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苦労人副騎士団長と最強女公爵による思い出話  作者: 波望
序章 さあ、思い出話でもしましょうか
2/14

後編 こっちも変わらない

舞踏会というものは、腹の探り合いだ。


「侯爵家、プリアモンド・キース様並び、公爵家、カリーナ・サラヴィラ様ご入場です」


さっさと会場に入場し、俺は笑みを貼り付ける。

基本、早いもの順で入場するものだが、爵位が高いと繰り上がるため実に便利だ。

それはそうと、周囲がざわめいたのは気の所為だろうか。

まあ、学園の舞踏会じゃないし家族でも婚約者でもない俺たちが一緒に入場するのは……まあ、アレだな。

遠くでニヤニヤと笑っている父が物凄く気持ち悪いが、取り敢えず今は国王と王妃、王太子に挨拶するのが最優先だ。

王太子は俺の一つ下で学園時代の後輩でもある。

カリーナと馬鹿は二つ下だ。


「シリウス先輩が王太子、ですか。なんだか違和感が凄いですね」


隣でカリーナが呟く。

不敬な気がしないでもないが、俺は頷いた。


「そうだな。第二王子の印象が結構強いというか、王太子になられたのは最近だからな」


王太子であるシリウスは元々第二王子だ。

数年前に起こったとある事件で王太子になった訳だが、正式に発表されたのはゴタゴタがありつい最近である。

人だかりが出来ていたため、国王と王妃には短めにお決まりの挨拶で済ませた。

とはいえ、


「なんだ、プリアモンド。結局収まるところに納まったか」


隣で王妃と喋っているカリーナを見た国王の言葉に俺は思わず顔が虚無になりそうになり、グッと無理矢理口角を上げる。

整えられた黒髪に王族特有の宝石のような紫の瞳。

体格がよく、険しい顔つきをしているため圧と威厳が凄いが、その顔はニンマリと笑っていた。

誰のせいだと思ってんだか……。

ただ、父と同級生である国王とは割と長い付き合いなのでそういう結論になるのもまあ、分からなくはない。


「収まるところに納まってませんし。今回は臨時です」


まあ、反論はするけどな。

国王に反論とか何様だよと思うかもしれないが、これがうちの国の王なのだ。


「そんなこと言われてもなぁ。宰相はその気だろう?」


「宰相()、そうですね」


いろいろと攻防戦を繰り広げていれば、ふと国王は揶揄う気満々という顔から急に真面目な顔になって口を開いた。


「そうか。ところで、宰相の話はーー」


「陛下」


穏やかながらにどこか芯のある声だった。

王妃の声に国王は口を噤む。

これから始まるはずであった内容を察し、俺は内心ため息を着く。

王妃はおそらく気を使ってくれたのだろう。


「プリアモンド、カリーナ。これからもよろしくお願い致しますね」


最後に王妃が柔らかな表情でそう結び、俺たちはその場を離れた。

色鮮やかなドレスに、一流の食事、飾り付け。

どれもこの国では最上級のものばかりで輝いて見える。

そんな夢見心地な空間で聞こえてくる、声。


「やっぱ、あの第一王子は駄目だったよなぁ」


近くにいる貴族の話し声が聞こえてくる。


「特待生に選ばれなければ弟であるシリウス様より全てにおいて劣っておられた。唯一張り合えるのは顔くらいか?」


「言えてる。しかも、一人の女に酔ってあんなことを……」


「取り巻きだって使えない。シリウス様とおられた方々が今じゃ国を動かしてる」


悪意に満ちた言葉たちに俺はうんざりした。

確かに、元第一王子は馬鹿(ユーリ)より 馬鹿だったが、わざわざ言う必要もないだろうに。


もう一つの人だかりに移動する最中、カリーナがポツリと呟いた。


「やっぱり引きずってるんですね、あの事件」


あの事件というのは、元第一王子のアレで間違いないだろう。

まさかあんなに大事になるとは誰も思っていなかっただろうに。


「そうだな。何気に図太いシリウスたちはそんなに気にしてないが、周りはそう簡単に忘れてはくれない」


「当人たちは気にするような性格じゃないですもんねぇ」


そんな話をしていれば、人だかりの近くにたどり着いた。

中心にいるのは国王と同じ黒色の髪に紫の瞳の整った顔立ちをした青年。

長身だが顔立ちは王妃によく似ていて、少し垂れ目で優しげな眼差しをしている。

穏やかな外見と性格だがどこか冷酷な我がグランタード国の王太子、シリウス・グランタードだ。

シリウスはこちらに気づくとぱあっと笑顔になった。


「プリアモンドさん、カリーナちゃん!」


……こっちも変わってないな。

カリーナと顔を見合せ、苦笑しつつシリウスに最上級の礼をする。

王太子だということを忘れそうになるが、王族に最上級のことをするのは当たり前だ。

シリウスはニコニコと笑いながら話し出す。


「久しぶりだね。学園の頃みたいに気軽には会えないけど、元気にしてた?」


「はい。私は元気ですが、プリアモンド様は疲弊しておられております」


「あはは。ユーリくん絡みかな」


その通りだ。

この間は騎士団の訓練用の道具を粉砕して……いや、思い出さない方がいい。

ここで思い出してはいけない。

気を取り直そうとしたところでシリウスの後ろから一人の女性がやって来た。


「殿下、ここは学園ではございませんよ」


「アリシア」


シリウスにそう言い放ったのは彼の婚約者であるアリシア・レイニー。

レイニー公爵家の令嬢で凛とした佇まいに深緑の髪と瞳を持つ美人だ。

キリッとした目元に強気そうな雰囲気でふわふわした雰囲気のシリウスとは正反対だがこのくらいが丁度いいだろう。

普段のシリウスだと周りに舐められそうで不安になる。

いつもの口の悪さは封印しているため今日は令嬢感がいつもより強めだ。


「お久しぶりですわ、アリシア嬢」


カリーナが笑いかければ、アリシアも笑みを浮かべた。


「本当に久しぶりですわね、カリーナ様。今度またお茶会でもどうかしら?」


「是非。前回は王妃様もご一緒でしたわね」


「今回も参加してもらえたら嬉しいわ」


傍から見れば普通の令嬢。

ただ、俺たちから見ると、


「場所で人って変わるんですね、プリアモンドさん」


この言い様だ。


「あいつらは、まあそうだな」


いつもの二人の会話といえば、令嬢らしさなんて微塵も感じられない。


「おい、カリーナ!少し剣の訓練に付き合え」

「了解。アリシア、うちの護衛が今度手合わせしてくれるって」

「マジか。あの馬鹿強い野郎だろ?」

「ハンデありだよ。こっちは剣であっちは素手」

「扱いがバケモンじゃねーか」

「「あはは!」」


だいたい、いつもこんなもんだ。

淑やかさ?そんなのいらないわと割と最近あの二人は言っていた。

未来の国の女性ツートップ、しっかりしてくれ……。

とはいえ、清々しいくらいに男勝りな二人が俺は嫌いじゃないしシリウスだって表でさえ上手くやってくれればむしろこのくらいがいいと思っているだろう。

シリウスにはいろいろ訳があるが……まあ、それは過去の話だ。


ーー


「社交界、面倒。プリアモンド様、今度そっち(騎士団)行くので団長によろしくお願いします」


「勝手に決めるな」


本当にコイツのこと社交界の華とか言ったのは誰なんだろうな。

一通りの挨拶を終え、外へ出た俺たちはのんびりと雑談していた。

まあ、要は時間潰しだ。

人々の熱気はなく外は少し涼しい。

煌びやかな空間よりも薄暗いくらいがちょうど良かった。


「にしたって、久しぶりに会うとあのことも嫌でも思い出しますねぇ」


ふとカリーナがそう呟いた。

あのことを俺が忘れることはおそらくないだろう。

あの阿呆どものせいでどれだけ苦労したことか……!

思い出すだけでふつふつと怒りが湧いてくる。


「まあ、でも。あの時のことを話すのも悪くないかもしれませんね」


「そうか?」


顔を顰める俺にカリーナはニンマリと笑った。


「久しぶりに思い出話でもしましょうか」


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