだぞ。カイン、カリーナ」


疲労感たっぷりのお父様と笑顔のお母様に見送られ、私は王城へと出発するのだった。

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