第1話 問題児との出会い① sideプリアモンド
四年前、王立魔法学園。
春の桜が舞う季節。
俺、プリアモンド・キースは春休みを挟んで久しぶりに寮から学園へと登校していた。
「今日から私たちも三年生だね、プリアモンド」
隣を歩くのは肩まで伸ばした銀髪に月のように輝く金色の瞳の青年、カイン・サラヴィラ。
王族の次に権力を持つとも言われるサラヴィラ公爵家の長男で人形のような女性よりも美しいなんて噂の容姿の持ち主だ。
病弱で少々休みがちな俺のルームメイトだが、最近は調子がいいらしく今日は珍しく青白くない顔色で登校している。
「本当、もう三年なんて早いよな」
「そうだね。もう妹が入学してくるし」
カインのどことなく嬉しそうな横顔に顔が少し引き攣る。
コイツは妹が大好きで溺愛している、まあ、所謂シスコンというやつだ。
何度かサラヴィラ兄妹の会話を聞いたことがあるが、褒め言葉というか、ほぼ口説き文句を延々と喋っている兄とそれを無視して喋りたいことを雑に喋っている妹。全く会話が成立していない。
しかしながら妹、カリーナもカインとよく似た容姿をしているので、傍から見れば美しい兄妹が仲良く言葉を交わしているーーくらいにしか思わないんだろうが。
容姿が全てを隠してくれている。
「あと、平民の特待生が今回は二人いるんだとか」
「あー、そうえば話題になってたな」
魔法学園には魔法を使える平民が入学してくることがある。
魔法を使えるのは九割方が貴族なうえに魔法が使えたとしても平民は使い方を知らないため、本人に使える自覚がない場合がほとんどだ。
そのため、ここ十年ほど平民の入学者、特待生はいなかった。
まあ、魔法が使えても普通はハイレベルな入学試験に受からないんだけどな。
それが、今年は二人。
学園では当然話題になっている。
「確か、光の魔力の少女と闇の魔力の少年なんだって。すごいよね」
「どの口が言ってんだ、どの口が」
あははと笑うカインだが、コイツが言うとどうしても嫌味に聞こえてしまう。
水、火、風、土。
これが魔法において基礎となる四つだ。
普通はこの四つのうちから一つ。
二つ以上は学年に数人というところだろうか。
そして、四つとは別の珍しい魔力が、光と闇。
この二つは本当に珍しい。
この魔力のこともあって話題になってるんだろうな。
でも、カインはこんなもんじゃない。
光、闇を含む全種類の魔力が使える万能型。
数百年ぶりの逸材だ。
いくら平民とはいえ、こうなってくるとカインの言う言葉はやはり嫌味にしか聞こえないだろう。
「でも、私は家を継げるような能力は持ち合わせてないからね」
「それは……」
「お前巫山戯んじゃねーっ!」
突然聞こえてきたのは、この学園に似合わない怒鳴り声。
俺はカインと顔を見合せた。
何かあったらしい。
「また王太子様の癇癪かな?」
「殿下の声じゃないだろ。それにあの方はこんなヘマはしない」
のんびりと失礼なことを口にするカインとともに声のした方へ向かえば、そこにいたのは真っ白な髪に鋭い眼光の少年だった。
見たことの無い顔だ。
入学試験の結果が貼りだされている場所の前ということは、おそらく今日、入学してくる一年だろう。
人垣が出来ていてよく見えない。
「おや、プリアモンド。どうやら私の見立てはあながち間違ってなかったみたいだよ」
「は?」
カインが指さした方向には少し癖のある金髪に碧眼の青年ーー王太子のエドワード・グランタードがいた。
相変わらず絵本の王子様が出てきたかのような美形だ。
そして、殿下の後ろにいるのは桃色の髪に茶色の瞳の少女。
ふわふわした雰囲気を纏っているその少女は、殿下の後ろで震えている。
彼女も初めて見たのでおそらく一年生だろう。
普通は白髪が悪者に見える、が。
「さて、どう見ようか。プリアモンド」
カインは楽しそうに笑みを浮かべた。
殿下のことをあからさまに嫌っているカインは、まあ、かなり失礼な態度をとっている。
許されるのは公爵家の長男で言っていることが正論だからだ。
そうでなかったらとっくに不敬罪である。
「その女、前のテストは赤点だったんだぞ!?平民のなかでだ!それなのに貴族のなかで三番目!?そんなに貴族は勉強が出来ないのかよっ」
白髪が吠え、殿下はキッと白髪を睨んだ。
「それだけの理由でこれだけの大事を起こしたのか。くだらない、証拠もなしに。何よりそれじゃあ貴族を貶しているようじゃないか」
「あぁ?」
……カイン以上に不敬なやつがここにいた。
ただ、ここで止めるのはまた混乱を呼びそうだ。
なんてったって、相手は殿下なわけだしもう少し待つか。
ヒヤヒヤしながら見守っていれば、少女がおずおずと前に出た。
「わ、私は確かに成績が良くなかったけど!頑張って勉強したの!」
「無理だろ。馬鹿じゃねぇの?」
「そんなことない!頑張ったから……」
「はっ、一ヶ月でこんなに頭が良くなれたら苦労しねぇよ!」
鼻で笑う白髪に少女がヒッと声を上げて後退る。
そのやり取りに殿下は白髪を見つめ、小さく呟いた。
「平民如きが。これだから闇の魔力を持つやつは……」
失言。
それは平民と闇の魔力持ちを侮辱する言葉だった。
カインは一瞬目を輝かせ、僅かに笑みを浮かべると殿下の方に向かって歩き出した。
その姿はいつもより生き生きしてカインに気づいた生徒たちは道を開けた。
嫌な予感がする。
しょうがなく後ろを歩いていれば、カインは口を開いた。
「殿下」
それに気づいた殿下の顔が歪む。
「……カイン・サラヴィラ、プリアモンド・キース」
あぁ、始まった。
ていうか、俺もなのか……。