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Heaven's Gate  作者: みずたにみゆう
>第1編<
7/37

7章 : 孤児院

 陽が高らかと昇り、午前中の城内の警備も終わりの時刻を告げた。


 ライザは、その正午を伝える鐘の音と同時に、城の外へ向かって歩を進めていた。


 毎回のことではあるが、今頃、ライリス様は孤児院にいるに違いない。


 そんな彼女を探して、今朝もサイネル将軍が血相を変えて走り回っていた。


 最近では、彼女の行動パターンも大体掴めるようになり、今日も彼女の外出を見て見ぬ振りをした。


 城内では俺がライリス様の警護を行ない、午前中に彼女が外に出た場合は外回りをしている神官ファレスに任せている。


 いつの間にかファレスとコンビを組んでしまっている自分が、何とも不思議だった。




(よし、そろそろ孤児院に向かおう)


「ライザ、どこに行くの?」


 ギクリとしてゆっくりと振り返ると、リーナが不機嫌そうな顔をして立っていた。


「リーナか。どうしたんだよ?」


「それを訊いてるのはリーナの方だよ? 最近、お昼になるといつもどこかに出掛けてるじゃない」


「ああ。実は剣の修行をしに出掛けているんだ。ちょうどいい稽古仲間が見つかってね」


「ほんとう?」


 リーナが、疑いの眼差しを向けてくる。


「本当だって。今までに俺が嘘をついたことがあったか?」


「うんっ!」

 と、満面の笑みで返される。


「……って、あっさりと肯定するなぁ」


「当然だよ。ライザのことなら何でも分かるもん♪」


「何を言ってるんだ。そんなこと分かるはずがないだろ?」


「ほんとだよ! ライザが嘘をつく時って、顔のこの辺が微妙に引きつるんだから」

 と、リーナがふにふにと頬に触れる。


「や、やめろって……」


「ふふっ。照れちゃって。可愛い♪」


 相変わらずリーナの攻撃には為す術がない。彼女の元気さに、ただただ圧倒されるばかりだ。


 このままだと延々と彼女の話に付き合わされてしまいかねない。


「それじゃ、待ち合わせをしているから、この辺でな」


「え~~っ!」


 リーナが不服そうな顔をする。


「午後からは外回りだから、それが終わったら一緒に晩飯でも食べよう? な?」


「う、うん……」


「よし、決まりだな。それじゃ、また後で」


 ライザは極めて平静を装ったまま、静かにその場を後にした。



 ◆ ◇ ◆



(怪しまれなかっただろうか?)


 ライザは、城を出てようやく一息ついた。


 何とか上手く撒いたつもりだったが、勘の鋭いリーナのことだ。そろそろ感づいているに違いない。


 こうなったら、リーナにだけは話してしまってもいいかもしれない。


 要は心配症のサイネル将軍に伝わらなければいいのだ。


 無駄にあれこれと詮索されるよりは、素直に話してしまった方が後々ややこしいことにならない気がする。



(ん? あれは――)


 右手の方をブルームがすっと通り抜けた。


 その顔はいつもと変わらず無表情のままであった。


(あそこには城の裏庭しかないはずだが……、ブルームの奴、あんな場所に何の用があるんだ?)


 どう考えてみても、あからさまに怪しい。



 彼女の行動が気になったライザは、こっそりと跡を追ってみることにした。


 見失わない程度に間隔を取って彼女の背を追う。


 城の角を曲がり、裏庭へと続く道を進む。


 時々、小鳥の囀りが聞こえてくるのが何とも心地よかった。



 次第に道が開けてくる。


 裏庭に入る前で立ち止まると、眼前に広がる光景に息を飲んだ。


(これは……)


 まるで別世界に迷い込んだようだった。


 裏庭は充分に管理が行き届いているのか、木々が綺麗に切り整えられ、花が一面に咲き乱れていた。


 冬も近い季節に咲くこの花は、サイデルトキア名産のものだろうか。城下町で開かれる市などでたまに見かけるものによく似ていた。


 そしてその中央には、年季の入った噴水からキラキラと輝く水飛沫が綺麗な曲線を描いていた。


 この庭園を見ていると、芸術作品を拝んでいるような心地にさせられる。


 辛い現実ばかりが犇き合っているこの世界が嘘にように思えてくる。



(……おっと、いけない)


 一瞬本来の目的を忘れそうになったが、彼女の姿が視界に入ると、入り口にある木陰からそっとブルームの様子を窺った。


 彼女は、裏庭のあちらこちらを歩き回っては、何かを調べているようだった。


 目星をつけるたびに剣を地面に突き立てている。


「この辺だとは思うのだが……、わたしの検討違いだろうか?」

 と、ブルームがひとりごちる。


 その顔は普段他人の前で見せるような、冷たく無表情なものではなかった。真剣そのものである。


(……あいつ、何をしているんだ?)


 端から見れば、明らかに不審者でしかない。


 だが、腹に一物を置いている彼女のことだ。何か狙いがあってのことなのだろう。


 そう考えてみると、ますます今の彼女の行動が気に掛かった。


 もしかしたら、今回の一件と何か関係があるのだろうか?



 思考を働かせている隙に、彼女がこちらへと向かってきていた。


(マズイ、あいつが戻ってくる……!)


 ライザは咄嗟に茂みの中に潜り込む。


 その刹那、ブルームがその横を通り抜けた。


(ふう。気づかれなかったようだな……)


 ホッと胸を撫で下ろしていると――ザンッ、と茂みの中に剣が飛び込んできた。


「うわ――っ!?」


 ライザはたまらず外に飛び出す。


 顔を上げる。刹那、冷たい剣先がライザの喉元に触れた。


 剣先が陽光を浴びてキラリと光る。


 彼女の瞳は、普段のような冷徹さを取り戻していた。


 その威圧感を受けて、ライザは全身に玉のような汗を掻いていた。


「……尾行するなら、もう少し上手くやるんだな……」


 ブルームは静かに剣を鞘に収めると、ツカツカと歩いて行ってしまった。


「ブルーム……」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



(寄り道をしているうちに、遅くなってしまったな……)


 ようやく孤児院の脇まで辿り着いた。


 子供達が元気よくはしゃいでいる声が聞こえてくる。


 ファレスは既にいつもの場所から、中の様子を窺っていた。


「早いな、ジイさん」


「ライザ殿か」


「異常はないか?」


「今のところ、特に心配する必要もなさそうじゃ」


 院内を見ると、ライリス様を中心として、子供達が楽しそうに遊んでいた。


 こうして何事もないということは、見守る側にとっては喜ばしい限りである。


「ジイさん。俺が見ているから少し息抜きをしてきてもいいぞ? 今朝からずっとライリス様の後を追っていたんだろ?」


「別に儂に気を使う必要はないぞ。いつものことじゃからな」


「いつものことって……、そういえば、ジイさんって何年くらい王家に仕えているんだ?」


「二千年くらいかのう……」


「冗談は止せって」


「ふぉっふぉっふぉっ」


 ファレスはあごひげを撫でながら笑う。相変わらず本心の読めない食えないジイさんだ。


「となると五十年くらいか?」


「まあ、そんなものじゃ。サイネル将軍もそうじゃが、儂はライリス様が王家に嫁いでからこうしてずっと警護を続けておる」


「それは凄いな……」



「あー!」


 その時、ライザ達がいることに気づいたのか、誰かが駆け寄ってきた。


「ジイさん、まずいぞ。誰かがこっちに来るみたいだ」


「何じゃと!?」


 ふたりは慌ててどこかに隠れようとする。


「ライザくん!」


「その声は……」


 ぴたりと足を止めると、ゆっくりと振り返った。


「ティアナ!」


 ふたりの姿を見つけたのは、なんとティアナだった。


「やっぱり、ライザくんだ〜!」


 ティアナは、元気よく声を上げると、溢れんばかりの笑みを見せた。


「どうしてここに……?」


「あたし、ときどきここに遊びに来てるの。もしかして、ライザくんも?」


「えっ……、あ、ああ……」


 ライザがここにいることを不思議にも思わないティアナは、彼が自分と同じで遊びに来たものだと思っているらしい。


 ライザが見つかってしまって諦めたのか、ファレスも静かに姿を現した。


「あれ、おじいちゃんも居たんだ」


「酷いのう……。儂だってさっきからずっとここに居たんじゃぞ」


「うふふっ。いい子だから泣かないの」


「儂は泣いてなんかいないぞ!」


「うふふっ」


 ティアナは背伸びをしてファレスの頭を撫でてやると、今度はライザの方にやって来た。


「ライザくん。一緒に遊ぼう?」


「えっ……!?」


「あたし、ライザくんと一緒に遊びたいの。……ダメ?」


 ティアナは、そのけがれを知らない瞳で、ライザのことを見つめてくる。そんな顔をされて、断れる筈がなかった。


「いや、そんなことないよ。それじゃ、あっちへ行って、みんなと遊ぼうか」


「うんっ!」


 ティアナはライザの手を握ると、嬉しそうに孤児達の輪の中に入っていった。



 ◆ ◇ ◆



「さあ、行きますよ」


「は~~い!」


「頑張ろうね、ライザくん!」


 と、ティアナはガッツポーズを取る。


「う、うん……」


(何で俺までこんなことをしてるんだ?)


 情けなくなって頭を抱えていたが、すぐ横を見るとティアナが嬉しそうに笑っていた。


(……まあ、いいか)


 気を取り直して子供達の中に混じる。


 彼女の笑顔には何か目に見えない力でもあるのだろうか。子供の遊びなどつまらないと馬鹿にしていた気持ちはどこかに吹き飛んでいた。


「だ~る~ま~さ~ん~が――」


「えっとえっと……」


「転んだ!」


「はわっ!」


「だ~る~ま~さ~ん~が――」


「えっとえっとえっと……」


「転んだ!」


「はうっ!」


「だ~る~ま~さ~ん~が――」


「えっとえっとえっと……」


「転んだ!」


「うにゅっ!」


 ライリス様が掛け声を掛ける度に、ティアナが転びそうになるのを必死にこらえていた。


 止まる時の声が意味不明だったが、逆に、そんな彼女の仕草がたまらなく可愛く思えた。


「ティアナ。今、動いたわよ?」


「ほんと?」


「ええ」


「はうぅ~。捕まっちゃったの……」


 ティアナは、とぼとぼとライリス様の所に歩いていく。


 そして、ライリス様から伸びた、捕まっている子供達の列に加わる。


 ライザはそんな彼女の背中に声援を送る。


「ティアナ! 今すぐ助けてあげるからな!」


「うん。待ってるの!」



「おう。こんな所で女とイチャついてるとは、テメェも隅に置けねぇなぁ」

 と、ニヤけた顔をしたラスタが姿を現した。


「ラ、ラスタ! どうしてここに……!」


 ライザは、驚いて口から心臓が飛び出しそうになった。


 自然とライリス様や子供達の動きも止まった。


「ここんとこ、テメェがこっそりと城を抜け出すのを見て気になってたんだ。何かと思って後をつけてみれば……、こういうことだったとはな」


 ラスタの後ろを見ると、リーナが頬を膨らませながら立っていた。


(リーナの仕業か……!)


 やはり勘の鋭い彼女を誤魔化し切ることは出来なかったようだ。


 しかし、問題はそれだけではなかった。


 入り口の所を見てみると、サイネル将軍にコウエン、ブルームと、主要な顔触れが揃っていた。


(や、やば……)


「ライリス様、こんな所にいらしたのですか!」


 サイネル将軍は、孤児達と遊んでいるライリス様を見つけるや否や、彼女の許にすっ飛んでいってしまった。


 コウエンも苦笑しながらその後についていく。


(やっぱり……)


 ライザは予想通りの展開に頭を抱えた。


 これでライリス様の外出禁止は決定だろうか?

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