第10話 馬鹿と華
久しぶりの投稿です(いつもじゃね?)。
読んでくださる方々には感謝感謝です。
剣術大会が一週間後に迫った日の放課後。
後輩たちに「練習の相手をして欲しい」と言われた俺は学院内にある演習場を訪れていた。
しかし、練習の相手などという言葉がただの口実であることを俺は知っている。
「ありがとうございます、キース様!これでようやく剣術大会に向けての練習が出来ます!」
「気にしなくていい。それにしてもお前らも大変だな。頑張れよ」
「はい!」
元気よく返事をし、剣術の鍛錬に勤しむ後輩たちに安堵する。
ヨティアスたちセレナ・ランスターの取り巻きが演習場を占領するせいで他の生徒が使えなくなり困っていた彼らが声をかけたのが俺だった。
アイツらに一言申したくても身分的に厳しいだろうし、俺の他に声をかけるならばシリウスかカインというところだが、王族のシリウスと美しすぎる容姿で公爵子息のカイン。
まあ、消去法で俺だよな。
「あ、プリアモンド先輩!」
聞き覚えのある声にすっかり馴染んだ先輩呼び。
振り返れば、そこにはカリーナがいた。
ドレス姿ではなく他の男子生徒と同じパンツ姿の軽装だ。
俺からすれば日常的に見るなんてことない光景だが、他の奴らから見ればなかなかに衝撃的な光景だろう。
「なんだ、カリーナ」
「ちょっと相手してくださいよ。今日はアリシアが王妃教育でいなくて暇なんです」
王妃教育。
いくら仲が悪くとも王太子の婚約者に間違いないアリシアは次期王妃であるため学ばなければいけないことが多い。
その学ばなければいけないことを詰め込んだカリキュラムが王妃教育というわけだ。
ただ、あのアリシアすらもちょっと涙目になるくらい厳しいらしいので相当なものだろう。
王太子はもうちょいアリシアを気遣ってもいいと思うけどな。
……いや、アイツは気遣われて喜ぶタイプでもないか。
「ああ、やるか」
「ありがとうございます」
ニコリと笑うカリーナを周りの奴らがチラチラと盗み見する。
確かにカリーナの笑顔は綺麗だけどな、集中しないと怪我するぞ……。
ここの兄妹は顔は綺麗だけどなんというか、容赦がない。
カリーナは俺と向かい合い、剣を構えた。
「さて、やりますか。とはいえ、純粋な剣術じゃ先輩に勝ったことないですけど」
「勝たれたら俺の立場がないからな」
俺も剣を構える。
しかし、それが始まることはなかった。
「見つけたぞ!クソ令嬢!」
演習場に響きわたる大声に周りの空気が凍りつく。
クソ令嬢。
それが誰に向けられた言葉なのか、全員がすぐに分かった。
そして、当然ながらその相手は「クソ令嬢」などと呼んで許される身分では無い。
真っ青な顔をした複数人の男子生徒が発言者───入学式の日に騒ぎを起こした白髪を羽交い締めにする。
「おまっ、サラヴィラ嬢になんてことを!」
「死にてぇのかお前は!」
「あ゛あ゛?」
なんで貴族学院にこんなの入れたんだよ……。
と、思ってしまうくらい白髪の態度は酷かった。
周りが焦るのもよく分かる。
羽交い締めにしていたうちの1人がハッとしたようにこちらに来ると、カリーナに深く頭を下げた。
「すみません、サラヴィラ様……!」
「貴方がわざわざ気にすることじゃありませんわ」
ふわりと微笑むカリーナはさぞかし美しく見えただろう。天女のように見えただろう。
その証拠に謝りに来た男子生徒の顔は真っ赤で心ここに在らずという感じだ。
俺にはカインと瓜二つにしか見えないけどな。
「で、ユーリさんは私になんの御用ですの?」
カリーナが少し離れた場所で羽交い締めにされている白髪───ユーリにそう投げかける。
ユーリはギリギリと歯を食いしばり、カリーナを睨みつけた。
なんて命知らずな……。
「俺と勝負しやがれ!これ以上逃げるんじゃねぇ!」
「あら?逃げた覚えはありませんわよ。負かした覚えならありますけれど……」
「黙りやがれ!」
本当によく煽る兄妹だ。
そして、周りは煽りに毎回ご丁寧にキレすぎだ。
ユーリはビキリと額に青筋を浮かべると、無理矢理男子生徒を引き剥がしてカリーナに向かって走り出した。
「覚悟しやがれぇ!」
ユーリがカリーナに剣を振り下ろす。
しかし、カリーナは表情一つ変えず剣を避けると、無駄のない動きで手刀を食らわせた。
声一つ出さず失神し地面に倒れたユーリに俺は半眼になる。
予想通りの展開とはいえ、なんだったんだコイツは……。
「あの、キース先輩。お気になさらないでください」
近くにいた男子生徒が呆れた目でユーリを見ながらそう声をかけてくる。
しゃがみこんでユーリが失神していることを確認すると、その男子生徒は言葉を続けた。
「いつもの事なんです。敵わないと分かりながらサラヴィラ様に突っかかりに行くのは」
いつもの事。
つまり、こうなると分かりながらいつも喧嘩を売りに行ってるのか、コイツは。
学習能力がないというか、
「馬鹿だろ、コイツ……」
これが、ユーリという平民の特待生のあだ名が馬鹿に決まった瞬間だった。